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16:わたしの守護獣


 そしてとうとう召喚の儀式の日がやってきた。

 わたしの気分を表すように、今日の天気は曇り空。分厚い曇は黒っぽく、今にも雨が降り出しそうだ。


 わたしは召喚の儀式用の白いワンピースを身につけ、召喚の儀式の間と呼ばれる神殿のとある一室の中央に立った。

 一段だけ高くなっているこの台座には魔法陣が描かれている。これは守護獣を喚びやすくするための魔法陣らしい。


 わたしから少し離れた場所には神官と両親、護衛のノアとちゃっかりアンドレアス殿下もいる。

 チラリとアンドレアス殿下に目を向けると目が合い、自然と笑い合う。きっとわたしの笑みはすごくぎこちなく見えたに違いない……。


 この儀式で召喚したのがショボい守護獣だったら、わたしは殿下に捨てられるんだ……。わたしのガチャ運から考えて、きっと今日でポイ。さようなら、皇妃を夢みたわたし……。


「では、レベッカ・キャンベル様の召喚の儀式を執り行います」


 神官がそう宣言し、わたしの前に立つ。

 台座の外から神官はわたしに声をかける。


「レベッカ様、まずは心を落ち着かせてください。心中に水面を思い描き、その水面が揺らがなくなったら、こう唱えるのです。『我が声に応えよ』と」

「はい」


 目を閉じて集中する。

 言われた通りに心の中に水面を思い浮かべる。その水面はゆらゆらと揺れていた。それを無心で眺め続けると、水面の揺れが徐々に小さくなる。


 それと同時に、不思議な感覚がした。

 なにかに呼ばれているような……なにかを呼んでいるような。なにかと繋がろうとしている、そんな感覚がする。


 やがて水面の揺れは止まった。

 それを見てわたしは静かに唱える。


「……我が声に応えよ」


 ──ピン、となにかに引っ張られる感覚がした。

 そして目を開けると、わたしは見知らぬ空間にいた。


「え? なにここ? あれ、わたし儀式の間にいたはずじゃ……」

『──おまえが我を呼んだ人間か』


 突然、頭の中に声が響いて驚く。


「な、なに……? 誰? 誰なの?」


 キョロキョロを周りを見てもただ白いだけで、人の姿はない。

 じゃあ、わたしに語りかけてきたのは一体なんなの?


『我を呼びつける人間がどのような人物か興味が湧いて起きてみたが……ただの小娘ではないか。つまらん』


 あれ? なんか悪口言われている?

 姿も見せないくせに一方的にわたしを見てちんちくりんの小娘ってバカにしてるなんて、とんでもなく失礼だ。


「姿も見せない相手にバカにされるいわれはないわ。ふん、どうせ人前に出る自信がないから姿を見せないんでしょ?」


 鼻で笑うわたしにカチンときたのか、声の主は『なんだと? 人間ごときが我を愚弄するとは生意気な!』と言う。


『そこまで言うならいいだろう。我が姿を見て恐れおののくがいい』

「誰が恐れおのの──え?」


 目の前に現れた巨大なシルエットにぽかんとする。

 なんか……思っていたのと違う……。


 トカゲのような巨大な体に、その体を宙に浮かばせて飛ぶことができるくらいの大きなコウモリみたいな羽。

 この姿はもしかしなくても……ドラゴン!?


 この世界でのドラゴンはフェニックス並に伝説の生き物である。かつては普通に見かけたらしいのだけど、いつの間にか姿を消した種族。

 どんな種族よりも強く、気高く、そして人間の数百倍の寿命を持つといわれている。


『どうだ、驚いただろう? 我を讃えるがいい』


 そう自慢げに言うドラゴンの鱗は白銀に輝いている。

 白銀のドラゴン……白銀のドラゴンだって?

 その鱗の色を持つのは、ドラゴンの中でも限られた数しかいない。わたしたちでいう、皇族のみが持つ色──つまり、このドラゴンはドラゴンを総べる一族の一員ということ。


 そんなドラゴンがなんで?

 もしかして……このドラゴンがわたしの守護獣?


「あのぉ……これ、ドッキリですよね?」

『どっきり?』

「あなた、本当は人間なんでしょ? ドラゴンの模型かなにかを運んでわたしを驚かそうとしているんですよね?」

『はあ?』

「あの、そういうの本当にいいですから。もう十分驚きましたし、なによりわたし、召喚の儀式に失敗するわけにはいかないんです」

『なぜ?』

「なぜって……わたしの野望のためです」

『おまえの野望とは?』

「それは皇妃になることです! 皇妃になって贅沢三昧な日々を送ること! そのために珍しい守護獣を呼ばなくちゃ行けないんです!」


 力強くそう言ったわたしに、ドラゴン(仮)さんは黙り込んだ。

 そして静かに問う。


『……皇妃などより、この世界をおまえの思いのままにできると言われたら、どうする?』

「この世界を思いのままに?」


 それって世界征服するってことだよね。

 それはそれでこの世界でしかできなさそう。皇妃よりもさらに贅沢に暮らせるだろうな。

 でも……。


「この世界なんていりません。世界の運営するのは面倒臭そうだし……わたしは皇妃で十分です」


 今でさえアレコレ知識を詰め込まないといけなくて大変なのだから、これが世界規模になったらと思うと……ゾッとする。

 地域によって言語も違うし、統一するのにはとてつもない労力が必要になるだろう。そこまでしたくない、というのがわたしの正直なところ。


 わたしはただ偉くなれればそれでいい。誰にも不当に虐げられなければ、誰かを余裕で守れるくらいの権力があれば、それでいいんだ。


『……おまえは欲があるのかないのかよくわからない奴だな。だが……気に入った。おまえの野望を叶える手伝いをしてやろう』


 おまえの名は、と聞かれて「レベッカ」と咄嗟に答えた。


『レベッカ、おまえのその魂と引き換えに、我が主となることを許す。おまえのその命尽きたとき、おまえの魂は我がいただく。我が名はヴァーリック。これからおまえを守護するものだ』


 白銀のドラゴンの姿が光り輝き、一筋の光がわたしを貫く。

 痛みはなく、不思議な温かさを感じた。この光を通じてドラゴンと通じ合えているかのような、そんな気がした。


「契約成立ね。これからよろしく、ヴァーリック」


 そう言った瞬間、まるでガラスが割れるかのように、白い世界が壊れた。



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