ジャログドラゴン討伐
転移魔法でギルド指定の無人島へとやって来た。
ここは前回の島と違い、空気はじめじめとして重く、立っているだけで肌にべったりと湿気がまとわりつく。
足元の地面はぬかるみ、踏み出すたびに泥がずぶりと絡みついた。歩くたびにズズッと音が鳴り、まるで底なし沼の縁を踏んでいるような気分だ。
例えるなら――そう、水を張った田んぼの中を、延々と進み続ける感じ。
「お、おい、アイツ大丈夫かよ?」
冒険者パーティーの1人が前からチラリと俺の軽装を見てヒソヒソと話すのが聞こえる。
今回、冒険者のパーティーは俺を入れて5人。
いずれもプラチナ冒険者で何年も続けているパーティーだ……だが、俺が即席で買った鉄で作られた防具とは違い、各々魔物の素材で作られた装備を着ている。
明らかに俺が浮いている。
「……」
「仕方ないじゃないか用意は出来てるって言うんだい、あれが全力だよ、きっと」
「魔物の体当たりを1発でもくらったら終わりじゃないか」
「はぁ……」
ヒソヒソしてるが聞こえてるぞー
……ま、上々ってとこだな。
良くある異世界のパターンに持って行けている。
周りからの評価が低ければ低いだけこの後の恩恵が大きくなる。
そんな事を思っていたら話がまとまったのか今回俺に話しかけてきた女冒険者が近くに来て並走で歩く。
「アンタ、今回の相手を舐め過ぎちゃいないかい?」
この会話!重要だぞ!
「え?どうしてですか?」
何も知らないような純粋な返事。
あの時は「すぐに出発していい」なんて言ってた俺のセリフを考えるとなめてるとしか言いようがないが、まぁそれくらいがちょうどいいだろう。
「今回の相手のジャログドラゴンはプラチナランクの中間みたいなもんでね、特徴を捉えて用意してないと死ぬよ」
「そうなんですか?」
そんなもの、とうの昔に頭に入っている。
だが知らないフリをしないとな……
「誘った時に「すぐに行ける」と言ったけど、アンタまさか馬鹿正直に真っ向勝負する気じゃないわよね?」
「どういうことです?」
「そうか……そうだよなぁ……冒険者なりたてじゃぁ解らないか」
おぉ、いいじゃないか!そのセリフ!
「はぁ……」
ため息も深い。
こうも予定通りに動いてくれると気持ちいいな。
「アンタは後方で見てくれるだけでいいから、邪魔だけはしないでくれ」
「はい……すいません」
と、言いつつ、やる時はやらせてもらいますけどね。
そのまま俺たちは沼地の奥深くへ歩いていった。
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「……」
「……」
全員が息を潜めて少し遠くの沼を見る。
「あそこが今回のジャログドラゴンの巣だよ」
「なるほど」
【ジャログドラゴン】
体長約十五メートルに達する大型ドラゴン。成獣のクジラに匹敵する大きさを持ち、蛇のように長く、しなやかな身体をしている。
主な生息域は湿地帯や泥沼、軟弱な地盤の地下。
泥の中を泳ぐように移動するため視覚は退化しており、目はほとんど機能していない。
全身を覆う鱗は、水面に浮かぶ油膜のような光沢を放つ鮮やかな青色。
光の当たり方によって色合いが変化し、泥の中でも異様な存在感を放つ。
頭部からは金色の角が突き出しており、これは感覚器官として機能する。
地面の振動や魔力の流れを感知し、視覚に頼らず獲物の位置を正確に把握する。
姿を視認できた時点で、すでに間合いに入っていることが多く、発見=死となりやすい。
そして、元の世界ではあり得ないが、怒ると身体が炎を帯び、周りを焼き尽くしながら襲ってくる。
「どうします?」
沼池は静かだ……だが、体長15メートルもの巨体が作った巣。
一体どれくらいの深さになるのだろうか。
なので、定石通りなら__
「これで誘い出すよ」
「……」
くっさ……
取り出したのはかなり臭いの強い腐った魔物の肉。
ジャログドラゴンは目が退化しているかわりに鼻がよく効く様になっているのでこれで自分たちの戦いやすい場所まで誘い出すのが一般的なやり方だ。
問題は“誰が近くまで行くか”だが__
「僕に行かせてください!」
「は?」
「是非僕が行きます」
「はぁ?いや、お前、わかってる?冗談じゃなくて死ぬぞ?」
「冒険者なんてそんなものでしょ、生き残れない奴は生き残れない、ここで僕が死んでも1人の冒険者が死んだだけ」
「だからお前は死ぬ気か?って聞いてるんだ」
あーもう、仕方ない、ここは強引に行くか。
「分かりました、では__」
「あ!?」
俺は腐った肉を奪い走り出す。
「死んできまーす!」
「ちょっとまてええええ!!!!」
新人冒険者の暴走に目を丸くした後、冒険者パーティー全員、暴走を止めようと動き始めるが、追いつかない。
「な、なんだアイツの速さは!?」
「身体強化魔法使ってないんだよな!?」
後ろから聞こえてくる声は良い感じにテンプレ通りに驚いてくれるのを示唆してくれているのが分かった。
焦って女冒険者は追いかけてくるが全員遅い。
気がつけば俺はジャログドラゴンの巣の近くまで来ていた。
「さて、確かにこの臭い肉で誘い出すのは正解だが、異世界の主人公としては不正解だな」
俺は肉をポイっと捨て、レイピアを取り出し、自分で刻み込んだ魔法陣に魔力を通す。
「【龍殺しの竜巻】!」
俺がレイピアを振りかざすと、刃が青白く光り――次の瞬間、魔力陣が爆ぜるように輝いた。
ゴオオオオオッ!!!
沼地全体が唸るような轟音とともに、地面を削り取りながら、巨大な竜巻が天へと伸び上がる!
沼の泥水が一気に巻き上げられ、水柱が弾けた!
そして――!
「____!!!!?!?!キシャァァァアリァア!?!?」
沼に潜んでいたジャログドラゴンの巨体が、竜巻に巻き込まれ、天へと放り上げられた!
15メートルの巨躯が、まるで玩具のように空を舞う――。
「行くぞ――ジャログドラゴン!」
わざとらしく叫びながら、俺はその場から跳躍する。
脚に込めた魔力が大地を裂き、ぬかるんだ泥を跳ね飛ばした。
視界いっぱいに広がる、空中での巨大な竜体。
その首元へ一直線――!
「ロングソードモード!」
レイピアの魔法陣が光り、細身の刀身がぐいんと伸びる。
「はぁぁぁぁあ!!! てぇぇりゃぁぁあッ!!」
空中で回転しながらムチのようにしなったロングレイピアで__
ズバァァァァァッッ!!!
ジャログドラゴンの首筋を、大気ごと裂くように一閃!!
青い鱗が粉雪のように舞い、鮮血が空へと咲き乱れる。
俺はその真上から、華麗に一回転しながら急降下。
ズン――ッ!
泥の跳ね返る地面に、膝を突かずに華麗に着地する。
真後ろで真っ二つになったジャログドラゴンが空中から落ち、沼地を巻き上げ。
まるで俺の後ろで爆発したかのような演出になった。
「「「………………」」」
言葉を失ったのか、後方で様子を見ていた冒険者たちが全員固まる。
「い、今の……見たか……?」
「竜巻で吹き飛ばして……空中で……一刀両断……!?」
「ていうかあの武器何!? レイピアってそういうもんだっけ!?」
「いや無理無理無理無理無理無理無理無理無理……!理解が追いつかないんだけど……」
焦りを超えた驚愕の声が、少しずつ叫びに変わっていく。
やがて女冒険者――俺を連れてきたリーダー格の彼女が、唇を震わせながら一歩前に出た。
「……アンタ、いったい……何者なんだい……?」
さて、ここからが大事だ。
こう言う時のセリフセリフ……あ!こう言う時はアレだ!
「すいません、手加減したつもりなんですけど……テヘッ」
あれ?なんか違うな?
まぁセリフを間違う事もあるだろう。




