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21:ズルがしたい


 十歳のあの頃は対して気にしていなかった。

 結末がわかっているのだからそれでいいやと、気にも止めていなかった。


 だけどエンディングを迎えるにあたっての大事なエピソードがわからない。つまり、どういう過程を得てなにがそのとき起こっていたのかを、わたしは一切覚えていないのだ。覚えているのはスチルの画像と、主人公と攻略対象者の交わした会話くらい。


 いちばん重大なネタばらしをする場面を覚えていない。それって結構重大な欠損ではないだろうか。

 これから起こるだろうことはわかる。そしてそれを解決できるのは主人公と攻略対象者であることも知っている。


 だけど、どうやって解決したのかをわたしは知らない。だから、わたしが先回りして対策を──なんていうズルはできない。


 転生したときにズルができないように神様がその記憶だけ抜いたのかもしれない。確かに攻略方法が最初から知っているゲームをやってもつまらないし、強くてニューゲームも新たな高難易度ダンジョンが現れて、特別なイベントでもない限りやる気にはならない。


 そういうことだとわたしは思っているけれど、まあ、正直に言えば覚えていたかった。二度目の人生だけど、身の危険や国の行く末がかかっているようなものならズルしたいと思う。ゲームとは違うのだから。


「もしかして、最初イライラしている人が多いのは……」

『十中八九【黒い魔力】に汚染されているからだな。魔力の多いやつは自分の魔力が防いでくれるけど、魔力の少ない奴ほど汚染されやすい』

「対策は?」

『漏れたところを突き止めてこれ以上漏れないように塞ぐしかない。だが、それにはより強い【黒い魔力】を浴びることになる。汚染は免れない』

「……汚染されたらどうなる?」

『今の状況じゃ、汚染されたら終わりだ。魔獣化しないことを祈るくらいしかできないな。【黒い魔力】がなくなれば元には戻るだろうが……』


【黒い魔力】とやらを塞ぐしかないけれど、それをやるのは自殺行為──つまり、詰んでいる、ということか。


 なにそれ。そんな攻略方法のないことなんて起こり得る? 塞ごうとすれば死ぬし、塞がなければ国が滅茶苦茶になるなんて。


「手の施しようがないということか……」


 歯がゆそうに言うアンディにかける言葉が見つからない。


「せめて【黒い魔力】とやらの発生源がわかればな……」


 そう呟いたアンディにヴァーリックは事も無げに言う。


『あ。それならたぶんわかるぞ』


 わかるんかい!

 それならそうと、早く言ってくれれば……いや、それをこのコウモリに求めるのは無理か……人じゃないしな……。


「その方法は?」

『我のこの汚染された鱗を使うんだ。この鱗が真っ黒に染った場所周辺が【黒い魔力】の発生源だ。アンディはフェニックスを召喚できるし、奴に守らせていれば少しの間なら近づいても大丈夫なんじゃないか?』


 そこは大丈夫って言い切ってほしい。

 今のニュアンスだと、たぶんきっと大丈夫という、とても曖昧なものだ。そんなところにアンディを向かわせるわけにはいかない。だってアンディは、この国を導く皇帝となる人なのだから。


『だけどまあ、もう少し様子見でいいんじゃないか? 今なんとかしないとだめだっていう状況でもないんだろ?』

「それはそうだけど……」

『我の言ったことは最終手段だと思ってくれ。【黒い魔力】が溢れても自然に塞がれることが多いんだ。まだ様子見でも大丈夫だ』


 わたしの気持ちを察したように言ったヴァーリックに、アンディは不承不承といった様子でそれならと引き下がる。

 そんなアンディにわたしとしてもホッとする。長い付き合いのある相手が危険な場所に行くなんて、許容し難い。


 アンディとのお茶会を終えて帰る途中、不意にヴァーリックが人の姿になった。


「どうしたの、リック」

『なあ、主。ずっと聞きたかったんだが……おぬし、この世界の者ではないだろ?』


 ヴァーリックの言葉に息を飲む。

 わたしは彼に嘘をつけない。契約を交わしたとき、彼とわたしの間には見えない繋がりができて、それは相手の気持ちをなんとなく察することができる。


 わたしもヴァーリックが嘘をついたときはなんとなくわかるし、ヴァーリックも同じだろう。


「……どうしてそう思うの?」

『主に出会ったとき、不思議な感じがした。それがなんなのかはわからなかったが、契約をして見てわかった。おぬしの魂はこちらの世界の者と形が違う』


 魂に形なんてあるのだろうか? わたしにはわからないけれど、ヴァーリックみたいな聖獣たちにはわかるのかな。


「もしわたしが別の世界の人間だとして、そうだったらどうするの?」

『……どうもしない。しないが……もし、主が別の世界の者なら、伝えておなければならないことがある』


 ヴァーリックの言葉にわたしは眉を寄せる。

 伝えておかなければならないこと? 今このタイミングでそれを言ったことに、嫌な予感がする。

 しかし、わたしは聞かざるをえない。


「伝えておかなければならないことって……なに?」

 

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