表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/23

恋したい

「どうしたの、紗絵さえちゃん?」


 あたしのデスクに一咲かずさ先輩が、心配してやって来てくれた。

 あのドライブのあとあっさり解放されて、何もなかったことはあれから電話ですぐに伝えてあった。

 でもなんだか仕事に気持ちが入らない。

 あたしらしくもなくミスを連発したのを見かねて、わざわざ声をかけてくれたのだ。


「まぁ、月曜ですからねー……。こんな日もありますよー」


 目に涙を少し浮かべて、はははっと力なく笑うあたしに、一咲先輩が聞く。


「もしかして、『アイオク!』で何かあった?」


「うーん……。まぁ……、あったといえば……」


 あれから帰ってすぐにあたしは2回目の出品をした。

 1回目で「写真よりちょっと老けてる」と言われてしまったので、それを有り難い教訓にして、今度はあまり加工しなかった。でも、それが良くなかったかもしれない。年齢も3つしかサバを読まなかった。それも悪かったかもしれない。

 最低落札金額の五万円に届かず、落札者がないまま終了した。


「あぁ……。流れちゃったのか」

 一咲先輩が教えてくれた。

「でもそれ、良くないパターンかもよ? 前の落札からあまりに日を置かずに続けて出品しちゃうと、『この出品者はよほど四日目の豹変がひどいんだな、プロじゃないのか?』とか『写真と実物が違いすぎるんじゃないか?』とか思われて、入札するひとたちが引いちゃう可能性がある」


「そ……、そうなんだ?」


「まぁ、それが度重ねればだよ。まだ大丈夫。今度から気をつけて」


「わかった」


 そう答えて、元気を取り繕って笑って見せたけど、正直なところ、あたしはオークションが流れたことなんて、どうでもよかった。

 それとは無関係に、なんだか仕事に気持ちが入らないのだ。

 心にぽっかり穴が空いてしまったみたいで、何をやってもつまらないのだ。


 はぁ……と溜め息を吐いたあたしを見て、一咲先輩が言った。


「紗絵ちゃん……。もしかして、恋をしてる?」


「はぁ!?」

 

「今の溜め息、ピンク色だったよ?」


「いえいえっ! その相手をこれから探すところなんですからっ!」


「なんか、既にどっぷり恋に落ちてるように見えるけど……。もしかして、一緒にドライブに行った例のおじさんと?」


「ない! ない、ないないっ!」

 冗談を吹き飛ばすように、あたしは笑った。

「だってカッコよくもなんともないおじさんなんですよ?」

 そのひとの顔が思い浮かぶと、口が止まらなくなった。

「意外に紳士だし、優しいし、頼り甲斐あるし、一緒にいて確かに楽しかったですけど……ない! ないっ! あたしは恋してるんじゃなくて、これから恋したいひとなんですからっ!」


 何かを見透かしたかのように、一咲先輩がニヤリと笑った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ