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19:はじまりのはじまり


 ──あれから、早くも六年が経とうとしている。


 わたしはあと数ヶ月で十六歳となり、アンディはついこの間十六歳となった。

 アンディはすっかり成長し、可愛らしい少年から麗しい青年へと様変わりしている。ゲームで描かれていた通りの美青年に成長した。


 わたしもゲームの通りの姿だ。

 そしてわたしの頭の上には相変わらず白いコウモリ姿のヴァーリックが乗っている。

 こちらの世界が気に入ったらしく、お小遣いをせがんでは人の姿になり、フラフラと遊び歩いているようだ。お小遣いは主に食事で消えている。たまにお土産の城下のお菓子を分けてくれることもある。『主の面倒を見るのも我の役目だからな』というのが彼の主張。


 わたしとしては面倒見てるのはこっちだよ! ってツッコミたいんですけどね……主にお金をせびる守護獣がどこにいるんだよ……。食べる量もすごいし、本当に手のかかる守護獣だ。


 話は逸れたけれど、白いコウモリ姿でヴァーリックがわたしの頭に乗っていると、遠目から見ると白いリボンをしているように見える。そう気づいて思い出したのだけど、セツコは白いリボンをしているキャラだった。その白いリボンは白いコウモリ姿のヴァーリックの描写を簡略化したものだったのかもしれない。


 わたしはこの六年間、アンディが出す厳しい課題に取り組み、なんとかアンディの妃候補筆頭の地位を維持している。

 まあ……魔法に関してはポンコツ以外のなにものでもなく、アンディにチクチク嫌味を言われる日々ですけどね。


 セツコは魔法が不得意。そういえばそういう話があった気がするなあ、とぼんやり思う。

 現在わたしは初歩の魔法を全属性辛うじて使えるようになり、防御系の魔法に関しては無いよりはマシ程度の効果しか得られないありさまだ。


 守護獣でSSR引いたから魔法がポンコツになったのかなあ、なんて思っている。

 まあ、魔法が使えなくても、わたしにはヴァーリックがいるからなんとかなるだろうとはアンディの言葉である。


 最近はゲームの知識もすっかりと色褪せてしまい、十年前に書いたメモが頼りの綱だ。もうすぐゲームの開始時期だから、主人公ちゃんの動向にも目を光らせないといけない。わたしが皇妃になるために!


「もうすぐ学校が始まるね、レベッカ」


 優雅にお茶を飲みながらそう言ったアンディに、わたしは眉を寄せる。

 その学校こそが乙女ゲームの舞台となる。それになにより……。


「学校で君のそのポンコツな魔法の腕前が多少は良くなることを祈っているよ」


 ──そう、学校は主に魔法について学ぶ場所なのだ。

 秋からわたしが通う学校は中流階級から上流階級の十六歳になった娘が通う国立の女子校である。

 中流階級から上流階級に属する者は魔力が高い者が多い。魔力を完璧に制御させるため、そして優秀な人材を発掘するために設立された。


 絶対に通わないといけないわけではないけれど、まあ特別な理由がない限り大抵は通う。そこでの築いた交友関係や情報網がのちのち役立つことが多い、と言われているから。

 あとは皇族が通うのが通例だから、それに倣っているだけというのが実情な気もする。


 女子校があるならば男子校ももちろんある。男子も女子と同じく十六歳から通うことになる。つまり、アンディも今年から学園に通うのだ。

 

 この学園、男女別に別れているものの、向かい合わせに設立されているため、年頃の男女の出会いの場ともなっている。実際に学園がきっかけで出会い、婚約から結婚をする人も一定数存在する。


 普段の生活では男女別々だけど、月に一度だけ交流会が開かれ、そこが出会いの場となっている。

 この交流会はプチ夜会のようなものだ。将来、社交界に出入りするときの練習の機会でもある。


 そこで主人公ちゃんも攻略対象者たちと出会う。

 セツコはそれを邪魔したり助けたりしていた。


 そんな学園だけど、普段の授業はとても厳しいらしい……教師の指示通りに出来ないと居残りがあったり、ペナルティを科せられたりするのだとか。

 魔法ポンコツのわたしには不安しかない……。

 それを煽るようなことを言うアンディは鬼畜だと思う。


「まあ、心配してくださっているの? 意外とお優しいのね、アンディ」


 にこりと微笑み、嫌味を返す。

 伊達に六年、この鬼畜腹黒皇子と付き合ってきたわけじゃない。これくらいのやり取りはわたしたちにとっては挨拶みたいなものだ。


「僕が君を心配? まさか」


 ハッと鼻で笑うアンディにイラッとする。

 否定するなよ。少しは肯定しなさいよ。


「別に心配はしていないけれど……あまり無茶はしないように。最近はなにかと物騒だからね」


 やっぱり心配しているんじゃない。

 そう思ったけれど、冗談ではなく。真剣な声音で言ったアンディにわたしも真顔で頷く。

 


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