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24:十六回目の誕生日と


 誕生日当日、わたしは約束通りにアンディのもとを訪れた。

 アンディはいつも通りのアルカイックスマイルを浮かべてわたしを出迎え、席までエスコートする。


 ……なに? いつもエスコートなんてしてくれないのに。なにを企んでいるんだろうか……。


 疑った目をしたわたしに気づいたのか、アンディは少し悲しそうな顔をする。

 わざとらしいな。


「そんな目をしなくても、なにもしないよ。純粋に君の誕生日を祝いたいだけさ」

「へえ、そう」


 信じられないんですけど。

 疑った目をしたままのわたしにアンディは肩をすくめる。


「やれやれ。疑り深いなあ、君は」

「おかげさまで」


 ここまでわたしが疑うのは、これまでのアンディの行い結果である。信じて痛い目にあったのは数しれず。それでどうして信じろというのか。


「……僕は君のことは信用しているけれど」

「わたしも信用しているわ。でも、あなたがいつもよりも優しいときはなにか裏があることが多いから疑っているだけよ」

「本当に僕のことをよく理解しているね。頼もしい限りだよ」


 そう言って笑顔になったアンディに、わたしも笑みを返す。六年も付き合いがあれば、多少は気心がしれる。本当の笑顔をお互い見せられるくらいには、信頼関係が築けている。


「でも、今日は本当に君のお祝いをするだけだよ。君の好きな物を沢山用意したんだ」


 そう言ってアンディが合図を送ると、次々とメイドたちがお菓子を持ってくる。


「十六歳の誕生日おめでとう、レベッカ」

「ありがとう、アンディ」


 腹黒くてなにを企んでいるのかわからないアンディだけど、彼は根本的なところで優しい。厳しいこともたくさん言うけれど、それは相手のことを思ってのこと。それがわかったから、わたしは六年間、アンディが要求するレベルになれるように、必死に頑張った。


 たまにこうして飴をくれるし。

 アンディは飴と鞭の使い方が上手いなと思う。


 アンディが用意してくれたお菓子とお茶を飲みながら、ただ談笑する。平和だなあ、なんて勘違いしてしまいそうになるくらい、穏やかな時間だった。


 そろそろお暇しようかなと思ったところで、不意にアンディが真面目な顔をしてわたしを呼ぶ。


「──レベッカ」

「はい」

「これは僕からの誕生日プレゼント。受け取ってくれる?」


 そう言ってアンディが差し出したのは、小さな箱。

 その箱を見て、この間のノアの台詞が蘇る。


 ──サプライズプロポーズっスよ!


 …………まさか。いや、そんなまさか。

 だって、アンディにそんな気配はなかった。いやアンディのことだから上手く隠していただけかもしれないけれどでもそんな……そんなことって……。


 でもこの箱の大きさや素材を見るからに、指輪っぽいんだよなあ……。この世界でもプロポーズするときって指輪渡すんだっけ? 混乱してなにも考えられない!


「……これは?」

「僕なりの気持ちの表れだよ」

「……」


 気持ちの表れ? なに、それ。

 だってわたしたち、ただの共通の目的を持つ仲間なのに。それ以上でも、それ以下でもないのに。


「開けてもいい?」

「どうぞ」


 許可を貰って、恐る恐る箱を開ける。

 そこにはシンプルながらも、よく見ると丁寧な細工のされた指輪があった。真ん中には赤い色の石──恐らく魔法石が嵌められている。


「これって……」

「──学園を卒業したら、本格的に君が僕の妃になれるように父上に願い出ようと思う。これはその約束の証。これを君につけていてほしいんだ」


 僕とお揃いだよ、とアンディは自分の指にはめらた指輪を見せる。確かに同じデザインだ。


 しかしこれは……ノアの言う通り、プロポーズなのでは? 恋愛的な意味合いはまったくなさそうだけど、まあそんなもの要らないから別にいい。


 アンディの妃となることはつまり、皇妃となるということ。わたしの皇妃になるという目標が一歩前進したんだ!


「ありがとう、アンディ。とっても嬉しい」

 

 そう微笑むと、アンディもはにかむ。

 そしてわたしの右手の薬指に指輪をはめてくれた。

 指につけられた指輪を見ながら、わたしはアンディに問う。


「──それで?」

「うん?」


 首を傾げるアンディにわたしは笑顔のまま問う。


「これ、ただの指輪ではないんでしょう。なにが目的なの?」

「……本当に君は僕のことをよくわかっているね」


 感心しているのか呆れているのかよくわからない表情と声音でアンディは言う。


「当たり前でしょう。何年あなたと一緒にいると思っているの」

「やれやれ……理解され過ぎるのも困りものだなあ」


 そう言ってアンディは肩を竦める。

 そういうパフォーマンスはいいから、指輪のことを話してほしい。


「学園に入学すると、僕は寮に入ることになる。そうなると、君とのやり取りが不便になるでしょ。この指輪は少しの間なら会話ができる魔法具なんだ。まあ、それ以外にも使い方はあるけれど、それはおいおい言うよ」

「……やっぱり」


 変だと思ったんだ。アンディが突然指輪をくれるなんて。

 それは今までも花束をくれたり、髪飾りをくれたこともあったけれど、それはアンディの妃候補全員がもらっているもの。


 だけど、これはあきらかにそれらとは違う。わたしの指のサイズにきっちり合わせてあるし、素材も貴重な石が使われている。


「でも、この指輪が君が僕の妃候補の筆頭であるという印になるのも確かだから。だから、これは肌身離さずつけていて」

「ふうん、わかったわ」

「……あと、あいつがそろそろ帰ってくるから。君を取られないようにしとかないと……」

「あいつ?」


 アンディがそう呼ぶ人は一人しかいない。


「オスカー殿下が帰って来られるの?」

「ああ……うん。僕が寮に行くのと入れ違いくらいにね」


 どんよりしたアンディの様子に苦笑する。

 アンディは未だに自分の兄が苦手なのだ。どうにも克服できないらしい。

 それでも、ゲームで描かれていたよりは兄弟仲は良好だ。たまに届くオスカー殿下からの手紙では、アンディのことが綴られていることが多い。


「でも……意外だわ。あなたは皇宮から通うのかとばかり思っていた」

「そうしようとも思ったんだけどね。皇宮から通うとなると警備が大変になるだろうから、効率を考えて寮に入ることにしたんだ」


 自分の意志よりも効率重視するなんて、なんというかアンディらしい。

 まあでも、確かにそれが一番いいのかもしれない。今は皇都内でも魔獣が出没することが増えているから。


「だから、これまでのようには君と会えない。なにかあったときはこの指輪を使って連絡をして」


 なるほど、そのために用意したのか。

 なんというか……用意周到だな。でも、アンディとすぐに連絡が取れる手段が得られたのはありがたい。

 これからおそらく、ゲームが始まるのだから。


「わかった。ありがたく使わせてもらうわ」


 指輪を撫でながら頷くと、アンディは満足そうに笑った。



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