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2芝生の上でピクニック!(1)

「ここなら誰もいないし、気をつかわなくて済みそう」


 背後には幹が太い大きな木。足元は広場と遜色ない青々とした芝生が広がっている。


 歩いてきたメインの通りからも、芝生の小道からも外れているため、通りがかる人はいない。カナコの周囲二十メートル以内でお弁当を食べている人や遊んでいる人もいなかった。


「よ、よし……。落ち着いてやってみよう……。誰も見ていないんだから大丈夫」


 カナコは緑の空気を深く吸い込んだ。そしてゆっくり吐き出すと、トートバッグを芝生の上にそっと置いた。


「まずはレジャーシートを敷く。それさえ出来れば完成したも同然よ」


 カナコはタータンチェック柄が可愛いレジャーシートを広げた。その上にトートバッグを置き、座ろうとしたカナコは、ハッとした。


「靴は……脱ぐのよね?」


 靴を履いている足をシートから出して芝生の上に置いてもいいが、動きづらそうではある。


 カナコはシートの上に腰を下ろし、靴を脱いだ。とたんに訪れた開放感がカナコの気持ちをブワッと上昇させる。


「この感じ、懐かしい。大人になってから、こういうことしたのって初めてかも」


 元カレはインドア派で、休日は一緒に引きこもることが多かった。


(そういえば、別れる前はゲームばっかりしてて、私の話なんて何も聞いてなかったな……。あれが兆候だったのか……)


「って、そんなことはどーでもいいの! よし、まだお昼前だけど、お弁当出しちゃお」


 カナコはランチバッグのファスナーを開けて、お弁当を取り出した。


「うん、見た目は盛れてる。一応、写真を撮っておこう」


 まだ初心者なのでSNSにあげるつもりはない。というか、元カレはもちろんのこと、知り合いに見られるのもイヤなので、ピクニック用のアカウントを作ろうと思っている。


 具をたっぷり詰めたサンドイッチをラップでぎゅうぎゅうに包み、半分にカットする。そうすると具が綺麗に見えるサンドイッチの完成だ。


 初めてそういう作り方をした割には、上手くできていると思う。


「写真も撮ったし、もう食べちゃおう。いただきまーす」


 美しい青空の下、どこまでも続く芝生と緑の木々、まったりくつろぐ人々と、遠くから聞こえる子どもたちの遊んでいる声――。


(素晴らしいシチュエーションだわ……)


 リラックスしてきたカナコは、卵サンドを味わいながら、遠慮せずに思いを口にした。


「……この、酸味の利いた卵の甘みがほんのり残るマヨネーズと合わせたゆで卵のねっとりとした舌触り。ふんわふんわのサンドイッチ用パンとの相性は最高で、噛みしめるたびに天国へいざなってくれるよう……」


 美味しい香りを堪能し、もうひとくち食べる。


「ああ、この世の幸せとは、美味しいものに宿るのだと、まざまざと見せつけられるこのひととき――」


 と、そこまで語ってところで元カレの声が頭に響く。


 ――食事の時の感想どうにかならんの? キモすぎて食欲なくなるんだけど。黙って食えよ


 彼の言葉で胸が苦しくなったものの……、落ち着いて考えてみると猛烈に腹が立ってきた。



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