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15:守護獣※イメージ


 あのあとのアンドレアス殿下との会話はまったく頭に入って来なかった。

 家に帰ったわたしはしばらく呆然としていた。

 きっと虚ろな目をしていたと思う。


 そして、トドメを刺すかのように、その日の夕餉でお父様から召喚の儀式の日程について知らされた。


「レベッカ、おまえの召喚の儀式は一週間後に決まったよ」

「え」


 一週間後だと……?

 この世界の一週間は前世と同じく七日。月曜日は月の日、火曜日は火精霊の日、水曜日は水精霊の日、木曜日は風精霊の日、金曜日は無精霊の日、土曜日は土精霊の日、日曜日は太陽の日と言われている。


「一週間の太陽の日が儀式の日だ。それまでは心を平静に保つように」


 精神状態が不安定だと、召喚の儀式は失敗する。

 その場合、自ら召喚した獣に食べられてしまうことも過去にはあったのだとか。


 わたしの魔法属性は〝無〟。無属性とは、どの属性にも所属せず、上位魔法が使えない代わりに、すべての魔法を操ることができる。器用貧乏なタイプの属性だ。

 噂によれば、無属性の魔法もあるらしいのだけど……。


 今はそんなことよりも守護獣だ。

 無属性のわたしは、どの獣を召喚してもおかしくない。つまり、どんな獣が召喚されるかは召喚してみるまでわからない。


 魔法属性は遺伝する。火の魔法属性の子は火の魔法属性になり、召喚する獣も火属性の獣に限定される。父親と母親で属性が違う場合、父親の魔法属性が子に引き継がれることが多いけれど、稀に母親の魔法属性を引き継ぐ子もいる。オスカー殿下がその例だ。


 せめて無属性じゃなければ……無属性は本当にどの獣が召喚されるかわからないからなあ……。

 わたしはさらに憂鬱な気持ちになりながら、「はい、お父様」と大人しく返事をした。




「オレの守護獣っスか?」


 不思議そうに聞き返すノアに頷く。

 騎士団の正式な団員になるには守護獣がいることが条件の一つだったはずだ。だから同然、元団員のノアにもいるはずである。


「オレの守護獣はコイツっス」


 そう言ってノアが見せてくれたのは、ノアの手のひらに乗るくらいのハリネズミだった。


「ハリネズミ?」

「そうっス。意外と使えるんスよ、このリーネは。情報収集もしてくれるし、目覚ましになってくれるし、マッサージもしてくれるし……」

「……」


 守護獣をそんなことに使っていいのだろうか。

 いや、自分の魔力を分け与えているのだから、いいのかもしれない。


「今は小さいですけど、もっと大きくなるんスよ。大きくなると壁にもなってくれるし、このままでも針で攻撃して敵の注意を引いてくれるんス」

「そうなのね」


 小さい獣でも使い道はある。

 だけど貴族社会ではやっぱりもっと珍しかったり強い獣でないと……皇妃になるならなおさらだ。幻獣くらいはほしいところだ。アンドレアス殿下みたいにフェニックスのような伝説級の聖獣ではなくてらいいけれど。


「お嬢ももうすぐ儀式っスねえ。いやあ、お嬢の守護獣がどんなのなのか、すげー楽しみっス」

「それはどうも。……それよりもあなた、その言葉遣いなんとかなさいよ」

「お嬢の守護獣かあ……なんか、ライオンとか豹とかトラとかきそうッスよね。いや、ゾウとかワニ……カバなんかもありえるかも!?」

「だからちゃんとした言葉遣いをしなさい。それとどうしてそんな凶暴な動物ばかりあげるのよ」

「ただのイメージっス」


 どんなイメージだよ。凶暴ってことなの?

 女の子ならもっと可愛いリスとか、ウサギとか、オウムとか、そういうやつをイメージするでしょ普通。なんで肉食系ばかりなのか。


 それに加えて言葉遣いを直せと言っているのに一向に直す気のないノア態度もムカつく。

 本当にわたしの守護獣が肉食系だったら、まずはノアと勝負させよう。そうしよう。


 わたしとしては、こう……純真な乙女らしく、ユニコーンとかかな、なんて思っている。

 あとはクジャクとか。ペガサスなんかもいいかもしれない。


 そう言ったわたしに、ノアは声をあげて笑う。


「いやあ……それはさすがに夢見すぎっスよお嬢」


 わたしがあげた獣はどれも幻獣クラスで珍しい種だけれど、笑うことはないんじゃないだろうか。

 ニッコリとノアに笑いかけ、わたしは思いっきりノアの脛を蹴った。


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