18:鬼と勘違い
わたしの召喚獣となったヴァーリックのことは、しばらくは公開しないことになった。アンディが両親と儀式を見守っていた神官に固く口止めをしていたので、恐らくヴァーリックのことが外部に漏れることはないだろう。
ゲームでセツコの守護獣についての説明がなかったのは、アンディによって箝口令がされていたからなのかな。それならば、わたしは今、ゲームと同じ道筋を進んでいることになるのだろうか。
真剣に考えているわたしの頭の上で、ヴァーリックが『飯はまだか!』と羽をバサバサしている。ちなみに今もまだコウモリの姿だ。どうやらその姿でわたしの頭の上に乗るのが気に入ったらしい。
地味に重くて首が凝るからやめてほしい。せめて肩に乗ってくれ……。
「ねえ、リック。あなたはずっとこっちの世界にいるの? アンディ様のフェニックスみたいに、呼ばれたときだけ来るというのが一般的だと聞いたけれど」
守護獣はわたしたちとは別次元の世界にいる──と、言われている。
守護獣となれる魔力を持ち、人間と意思疎通のできる獣は聖獣と呼ばれる。その中でも珍しい種族──たとえば、アンディのフェニックスやヴァーリックのようなドラゴンなどは幻獣と呼ぶ。
彼らは自由に自分たちの世界とこちらの世界を行き来できるという。
しかし、基本的には召喚されない限りはあちらの世界から出ることはなく、守護獣となった聖獣は、召喚者に必要とされたときだけこちらの世界にやってくる。
つまり、ヴァーリックのようにずっとこちらに居続ける守護獣は珍しいのだ。
『我をそんじょそこらの輩と一緒にするな。我は居たい場所にいるし、帰りたくなったら勝手に帰る』
「あ、そう……」
頭の上にいるので顔は見えないけれど、ヴァーリックはとんでもなく偉そうな顔をしているような気がする。
このドラゴン、いちいち偉そうなんだよなあ……なんでこんな偉そうなのがわたしの守護獣なんだろう。
『人間の食事を食べるのは久しぶりだ!』
「ドラゴンって人間の食べ物を食べてもいいの?」
『我らは基本的には食べなくても生きていけるが、食べても問題はない』
「ふうん……」
ドラゴンの生態は謎だ。
その後、ヴァーリックは用意された食事をすべて平らげて満足そうだった。食べづらいからと人の姿になったヴァーリックを見て、メイドがぎょっとしていた。どなたですかと聞かれ、誤魔化すのが大変だった……今度、お父様たちと口裏合わせしないと。
わたしの誕生日からちょうど一月経った頃、オスカー殿下が旅立った。
必ず強くなって戻ってくると、手を振るオスカー殿下を見送るアンディの顔は、少しだけ寂しそうだった。
……まあ、多少兄弟仲は改善されたとはいえ、過去のトラウマはそう簡単に克服できるものではないらしく、アンディはオスカー殿下を前にすると相変わらず挙動不審で言葉に詰まる。
オスカー殿下が帰ってくるまでに克服できるといいね、と思ってアンディを見る。わたしの視線に気づいたアンディは眉間に皺を寄せてわたしを睨む。
なんで睨まれた? もしや……アンディは人の心が読めるとか!?
……そんなわけないか。いや、でもアンディならありえそうで怖いんだよなあ……。
「レベッカ」
「はい?」
アンディに声をかけられてドキリとする。
「これからも僕のパートナーとして、よろしくね」
「は、はい……こちらこそ……」
なんだろうな……すごく嫌な予感がする……。
ニコリと綺麗に笑身を浮かべたアンディは、こう言った。
「じゃあ、今から一緒に魔法の訓練しようか」
「……え?」
魔法の……訓練……?
いや待ってよ。この前、オスカー殿下の体力トレーニングで散々な目に遭ったばかりなんだよ。しばらくは訓練なんて言葉聞きたくないんだよ。
「守護獣をきちんとコントロールするのも召喚者の役目。そして守護獣を制御するには、自身の魔力を高めることが大事。大丈夫。僕はオスカーみたいな無茶ぶりはしないよ」
嘘だ。その胡散臭い笑顔が嘘くさいんだよ。
「あ、あの……わたし、持病のしゃくが起こりそうなので、今日のところは遠慮しま……」
「──皇妃になりたいのなら、もちろんやるよねえ?」
わたしのセリフを遮ったアンディはそんな鬼畜なことを言う。
鬼だ……! 鬼がここにいる……!
この言い方では、断られないじゃないか! 断ったら「あ、皇妃になりたくないんだ」とか言って、わたしを妃候補から外すとかなんとか言い出すに決まっている!
「…………やらせていただきます……」
重たい口を開いてそう言ったわたしに、アンディは満足そうに頷く。
そしてわたしの手を取って歩き出す。
わたし的には連行されている気分だったけれど、周りからはそう思われなかったようだ。
このときのわたしたちの様子を見て仲睦まじい二人と勘違いをされることになるのだった。
10歳編は終わりです。
次話からは16歳(乙女ゲームパート)編です。よろしくお願いします。




