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正当防衛

「本城さんっ!」


 あたしは深水ふかみさんの腕を振りほどき、彼の背中に隠れた。

 広い背中があたしを守ってくれた。


 わけがわかってなさそうに背中のあたしを見る本城さんに、深水さんがニヤニヤしながら言う。


「なんだよオッサン。あいねちゃんの知り合い? その子をその名前で呼ぶってことは、もしかしてあんたも『アイオク』で? 本名なわけないからな……。でも、手放したんだろ? 今は俺が所有者なんだ。邪魔しないでくれるか?」


「あぁ……」

 本城さんは察してくれたようだった。

「そういうことか……。タチの悪い落札者がいるそうだな」


 この隙にあたしは110番しようとしたけど、スマートフォンは深水さんに奪われていた。


 本城さんが小声で聞いてくる。

「あいねさん、通報ダイヤルは?」


「使えないんですっ……! あのひとにスマホを取られてるし……っ!」


「おい」

 本城さんが、低い声を出した。深水さんに向かって、殺気のようなものを放っている。

「おまえ、これから彼女をどうするつもりだった?」


「オッサンには関係ないだろ」

 深水さんは相変わらずニヤニヤした声を出す。

「好きになっちゃったんだ、かわいいあいねちゃん」

 背中に隠れるあたしに話しかけてきた。

「ねぇ、今からあそこに見える『学習塾』に行こうよ。一緒に色々と楽しいことを勉強しよう」


「警察を呼ぶぞ」

 本城さんがそう言ったけど、彼のスマートフォンはロードサービスの車の中にあるのが見えた。


「あ? オッサン邪魔だ。消えてくれ」

 深水さんの顔がニヤニヤしたまま歪んだ。


 あたしは本城さんの背中越しに言ってやった。

「あんたのほうが邪魔っ! 早く消えてっ!」


「……だ、そうだが?」


「女心がわかってねーなー、オッサン。嫌よ嫌よも好きのうちって言うだろ?」


「バカなのか、おまえ?」


「女の前だからってカッコつけてんじゃねーよ、退け」


「じゃあ……」

 本城さんが、挑発するように、言った。

「力ずくで退かせてみろよ、ド変態野郎」


 変態野郎がブチ切れた。


「誰が変態だァーーーッ!」


 その言葉が禁句だったのか、いきなり泣き叫ぶような声をあげて、気持ち悪いステップを踏むと突進して来て、本城さんの顔を殴りつけた。あたしは目を閉じた。


 ぱちーん!


 グーで殴ったのに、平手打ちしたみたいな、軽い音が夜空に響いた。


 あたしが目を開けると、パンチを振り抜いた変態野郎のその腕を、本城さんが掴んでいた。


「おまえが先に手を出したんだぞ?」

 そう言うと、背の高い本城さんの身体が、ヒーローみたいに素速く動いた。

「これは正当防衛だ」


 どしっ!


 ドラマで聞くみたいな、肉を叩く重たいパンチの音がして、変態の身体がコルベットのボンネットに叩きつけられるのを、あたしは見た。





 

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― 新着の感想 ―
ちょっとちょっともう!本城さんどこのヒーロー様ですか? カッコ良すぎるんですけれど(((o(*゜▽゜*)o)))♡ セリフセレクト素敵♡(о´∀`о) 料理できて、闘えて、まっとうで、実践向きの男性の…
キャー! オッサン、カッコいい!! いえいえ。 やりますね~、本城さん。 こりゃホレます。 (元々ホレてましたが)
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