新たな落札者
3回目のオークション、あたしの愛は無事、落札された。
最低落札金額は下げなかった。安い女じゃないんだからね!
でも落札金額は最低ギリギリの五万円をちょっと超えただけ。
……まぁ、いいですよ。金額に関わらず、たっぷり愛して差し上げますよ、少なくとも最初の三日間だけは。
落札者さんの名前は深水智也さん、34歳。あたしより二つ上。3つサバ読んでるから「五歳違いですね」って、間違わずに言わなくちゃ。
どうやらこっちは偽名でもOKだけど、落札者の名前は本名があたしに知らされるのがルールのようだ。
じゃあ、本城さんも、本名だったんだ……。
本城昭仁……
それが彼の紛れもない本名……
本城、昭仁さん……
ぶるぶるぶる! あたしは頭を振った。
水曜日の夕方、仕事を終えるとあたしはすぐに落札者さんの家へ向かった。
結構近所だ……。
でもまぁ、住んでるところさえ知られなければ問題ない……よね?
何より『アイオク!』のシステムがあたしを守ってくれる。何かあったら通報ダイヤルに連絡すればいい。
深水さんの家はアパートだった、本城さんのアパートより新しくて綺麗。
部屋は一階だ。鉄の階段をカンカン音立てて昇った本城さんのアパートの二階の部屋が懐かしい。
本城さんの部屋の呼び鈴を押す時、めっちゃドキドキしたっけ……。
でも2回目だから少し慣れていた。あたしは躊躇なくボタンを押した。
ピーン、ポーン──
部屋の中に呼び鈴の音が鳴り響くのが聞こえた。
しばらくして、ドアが開いた。
「こんにちは!」
笑顔が自然に浮かんだ。
「はじめまして、『あいね』です」
ドアの隙間から顔を覗かせたのは、細面のイケメンだった。
ヒゲの剃りあとが青いのがちょっとだけキモかったけど、あたしを見て嬉しそうに笑ったその目が繊細そうで、優しかった。
うぅっ……! 当たりかも!
なれるかも! 恋する気分に……
深水さんがにっこり笑い、美しいシルクのような声で、言った。
「入って」
中はとても綺麗にしてあった。
広いワンルームに大きな水槽が置かれ、中でタコみたいな生き物がウニウニ動いていた。
まるでお洒落なホテルの一室みたいに、ハイセンスな部屋。ふかふかの絨毯の上をスリッパを履いて歩きながら、あたしは思わずうっとりと、棚に飾られた前衛アートっぽい置物たちを眺めた。
ソファーがあったけど、座るように勧められないので、あたしは立ったまま挨拶した。
「このたびはご落札いただき、ありがとうございました」
ぺこりと一礼し、にっこりと笑い、例のセリフを言う。
「愛してます」
「本当?」
嬉しそうに、深水さんも笑った。
「じゃあ……」
ベルトを外し、穿いている綿のズボンを脱ぎはじめた。
そのままブルーのボクサーパンツも下ろす。
そして、なんかチンアナゴみたいなものを見せつけながら、言った。
「しゃぶれ」
通報ダイヤルに連絡した。
呼び鈴が鳴ったので、あたしが鍵を開けると、おまわりさんが二人、入ってきた。
凄い! 本当にすぐに駆けつけてくれるんだ!




