29:わたしのせい
ゲームの通りに進んでいるものだと思っていた。
多少の違いはあれども、大筋はゲームの話通りにこの国の未来は進むのだと思い込んでいた。
だけど、この世界は確かな現実だった。リセットもやり直しもきかない世界。
未来はささやかなことで大きく変わることがあるという。だからタイムマシーンとか出てくる物語では、過去を変えないように、もしくは望み通りの未来を得るために苦心する。
きっと、レナちゃんの件もそれだ。
ゲームでは、セツコはレナちゃんと出会うのは学園でだった。だけど今のわたしはその前にレナちゃんに会ってしまっている。
きっとそのことが原因で、レナちゃんの処遇が悪化したんだ。
ゲームでのレナちゃんも、家族からは邪険にされて決していい環境ではなかった。それでもきちんとごはんは貰えていたし、服だって綺麗なものを着ていた。
だが、今のレナちゃんはどうだろう。
あの細い体、棒切れのような手足を見る限り、食事も満足に食べれていないのではないだろうか。それに服だって体に合ったとものじゃなく、年期の入ったものだった。
ゲームでは主人公らしく愛らしい外見だったのに、今のレナちゃんは愛らしい容姿とは言い難い有り様だ。
──全部、わたしのせいだ。
学園までレナちゃんに会うのを我慢すれば良かったのに、そうしなかったから。あのとき、レナちゃんに話しかけてしまったから。だからレナちゃんはあんなボロ屋で生活することを余儀なくされてしまった。
だから、わたしがレナちゃんをあの環境から救い出す。そしてゲームのように学園に通わせる。
そのためには定期的にレナちゃんの元に通い、彼女から信用されなければならない。
それと……。
「──これからは一人でデイヴィス家に行く?」
そう聞き返したアンディにわたしは頷く。
「まずはレナさんの信用を得たいの。そのためには定期的に彼女の元を訪れるのが一番だわ。アンディに毎回毎回、皇宮を抜け出させるわけにはいかない。だからわたし一人で行く。もちろん、ノアにもついてきてもらうけれど」
「デイヴィス家の人間に忍び込んだのが見つかったらどうするつもり?」
「もちろん逃げるわ。ヴァーリックもいるし、逃げるくらいならどうにでもなる。問い詰められても惚けるだけよ」
デイヴィス家より我が家の方が格が高い。
証拠もなくわたしを責めることはあの家にはできないだろう。
「……反対しても無駄なんだろうね」
「わたしがあの家の人間に見つかる前に、アンディにはレナさんを保護する手段とか理由を考えてほしいの」
「僕を利用しようとは……いい度胸だ」
そう言ったアンディの目は赤くなっていて、怒っているのがわかる。
だけど、今回ばかりは引くわけにはいかない。レナちゃんには光魔法をちゃんと使えるようになってもらわなければならないのだから。
震えそうになるのを必死に堪えて、背筋を伸ばし、お腹に力を入れる。
「この国のためなの。わかって、アンディ」
「……」
アンディは怒りを抑えるように目を閉じ、深く息を吐いた。
「…………いいだろう。今回は君の提案に乗ってあげる」
いつもよりも低いアンディの声音に、彼が感情を抑え込んでいるのを感じる。
とりあえず、わかってもらえたらしい。よかった、とホッと胸を撫で下ろしたところで、「ただし」とアンディが言い出し、構える。
「僕が彼女を保護する前にヘマをしたら、そのときは絶対に許さないから覚悟しておくんだね」
「……ええ。わかってる」
脅すような言い方だけれど、きっとアンディなりにわたしのことを心配してくれているんだろう。伊達に六年間共に研鑽してきた仲ではない。
「リック、ノア。僕がいない間、レベッカのことを頼む」
『我が主を守るのは当然のことだ』
「任せてくださいっス!」
力強く頷いたリックとノアにアンディは小さく頷き、わたしを見る。
「できるだけ早くレナ嬢を保護する。それまでの間は君に任せる。でも、僕への報告は必ずすること。わかったね?」
「ええ。わかった」
しっかりと頷いたわたしにアンディの瞳が柔ぐ。
それを確認して、ニッコリとする。
「それで、早速なのだけど」
「……なに?」
アンディは警戒した顔をする。
やだなあ、たいしたことじゃないってば。
「ディラン・テイラーの居場所を教えてちょうだい」
わたしから突然出た名に、アンディは驚きに目を見張った。
「どうして、と聞いても?」
「アンディがレナさんを保護するまでの間──ううん、保護してからも学園に入るまでの間は魔法について学んでもらう必要がある。わたしは魔法については人に教えられような腕前でないし、アンディが付きっきりで教えるわけにもいかないでしょう? でも、ディラン・テイラーなら……彼ならきっと適任だと思うの」
アンディは考え込むように腕を組む。
まあ、アンディの気持ちもわからなくはない。ディラン・テイラーはとても扱いの難しい存在だからね。




