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アイオク! とは(2)

 あたしは『アイオク!』出品者としてデビューすることになった。

 一咲先輩から聞いた感じだといかがわしいサイトではなく、危険もなさそうだ。

 何かトラブルなどがあった場合は『通報ダイヤル』に連絡すれば、すぐに警察官が駆けつけてくれるらしい。出品者も落札者もお互いに、サイト上では匿名を使っていても、アカウントを作成する時にしっかり個人情報を提出しているから、サイト開設から今まで事件のようなことは起こっていないとのこと。


 あたしは必要な個人情報を入力し、アカウントを作成した。

 本名はさすがに使わず、名前を『あいね』にした。ただなんとなく、かわいいと思ったからだ。

 プロフィール写真を載せないといけない。なしでもいいようだが、これがないと人気におおきく差が出るらしいから。

 幸い容姿はそこそこいい自信があった。軽い加工だけして実年齢より五歳ぐらい若く見えるようにすると、あたしは早速自分を出品した。


 最低落札金額が設定できるようだ。

 あたしはそれを五万円にした。あまり安いとプライドが傷つきそうだから。

 深夜に出品して、わくわくしながらお布団に入った。


 どんなひとがあたしを落札してくれるだろう?


 どんなひとが、あたしに愛してほしがることになるのだろう?


『アイオク!』は心の寂しい現代人が、自分を愛してくれるひとを購入できるサイトだ。

 落札されたひとは、自分を買ってくれたひとを、無条件で愛さないといけない。

 ただ、逆に落札者が出品者を愛することは『規約違反』ということになっている。

 あたしは一日に規定回数以上の「愛してる」を言わなければならないが、落札者があたしに「愛してる」と言ったらペナルティが課され、最悪その場で契約解消ということになる。返金は認められず、その時点であたしは落札金額を全額もったまま自由になり、次の出品に取りかかれる。


 あたしはべつに自分が愛されたいわけではない。


 恋がしたいのだ。


 一方的にでもいいから、自分を恋してる気分にして、自分をイキイキとさせたいのだ。

 だからこの『アイオク!』のシステムはじつにあたし向きだと思った。

 演技でもいいから恋がしたいのだ、あたしは!


 しかもそのシステムには続きがある。


 落札者が出品者に「愛してる」と言うのは規約違反だが、それもあたしの気持ち次第では許されるのだ。


 落札者のことをあたしも心から愛してしまったら、彼があたしを「愛してる」と口にすることは『規約突破案件』とみなされ、契約は継続できる。


 あたしは本気で恋させてくれるひとが落札してくれることを夢見て、眠った。




 大丈夫。


 逆にあたしが落札者のことをキモいとか思った場合にも抜け道があるから。




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