勇者。違う国の王に会う。
__《ミクラル城》
グリード城が森の奥――凶悪な魔物がうようよする《エリュゼの森》にひっそりと存在するのに対し、ミクラル城はその正反対だった。
水と芸術の都、そのど真ん中。
堂々と、誇らしげにそびえ立つ美の城――それが、ミクラル城だった。
「り、リュウトさんっ……わ、わたし、変じゃない……ですか?」
城の前で、あかねがモジモジと身を縮める。昨日選んだ装備に、まだ慣れてないらしい。
「いや、大丈夫だ。……というか、仮に変でも“奴隷”なんだから、周囲は気にしないだろ」
「ストレートすぎません!?」
ぷくっと頬をふくらませて抗議してくるあかねに、俺はちょっとだけ笑ってしまった。
そして俺たちは、案内役に連れられて玉座の間へと向かう。
「ようこそ。我が国へ、クリスタルドラゴンを討伐した“勇者”よ」
王座に座っていたのは、見た目二十五歳ほどの美しい青年。
……だが、あの姿は仮のもの。
変身魔法?に近いものだろう、本当の歳はもっといってる。
それも、魔皮紙なしで魔法を使える“適正魔法”と言うものだ。
つまりこの国の王は、誰にも“本当の姿”を見せていない。
唯一見たことがあるとすれば、王妃とその子供くらいか……。
俺もアカネも片膝をつき、礼を取った。
「一冒険者である私を、こうしてご招待くださり……誠に光栄です」
――王と話す時だけ、言葉がちょっと騎士っぽくなるが、無礼はないだろう。
王の前に進み出た俺は、転送の魔皮紙を取り出し、目の前に置いた。
「まずは、グリード城――サクラ女王陛下よりの手土産を、お預かりしております」
「ほう?」
転送魔皮紙を発動させると一枚の鱗が出てくる。
宝石のように輝く一枚の鱗――
それは、澄んだ紺碧だけで構成された完璧な美だった。
王の声に合わせて、部屋の隅にいた給仕が近寄ってくる。
「こちら、例の《クリスタルドラゴン》から得られた素材でございます」
「……これは、また……」
ミクラル王が、こんな美しいものに食いつかないはずがない。
「これが、災害級モンスターの素材か。美しい……そして強靭そうだ。芸術的価値すらあるな」
「女王陛下からは、“お好きにお使いください”とのことです、もちろん、まだまだありますのでこの魔皮紙をどうぞ」
この素材は想像の通り、かなりの価値がある。
だがそれは“加工ができてこそ”の価値だ。
グリードでは加工できる技術があるがミクラルでは装飾品にするくらいしか使い道はない。
だが、美を求めるミクラルとしてはそれでいい。
そこが分かっていて女王は渡すのだろう。
「ふむ……ありがたく頂戴しよう。グリードの女王にも礼を伝えてほしい」
「畏まりました」
「あの……リュウトさんっ」
後ろでこっそりとアカネが、俺の袖をちょんちょんと引っぱる。
「さっきからずっと誰かに見られてる気がするんですけど……」
「気のせいじゃないか?奴隷だから目立つんだろう?」
「うぅ……背筋がゾワゾワします……」
「さて。リュウト殿」
再び王が口を開く。
来たな、新たなテンプレ。
「貴殿には、もう一つ――我が国からの依頼をお願いしたく思っている」
「……依頼、ですか?」
「そうだ。我が国、ミクラルの南方に広がる《ミクラルヴォルケーノ》――活火山帯の付近で、極めて危険なモンスターが確認された」
王が手を振ると、傍の者が一枚の魔法投影図を取り出し、空中に映し出す。
そこには、赤い目を光らせる“巨大な影”の姿があった。
「詳細はまだ掴めていないが……目撃情報によれば、通常のダイヤモンド冒険者では太刀打ちできないとのこと」
「なるほど、それで俺に白羽の矢を?」
「そう。貴殿ならば討伐も可能かと思い、こうして正式に依頼させていただく次第だ」
普通ならば新たな魔物……この国ではモンスターと言われてるが、そんな存在が出てきた時は騎士達やルビー、サファイヤ冒険者が出向くはず。
それでも、俺に頼んだと言うことは実力を見たいのだろう。
「ふむ……ミクラル王国の依頼。内容を了承いたしました」
王は満足そうに頷いた。
「準備が整い次第、向かいましょう」
──こうして、次なる戦いの舞台は――灼熱の《ミクラルヴォルケーノ》へ。




