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17:名を呼ぶのは許可制


 気がつくと儀式の間に戻っていた。

 そしてわたしの目の前には──。


『よっ、主!』


 真っ白な長髪に真紅の瞳のノアと同じくらいの年齢であろう色黒の青年がニヤリと笑った。

 複雑な紋様が描かれた、どこかの民族衣装っぽい服装。前世だと……モンゴルの民族衣装に近いかな。


 ……というか、誰?


『これからよろしくな。人間の世界で暮らすのはいつぶりだろうか……三百年ぶりくらいか?』


 恐らくだけど……彼の会話から察するに、この青年はわたしが契約した白銀のドラゴンなのだろう。

 でもさぁ、さっきと口調違いすぎない? もう別人だよ? なぜか人間の姿になっているし……。


「あなた……ヴァーリック、なのよね?」

『そうとも。主に合わせて人の姿になってみたんだが……不服か? それと我の名を軽々しく呼ぶな』


 なんか……すごい偉そう……。

 いやでも偉そうなのは仕方ないのか。ドラゴンの世界で言う王様の家系だろうし。

 どこかの誰かと被るなぁ、とチラリと見た先にはアンドレアス殿下がいた。目が合ったので慌てて逸らす。


『我のことは……そうだな。偉大なるドラゴン様、もしくは偉大なるリック様と呼ぶといい』


 おかしい。わたしが主なのに、完全に主扱いされていない……!

 召喚獣との契約は、召喚した種族によっては命や魂を捧げることを条件に契約することがある。その代わり、契約者の命が尽きるまでは絶対服従する──そういう契約になっているはずだ。

 

 まあ、召喚した種族によっては対等な立場を望み、その代わり命までは取らないということもあるけれど、わたしの場合は明らかにそうではない。

 なのになんなの、この態度!

 わたしが主であることをこの駄ドラゴンにわからせないといけない……!


「レベッカ様……あの、そちらは……?」


 神官の声によって、ハッとする。

 そうだ。ここにいる人たちは突然現れたこの人型駄ドラゴンにびっくりしているはずだ。ちゃんとわたしの契約獣だって言わないと!


「これはわたしの召喚獣ですわ」


 胸を張って答えた。

 だけど、神官も両親でさえも疑っているようだった。

 それもそうか。だって今のこいつは人型だもんね……。


「私の目には人間のように見えるのですが……本当にレベッカ様の召喚獣なのですか?」


 そう問いかけた神官にちゃんと説明しようと口を開く前に、ヴァーリックが動いた。


『貴様、我が主を愚弄する気か? 無礼者め! 我が主を愚弄していいのは我だけだぞ!』


 いや、誰もわたしのこと愚弄するのは許してないけど。

 そうツッコミたいが、今はそれどころじゃない。とりあえずは我慢して……。


「……ヴァ……じゃなかった、リック。本来の姿……だと大きすぎるから……本来の姿の半分くらいの大きさになりなさい」


 毅然とそう言うと、ヴァーリックは不服そうな顔をし、『様をつけろ』と文句を言いながらも、言う通りにしてくれた。

 そして現れた姿に神官も両親も驚きを隠せないようだ。


 それはそうだ。伝説の白銀のドラゴンだからね!


「ドラゴン……! それも白銀のドラゴンなんて……! かつてドラゴンを召喚した者がいただろうか……これはすごい瞬間に立ち会ってしまった!」


 興奮気味な神官と「さすが我が娘……いや、すご過ぎないか私たちの娘……」と驚いているのか呆れているのかわからないお父様と、ただただ白銀のドラゴンに見蕩れているお母様。

 大人たちは軽くパニックになっている中で、アンドレアス殿下だけが余裕の表情だった。


「ドラゴンを召喚するとはね」

「アンドレアス殿下」

「さすが僕が見込んだだけはある。でも……君がドラゴンを召喚できたことは、まだ公開しない方がいいな」

「え? どうしてですか?」

「君を狙う輩が現れかねないからだよ。最悪、命を狙われる可能性もある……君が死んだところにそこのドラゴンを捕まえれば、お金になるからね」

「あ……」


 契約者が死んだとき、その契約した獣も多少のダメージを受けるという。恐らく精神的由来なものだ。その瞬間を狙い、幻獣を捕まえようとする不敬な輩は一定多数存在する。

 ドラゴンやフェニックスといった伝説の生き物なら、なおさらほしがる者は多いだろう。

 だから、アンドレアス殿下はフェニックスのことを口外しないように口止めしたのだ。


『なんだこの人間は』


 ヴァーリックはまた変身し──なぜか白いコウモリになってわたしの頭の上に停った。

 なんでコウモリ。そしてなぜ頭に乗る。


「はじめまして、ドラゴンの君王の子。僕はアンドレアス。レベッカの婚約者候補だよ」

『ほう……おまえ、王の一族だな? それに微かに神の血も混じっている。なるほどなぁ、おまえならば俺の主の番に相応しい』

「ちょっ……なに言っているの!」

「ドラゴンの君に認めてもらえるなんて光栄だよ」

「アンドレアス殿下!」


 ヴァーリックを調子に乗らせるようなことを言わないでほしい。出会ってわずか数分たらずだけれど、ヴァーリックが調子に乗ったら面倒なタイプなのは経験上わかる。


『気に入ったぞ、アンドレアス! おまえは特別に我のことを『リック』と呼ぶことを許す』

「ありがとう、リック。僕のことはどうかアンディと呼んでほしい」

『覚えておこう、アンディ』


 主を差し置いてすっかり仲良くなっている……。

 複雑な心境で一人と一匹の会話を聞いていると、アンドレアス殿下がわたしを見て、ニコッと笑う。


「君も、僕をアンディと呼ぶことを許可するよ」


 許可してくれなくて結構です。

 そう言いたいところだけれど、アンドレアス殿下に喧嘩を売るのは皇妃になるためには控えるべきだ。なので、ぐっと堪えて笑い返す。


「ありがとうございます、アンディ様」


 せめてもの反抗で、「様付け」で呼んだ。

 するとアンドレアス殿下ことアンディは、楽しそうに笑うのだった。


 ……なんで?


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