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ドライブ

 本城さんの車はふつうのファミリーカーだった。


「いい天気ですね」


 秋晴れの空の下、本城さんが微笑む。油ぎったその髪の毛をなんとかしてあげたい気持ちになった。


「どこへ連れていってくれるんですか?」


 助手席を開けてくれる彼にそう聞くと──


「紅葉が綺麗なところを見つけたんですよ」


 そう言って、とても楽しみそうに笑った。


 このドライブでこのおじさんを夢中にさせないといけない。

 計画は何も浮かばなかった。

 とりあえずいつもより念入りにお洒落はしてきた。し慣れてないので、もしかしたらコスプレみたいになってるかもしれないが……


 本城さんが車を発進させると、二人とも無口になった。

 なんだか空気が固い。

 こういう時、どんな話をしたらいいんだろう? どんな会話をしたら、彼をあたしにメロメロにさせられるんだろう?


 とりあえず、言った。

「愛してます」


 ぷっと本城さんが吹き出した。


「楽にしてよ」

 なんだか久しぶりに彼の言葉から『ですます調』が取れた。

「あー……。そういえば、あいねちゃんの趣味って何? アウトドア派? それともインドア派だった?」


「趣味……」

 仕事が趣味みたいなものだった。でもそれは言わず、

「趣味は……特にないですね。強いて言えば……バッグ蒐集かな? 気がついたらクローゼットの中がバッグでいっぱいになってます」

 思いついたことを口にした。


「ブランド物?」

「それもかなりありますけど、安いのでもぱっと見て『あっ、これかわいい!』って思ったら買っちゃってます。一回も使ったことないのとか、いっぱいありますよ」


「ふぅん……」

 爽やかな秋空に似合う声で、本城さんが言った。

「女性らしくていいね」


「へへ……。そうかな」


 思わずタメ口になった。


 なんだか嬉しかった。


 自分のことを知ってもらえるのって、なんだかとっても嬉しいなって思った。


 それから二人の間の空気が緩んで、色んな会話をした。

 メロメロにさせる会話術とかもう忘れて、そんなことは関係なく、自然に色んな話ができてしまった。


 スマホがどんどこどん、と太鼓を叩く音色で鳴った。一咲かずさ先輩からメッセージが入った時の着信音だ。


「あっ。ちょっとスマホ見ますね」


 あたしが言うと、


「どうぞどうぞ。僕は運転してるだけで楽しいんでね」


 本城さんはニコニコ笑顔で会話を一時停止してくれた。


 たぶん『順調にいってる?』とか聞いてきたんだろうな、一咲先輩。気にかけてくれてるんだ。

 なんて返事しようかな。『とっても楽しいよ』でいいかな。

 そう思ってメッセージを開くと、それは思いがけない内容だった。



 『ちょっと! ドライブって言ってたけど、紗絵ちゃんそれ、考えたらヤバいよ! 外で会うなんて……通報ダイヤルしてもすぐに警察来てくれないよ!』


 あ……と、思った。


 そうだ。何かトラブルがあったらアイオクアプリの通報ダイヤルに連絡すればすぐに警察が来てくれるらしいけど……


 移動してたら、すぐに来てくれない……。


 『罠だ! 気をつけろ!』





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