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25:ゲームの主人公


 家に戻ろうとしたとき、わたしとアンディの目の前に突然白いコウモリが現れ、人の姿になる。

 それは久しぶりに見るヴァーリックの人型だった。


「リック!」

『ただいま戻ったぜ、主。そんなことより、我の分の菓子は?』


 そんなことよりって……本当にこのドラゴンは食い意地が張っている。帰ってきてすぐに『菓子は?』ってそれはないんじゃないの。

 それに「わかった、すぐ用意させよう」とか対応しているアンディもヴァーリックに甘すぎると思う。


 まあ……ヴァーリックらしいマイペースさにちょっとだけ安心もした。

 用意してもらったお菓子を食べ終え、満足したヴァーリックは真面目な顔をして話し出す。


 ……口の周りにお菓子のカスがついているから、真面目な顔も台無しなんだけどね。あとでとってあげよう。


『こちらの世界で起きている出来事を父上たちに伝えてきた。父上たちの見解も我と同じものだった。そして、向こうに戻ったことで判明したことがある』

「判明したこと?」

『……向こうでかなりの数の聖獣たちが行方不明になっているらしい。それとこちらの世界で起きていることを考えると……おそらく、聖獣たちが魔獣化し、こちらの世界に来ているんだと思われる』

「なんだって……?」


 思いの外、深刻な話だった。

 それはつまり、こちらの世界に充満している【黒い魔力】が向こうの世界にも溢れているということなんだろうか?


 その疑問をヴァーリックにぶつけると、彼は首を横に振った。


『いや、あちらで【黒い魔力】は感知されなかった』

「それじゃあ、どうして魔獣化なんて……」

『……これは我の推測なのだが……こちらに召喚された聖獣が魔獣化しているんじゃないか? そして召喚した人間は……』


 ヴァーリックの言葉の続きは察せられた。

 召喚者は魔獣化した自分の守護獣によって食われてしまった可能性が高い。


「……まずは裏付けを取ろう。守護獣を得た場合は神殿を通じて国に届出ることになっている。その中に行方不明、もしくは突然怪我を負った者がいないか確認をさせる」

『それがいいと思う』


 アンディの案にヴァーリックも頷く。

 だけど、わたしはいまいち信じられなかった。


「……でも……守護獣が魔獣化するなんて、聞いたことがないわ」

「魔獣化すれば高確率で襲われてしまう。仮に命があったとしても自分の守護獣に襲われたなんて、恥ずかしくて言えない人が多いんじゃないか? 僕ならきっと言えない。ただ魔獣に襲われたとだけ言うな」


 それもそうかもしれない。

 守護獣を召喚するのは主に貴族たちだ。見栄や世間体を気にするわたしたちには、守護獣が魔獣化したなんて屈辱に感じるのかも。


 そのせいで報告が上がらず、今の魔獣が蔓延る状況になってしまったのなら、それは見直すべきところだ。今後は守護獣の定期的な検査などを実施するべきなのかもしれない。


 そう口にしたわたしに、アンディは嬉しそうに笑う。


「うん、僕の教育が染みついてきたみたいだ」


 ……どういう意味なのよ。

 ギロリと睨んだわたしにアンディは微笑む。


「君にこの国を導く者として自覚が出てきた証さ。君の提案、父上にも言ってみるよ」


 皇帝陛下に!? 採用されたらどうしよう。お褒めの言葉をいただけたりして!?

 そわそわするわたしにアンディは先ほどは打って変わって呆れた顔をする。


「……やっぱり気のせいだったかな……」

『そんなことよりも、現状はどうするんだ? これ以上、我らの仲間を魔獣化させるわけにもいかないだろ』

「それもそうだね。魔獣化を止める方法……やっぱり【黒い魔力】が溢れ出る場所を突き止めて塞ぐのが一番いいんだろうけれど、塞ぐ方法がわからないんだよね?」

『今までは自然に塞がっていたからな。我が生まれてから、ここまで大規模に【黒い魔力】が溢れることはなかった。父上なら知っていそうだが……』


 チラリとヴァーリックがわたしを見る。

 アンディはヴァーリックの様子に気づかず、話を続ける。


「なら、塞がるのを待つか、塞ぐ方法を考えるしかない。今すぐどうこうできるわけじゃないから、【黒い魔力】のことは一旦忘れよう。魔獣化を止める方法だけど……光魔法の持ち主がいれば、なんとかなるかもしれない」

「光魔法って確か……浄化効果のある魔法のことだったかしら」

「その通り。魔獣化は【黒い魔力】に汚染されて起こるものだと推測できる。なら、光魔法ならそれを浄化することが可能なんじゃないか? もっとも……光魔法の使い手なんて、ここ何百年か生まれていないけれどね……」


 光魔法……光魔法ねえ……。

 考え込むわたしに、ヴァーリックが能天気に答えた。


『光魔法の持ち主なら、いるはずだぞ。誰かまでは知らないけど、父上がそんなことをおっしゃっていた』

「なんだって!? いや、でもそんな報告は……」


 ……わたしは光魔法の持ち主が誰かを知っている。それは乙女ゲームの主人公ちゃんが光魔法の持ち主だったからだ。


 でも、主人公ちゃんはそれを隠している。なぜなら、主人公ちゃんの両親は光魔法の存在を知らず、主人公ちゃんが扱う光魔法は不気味な力だと勘違いしていたから。だから主人公ちゃんも自分の力は不気味で悪いものなんだと思い込んでいる。


 そりゃあ、何百年も光魔法を扱える人がいないんだから、主人公ちゃんの両親がそう勘違いするのも無理はない。

 だけど、あまりにも変な力だから、主人公ちゃんの両親は主人公ちゃんの存在を病弱だと偽ってひた隠ししているんだよね……。


 学園に入学するときも、光魔法を決して誰にも知られるなと口を酸っぱくして言われていたし。


 このことをアンディに言うべきなんだろうけれど、なんで知っているのかと言われたら返答に困るし……うーん、どうしよう……。


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