恋したい
「どうしたの、紗絵ちゃん?」
あたしのデスクに一咲先輩が、心配してやって来てくれた。
あのドライブのあとあっさり解放されて、何もなかったことはあれから電話ですぐに伝えてあった。
でもなんだか仕事に気持ちが入らない。
あたしらしくもなくミスを連発したのを見かねて、わざわざ声をかけてくれたのだ。
「まぁ、月曜ですからねー……。こんな日もありますよー」
目に涙を少し浮かべて、はははっと力なく笑うあたしに、一咲先輩が聞く。
「もしかして、『アイオク!』で何かあった?」
「うーん……。まぁ……、あったといえば……」
あれから帰ってすぐにあたしは2回目の出品をした。
1回目で「写真よりちょっと老けてる」と言われてしまったので、それを有り難い教訓にして、今度はあまり加工しなかった。でも、それが良くなかったかもしれない。年齢も3つしかサバを読まなかった。それも悪かったかもしれない。
最低落札金額の五万円に届かず、落札者がないまま終了した。
「あぁ……。流れちゃったのか」
一咲先輩が教えてくれた。
「でもそれ、良くないパターンかもよ? 前の落札からあまりに日を置かずに続けて出品しちゃうと、『この出品者はよほど四日目の豹変がひどいんだな、プロじゃないのか?』とか『写真と実物が違いすぎるんじゃないか?』とか思われて、入札するひとたちが引いちゃう可能性がある」
「そ……、そうなんだ?」
「まぁ、それが度重ねればだよ。まだ大丈夫。今度から気をつけて」
「わかった」
そう答えて、元気を取り繕って笑って見せたけど、正直なところ、あたしはオークションが流れたことなんて、どうでもよかった。
それとは無関係に、なんだか仕事に気持ちが入らないのだ。
心にぽっかり穴が空いてしまったみたいで、何をやってもつまらないのだ。
はぁ……と溜め息を吐いたあたしを見て、一咲先輩が言った。
「紗絵ちゃん……。もしかして、恋をしてる?」
「はぁ!?」
「今の溜め息、ピンク色だったよ?」
「いえいえっ! その相手をこれから探すところなんですからっ!」
「なんか、既にどっぷり恋に落ちてるように見えるけど……。もしかして、一緒にドライブに行った例のおじさんと?」
「ない! ない、ないないっ!」
冗談を吹き飛ばすように、あたしは笑った。
「だってカッコよくもなんともないおじさんなんですよ?」
そのひとの顔が思い浮かぶと、口が止まらなくなった。
「意外に紳士だし、優しいし、頼り甲斐あるし、一緒にいて確かに楽しかったですけど……ない! ないっ! あたしは恋してるんじゃなくて、これから恋したいひとなんですからっ!」
何かを見透かしたかのように、一咲先輩がニヤリと笑った。




