007
他の扉よりも大きく、壁には『ギルド長』と書かれた札がかかっている部屋。
ここで間違いない。
「――――おいクレス、入るぞ」
「あれ、ビオリス。登録は済んだのか?」
「そんなことよりもだ。クレス、ギルドの受付嬢はどうなってんだ……」
シズクを抱えたまま、俺はクレスの部屋の中へ足を進める。
「受付嬢って……おや?」
ソファではなく、事務机の方に座っていたクレスがシズクに気がついたようだ。
「その子はシズクじゃないか。アイシャはどうしたんだ?」
「あいつならシズクの代わりに受付に居るよ」
クレスに返答しつつ、さっきまで俺が座っていたソファにシズクを寝かせる。
「はぁ……疲れた……」
俺はクレスの座っていたソファへと腰を下ろした。
「ギルドの従業員は教育がなっていないんじゃないか?」
「ま、まぁ……問題児が居ることは認めよう。でも、アイシャもシズクも面白いだろう?」
あっさりと認めた上に、なぜか楽しそうに笑うクレス。
「子どもを育てている親みたいな顔するなよ……」
「ここで働くギルドのメンバーは私にとって家族みたいなものさ」
「あーはいはい……」
この話を掘り下げると長くなるので適当にあしらっておく。
「とにかく、アイシャは受付に行って、代わりのシズクは気絶。だからお前が俺の登録をしてくれ」
「え……」
クレスの表情だけは「なぜ俺がお前のギルドへの登録をしないといけないのか」と訴えていた。
嫌そうにするクレスに、俺は足を組んでため息を吐いた。
「クレスが登録の手続きをしろって言ったんだ。最後まで責任があるだろ?」
「私は男の手続きをする気はない」
きっぱりと言うクレスのその瞳には、不純な目力がこもっている。
「……なんだって?」
「私は女性しか相手にしない。男の手続きなんて暑苦しいだけの苦行でしかないからな」
さも当然のような顔をしているが、そっちがその気なら、俺にもやり方がある。
「んじゃ、お前の性癖やら趣味やら、受付で叫んでくるわ」
「さぁ、登録をしようじゃないか」
やる気に満ち溢れたクレス。手には既に用紙とペンを持っている。
「最初からそうしてくれ……」
「まぁ、軽い冗談さ」
「お前の目、本気で嫌そうだったぞ……」
「さて、なんのことだかさっぱり分からないな。とにかく始めよう、時間がもったいないだろう?」
「お前なぁ……」
何事もなかったかのように振る舞うクレスに、俺のイライラが蓄積されていく。
「名前はシュヴァルツ・ビオリス、年齢は十六に設定、扱える属性は確か水だったな」
すらすらとペンを走らせながら、クレスは俺の情報を書き連ねていく。
だが、そんなことよりも――――――
「やっぱり名前は裏返ったままなのか……?」
「ん、なにか不満でも?」
「いや、お前が登録してくれるなら本名のままでもいい気がするんだが?」
俺の質問にクレスは「あっ」と口を開いた。
驚いたということはあれか、なにも気にしないで俺の名前を逆にしたのか?
「冒険者の名前を適当に決めるギルド長なんてアリかよ……」
「まぁ、年齢もある意味裏返しにされたようなものだし、第二の人生として悪くないだろう?」
「はぁ……もう、なんでもいいから早くしてくれ……」
「ではこのまま……、種族は人間、男、冒険者ランクはFと」
ふむふむ、冒険者ランクも最下位のランクFから……。
「…………ん、Fからだと?」




