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ゲーム

 アパートの部屋に帰るなり、一咲かずさ先輩から電話がかかってきた。


『どう? アイオク』


「それがぁー、失敗しちゃってぇー……」


『愛してる10回言わなかったの!? 紗絵さえちゃん、ヤバいよ、それ!』

「お酒入ったら楽しくなっちゃって、つい……」


『お酒飲んだの!? 落札者の部屋で!? よくやるわ、そんなこと! よく襲われなかったね!?』

「しかもぉー……、連続で3回愛してるって言っちゃってぇ〜」


『規約ちゃんと読みなよ! 2回以上連続で言ったらアウトなんだからね!』

「はい……。でもぉ〜……、返金リクエストはされませんでしたよ」


『まだ三日目が残ってるんでしょ? 最後まで楽しんでからリクエストする気だよ、それ』

「え〜……。明日朝からドライブに誘われたんですけどぉ〜……、行っても無駄ってこと?」


『挽回しな! そのドライブ中に、この子離したくないって思わせるんだよ。返金リクエストする気がなくなるほど夢中にさせるの』

「うわ〜……。あたし、そんなの、できるかなぁ〜……?」


 あたしは男性に慣れてない。

 最後に付き合ったのは18年前、中2の時だ。っていうかそれが最初で最後だ。

 その彼氏とはすぐに別れた。恋愛なんて暇つぶしの道具だなって思ったから。

 あたしには暇なんてなかった。それからはずっと勉強と仕事に生きてきた。空き時間があったら料理や栄養学のお勉強をしていた。ゆえにこの歳で処女だ。


 それだからか……。

 この歳になって恋に恋しちゃったのは。


 この前たまたまサブスクで心が震えるラヴ・ストーリーを観て、感化されちゃったんだな。

 恋っていいな──そんなふうに強く思ってしまった。


 恋って何なのかもわからないまま。


『とりあえず……ここが正念場だよ』

 電話口で一咲先輩が言った。

『せっかく得た12万円、せっかく頑張ったこの二日間、無駄にしちゃだめだよ?』


「うん……」

 そう答えながらも、あたしには頑張った覚えがなかった。


 本城さんは見た目はちょっと汚いけど、初めてのアイオク活動をフォローしてくれる。あたしが何かミスをすると優しく指摘してくれる。


 しかもグデングデンに酔っ払ったあたしに襲いかかることもしなかった。


 あのひと、紳士なのかもしれない、見た目によらず……


 ……いや! こんなふうに隙を作らせておいて、信用させて、存分にあたしの愛を堪能したのち、本性を現してあたしを返品し、返金リクエストする気なんだ! 騙されるな、あたし! 今まで数え切れないほどの詐欺に遭ってきたじゃない!


 ここにほんとうの愛は存在しないんだから、他人を信用するな!


 これはいわばゲームなんだ! お互いの利益を尊重するというより、どっちが相手を出し抜くかみたいな!


 あたしは四日目でいかにして本城さんに嫌わせるか──


 本城さんはいかにしてあたしの愛を楽しんだのちお金を取り戻すか──


 これはそういうゲームなんだ!





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