システムがあたしを守ってくれる
朝、起きてパソコンを立ち上げて、確認すると入札が11件ついてた。
現在金額は二万円ちょっと。このまま終了したら最低落札金額の五万円に届かず取引無効ということになる。
でも大丈夫。出品期間を24時間に設定してある。まだ15時間ちょっとある。
今夜を待つのだ。
仕事を終えて帰宅すると、現在金額が六万円を超えてた。
作り置いてたカレーを食べながら、ドキドキしながら画面を見守るが、それ以上はなかなか伸びない。
だけど終了間際になって、どんどん入札者さんたちが競り合いだした。
伸びる、伸びる──!
どんどん伸びる!
結局あたしは12万円を超える値段で落札された。
早速、落札者さんと連絡を取った。
名前は『本城昭仁さん』──本名かどうかはわからない。
年齢は50歳、18歳差。まぁ、アリでしょう。うちのお父さん60歳だし。
出品商品であるあたしにだけ見られる相手のプロフィール画面が表示できるようになった。写真はないので顔はわからない。会社員で、趣味は競馬とあった。
早速翌日の夕方、本城さんのアパートの部屋へあたしはお伺いすることになった。住所の範囲を設定しておいたので、そこそこ近い。二つ隣の町だ。
交通費は相手がもってくれるルールになっている。あたしはこの身ひとつをお届けするだけだ。
季節はまだちょっと暑いけど、露出の少ない服装で行こう。
正直、怖い──
でも大丈夫。『アイオク!』のシステムがあたしを守ってくれる。
= = = =
チャイムを押すと、中から玄関のドアが開いた。
「やぁ、いらっしゃい」
あたしは思わず「うっ!」と言いかけた。
中から顔を見せたのは、ニヤリと笑った口の中に溶けたような黄色い歯を並べた、油ぎった髪の毛と黒い肌の、背の高いおじさんだった。
あたしはにっこり笑って挨拶をした。
「今晩は、あいねです。愛してます」
おじさんはすごく嬉しそうに笑うと、部屋にあたしを招き入れた。
「どうぞ、入って?」
お邪魔すると、部屋の中は意外に片付いていた。でも、へんな臭いがする。酸化した油のようなというか──
「まぁ、そこに座ってよ」
おじさんに勧められるがままに、あたしは畳の上に敷かれた座布団に腰を下ろす。そして、かしこまって言った。
「このたびはご落札ありがとうございました。愛してます」
「声、かわいいねぇ」
そう言われて、背中がゾクッとした。
「顔は写真よりちょっとだけ老けてるけど……あ、ごめん。失言!」
それに関しては素直に申し訳ないと思った。
「手、握ってもいい?」
そう言いながらおじさんが手を伸ばしてきたので、あたしは内心怖がりながら、それでも毅然として言い渡した。
「申し訳ありませんが、それは規約違反となります。落札者さまのほうから私の身体に触れることは禁止されております。私がある操作をしただけで『通報ダイヤル』に連絡が行き、GPSを辿って、すぐに警察官がここへ来ることになっております」
そしてあたしは笑顔で言い添えた。
「愛してますけどね」
「そっか……」
「ですが……」
しょぼんとしたおじさんの右手に、あたしは両手を伸ばし、包み込んだ。
「私のほうから進んですることには何も問題はありません」
おじさんの顔に、ピンク色の花がかわいく咲いた。




