32:プライド<<<食い気
「魔法を教えていただけるのなら、わたしのドラゴンを貸してあげます」
わたしのセリフに真っ先に反応したのは、当然ながらヴァーリックだった。
『はあ!? なにを言っているんだ、主! 我はそんなの許さないぞ!』
「まあまあ。好きな物食べさせてあげるから」
『食べ物なんかで釣られないぞ! 我を見くびるな! ……で? なにを食べさせてくれるんだ?』
釣られてるんじゃないかーい!
本当にこのドラゴンは食い意地が張っているな……。
「あなたが望む物を全部食べさせてあげるわ」
『我の望む物だと……!?』
うーん、とヴァーリックは唸り出す。
自分のプライドと食い意地を秤にかけて悩んでいるのかと思いきや、『前に書物て見かけたカレエなるものも捨て難いし……いや、主は全部と言ったのだから他にも……』とブツブツ言っているだけだった。
自分のプライドよりも食い気を優先するらしい。
「キミの守護獣、本当にドラゴンなの? 嘘だったら、嘘ついたことを一生後悔させるけど」
さらっと怖いこと言っているよ、この人。
一生後悔させるってなにする気なの? いや、知らない方が幸せなこともたくさんあるものね。聞くのはやめよう。
「本当です。なんなら、今ここでお見せしましょうか?」
お見せするもなにも、わたしの頭にくっついている白いのがドラゴンなんですけどね。
ディランは少しの間わたしを見つめ、「いや、いい」と首を横に振った。
「あら。よろしいのですか?」
「見せるもなにも……キミの頭に乗っているその白い生き物がそうなんだろ? コウモリにしては魔力が巨大で……なんというか……高貴なオーラのようなものを感じる」
わたしはなにも感じないけどな。やっぱり魔法に関する知識や魔力の感知能力が凡人なわたしとは違うのだろうか。
……いや、わたしは凡人以下のポンコツだった……魔力を持つ人がわかるようなこともわたしにはわからないことが多い。そんなわたしと彼を比較するのがそもそもの間違いだった……。
こっそり凹んだわたしとは対称的に、ヴァーリックは『この人間わかる奴じゃないか』と嬉しそうに羽根をバタバタさせている。
だから、頭の上にいるときにバタバタするのはやめろと……!
「他の生き物からは感じたことのない魔力だ……キミがドラゴンなんだろう?」
ディランがヴァーリックに向かって話しかける。
ヴァーリックはわたしの頭から離れて、ディランの前へと飛ぶ。
『いかにも。我が主の守護を司るドラゴンだ』
えっへん、と胸を張る白いコウモリ。
コウモリの姿でドラゴンだって言われてもね……せめて小さなの元の姿になって言ってほしい。
こっそりそうヴァーリックに言うと、うむと頷いて、ミニサイズのドラゴンに変化する。
「へえ。ドラゴンって姿を自由自在に変えられるんだね?」
『当然だ。我らはあらゆる種の頂点に生物だからな。神よりこの世界を見守るようにといわれ、この世界を任されたのが我らドラゴンだ』
へえ、そうだったんだ。
全然知らなかった。
「神話の通り、か……興味深い」
ディランの目が輝いている。
魔法とか、幻獣とか大好きなんだなあ。こういうところは普通の男の子っぽい。
……と、微笑ましく思うのはおいおいにして。
「──それで? わたしのお願い、引き受けていただけますか?」
そう問いかけたわたしに、ディランは渋い顔をした。
しかし、不承不承といったふうに頷く。
「……仕方ない。嫌だけど、引き受けてあげる。本当に嫌なんだけどね」
イヤイヤ強調しないでほしい。
まあ、イヤイヤでも引き受けてくれたんだからいいか……いいと思おう。
「いつ教えるの? 今から?」
「あら。今からでもよろしいのですか?」
「早く終わらせたいからね」
「やる気になっていただけたようで嬉しいですわ。……ところで、お屋敷はこのままでも大丈夫なのですか?」
「ああ……」
今思い出した、というように背後を振り返ったディランは思いっきり顔を顰めた。
「……殿下に怒られそうだな……まあいいや。殿下に直すように手配してもらうか……」
この惨状、全部アンディに押し付けるつもりらしい。
皇家としてはディランを国内に引き止めたくて後見人をしているくらい、ディランという存在を重要視している。だから、多少のわがままやお強請りくらいは呑むだろう。
それでこの惨状の対応をしなけれはならなくなるだろうアンディには同情する。
「ちょっと手紙書いてくる」
「あ、それなら大丈夫です。直接お話できますよ」
「は?」
怪訝そうなディランに誕生日にアンディからもらった指輪を見せる。
「これで通話ができるそうです」
「へえ……いい物だね」
どんな術式かな、と興味深そうに指輪を見る。
とりあえず、わたしはアンディに指輪を通じて連絡をし、現状を報告した。
アンディは頭の痛そうな口調で、「……わかった。手配する」と言ってくれた。これでとりあえず、屋敷については大丈夫そうだ。
「キミ、凡人のくせに面白いものいっぱい持ってるんだねえ」
通話を終えたわたしに言ったディランのセリフに、イラッとした。凡人のくせにってなんだよ!
怒鳴りたいのを必死に堪え、笑顔を作る。
我慢だ、我慢。ここでディランの機嫌を損ねたら魔法を教えてもらえなくなってしまう──レナちゃんが。
「…………フフフ、ソウデスカ?」
取り繕ってそう言ったけれど、カタコトになってしまった。自分の未熟さを反省した……。




