表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/23

恋ってなんだ?

「怖かった……! 怖かったよ……!」


 ぬいぐるみだらけの一咲かずさ先輩のマンションの部屋で、ピンク色のふかふかソファーに座る彼女の小さい胸に、あたしは抱きついた。


「よしよし」

 安心できるてのひらが、あたしのバカな頭を撫でてくれる。

「怖かったね、初めて見たんだね、チンアナゴ」


 一咲先輩の着てるピンクのタオル地の部屋着に、あたしは顔を埋めた。

 お互い会社の制服を脱いでも、あたしは彼女に対して丁寧語を使う。いくら彼女がひとつ年下でも。入社したのはあたしのほうが二年遅いし。


 何より一咲先輩は頼れるひとなのだ。


 色々と経験豊富で、精神年齢ではどう見ても彼女のほうが上だ。

 あたしが社内でも仕事が出来るほうになったのは、一咲先輩について育ったからだ。彼女が男性だったら間違いなく恋してたと思う。


「もう、やめたほうがいいと思うよ? 『アイオク!』……」

 いつものように、一咲先輩がアドバイスをくれる。

「自分が勧めといてこう言うのも何だけど……紗絵ちゃんには向いてないと思う。怖い目に遭っちゃったし、何より四日目の豹変が出来るとは思えない、かわいい妹キャラの紗絵ちゃんには……」


「じつは……あたしもやめようって、思ってました」

 正直に打ち明けた。


「うんうん、それがいいよ」

 一咲先輩がぎゅっと抱きしめてくれた。

「あたしが言った通りだったでしょ? 男なんて、女のこと、家政婦か肉人形ぐらいにしか見てないんだから」



──『いいよ、そんなの。なんか家政婦みたいなことやらせてるみたいで、悪いよ』



 そんなことを言ったひとの、暖かい声が頭に蘇った。


 ぎゅっとしてくれる一咲先輩の胸は、柔らかい。

 これが固くて広い胸だったら……

 頭を撫でてくれる手が、太くて温かい指をしてたら……


「一咲先輩……」

 あたしは聞いた。

「一咲先輩は男嫌いなの?」


「べつにそういうわけじゃないけど……」

 ぽんぽんとあたしの頭を優しく叩きながら、一咲先輩がくすっと笑う。

「自分の恋には興味がないなぁ。……他人の恋バナは面白いけどね」


「恋したこと、ないんですか?」


「うん、ない。あたしは仕事が恋人だから」


「恋って、どんな気持ちなんだろう」


「えっ?」


「あたしも……思ったら恋したことって、なかった。せいぜい芸能人に熱をあげたことがあったくらい。中学の時、付き合ったひとはいるけど、あれが恋だったのかどうか……」


「うーん……」

 笑いを帯びた一咲先輩の声が、言った。

「あたし、一応、これが恋なのかな? って思いは、したことがあるけどね」


「あるんだ?」

 がばっと顔を起こして、先輩と目を合わせて聞いた。

「どんな感じだった?」


「入社したばかりの頃にいた上司だったんだけどねー」

 懐かしそうな目をしながら、一咲先輩が話す。

「頭の中がそのひとでいっぱいになっちゃって、仕事が手につかないから、忘れよう、忘れようとしてたよ。そのひと奥さんいたし……。そのうち転勤していったから、まぁ、忘れられたね」


「そ、そうだったんだ……」


 バリキャリの一咲先輩も女の子なんだって思ったら、なんか抱きしめたくなって、抱きしめた。


「恋って、したいと思ってできるもんじゃないからねー」

 苦しそうに「うっ」と声を漏らしながら、一咲先輩がしみじみ言った。

「あっちからやって来る感じ。しかも『なんでこんなのに?』って思うような相手に恋しちゃうんだよねー……」


 それを聞きながら、あたしは思った。


『なんでこんなのに?』って思うような相手に、か……。


 うーん……


 でも、あんな深水ふかみさんに恋することは、ないと思うな……。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
深水は…………確かにいらない (-_-;)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ