アーシュ10歳冬の日々
11の月、12の月と、朝の訓練をし、荷物持ちをし、帰ったら宿屋の手伝いもし、勉強もし、スープの開発も引き続き行い、そしてセロとウィルとマルと、楽しく忙しく日々が過ぎていった。やっと落ち着く7の日の午後は、領主様もやってきて、ガガとケーキを所望する。宿泊客も、たまたま飲む機会が重なると、王都でも子羊亭に行ってみると約束してくれる。
スープについてギルド長は、
「レーションと違ってお湯がいるってとこがなあ」
と渋い顔だ。
「何日も潜る時は確かに重宝するだろう。しかし、メリルやメルシェあたりじゃ、そういうアタックをするやつはほとんどいねえんだ。王都でも中央ギルドのあたり、そしてオルドならば……大きいクランがあって、長期のアタックもよく計画しているからな。ただし、悪いがつてがねえ。ギルドで公式に扱うほどの需要がねえんだ。今のとこは、お前たちとメリル限定にしておくしかねえな。あと、オレの夕飯に少し分けてくれ」
忙しい独身の男性対象に……でも、そもそもお湯さえ沸かさないかも……。今すぐはネタにならないかもしれないけど、子羊冒険者組にも、メリルの冒険者にも好評だ。自分たちのために、しっかり開発しておこう。
スープは、干しきのこが決め手になった。干し肉バージョンと、干し魚バージョン。どちらもしっかり野菜入りだ。これを基本に、コミルとトマト味を加えると、全部で6種類になる。
相変わらず、メリルのお茶を入れてくれる荷物持ちの1人として過ごしていた。1の月、ギルド長が会議ででかけ、戻ってきた。
「おーい、お前ら、今度はメルシェとナッシュに行ってくれるか」
メルシェだ!ナッシュも!
「なんでも、メリルばかりずるいとさ。あとな、西ギルド東ギルドは、損耗率も、魔石でもやはり成果が出たんだと。朝食、昼食の効果はかなり信用度が高くなった。ただ、中央はなー。別に西や東ギルドが中央を手伝ってもいいって言ってきといたぞ。そろそろめんどくさいだろ」
「はい、めんどくさいです。でも王都は行きたかったな。ダンの店に行ってみましたか?」
「おう、グレアムと行ってきたぞ。ガガ自体はお前から入れてもらってたからな、初めてではなかったが、店で飲むってのがな、よかったぞ。え、女性は連れて行かなかったのかって?ほっとけ、仕事で行ったんだろうが。それはともかくとして、繁盛してたぞ。あと、ガガとお茶、新しいの預かってきた」
「ありがとうございます!はやっててよかった!」
「メルシェは、何月から行きたい?」
「みんなと相談してみます」
「マリア、ソフィー、マル、どう?」
「私はね、前回学院もあるのに、行ったり来たりして大変だったでしょ、だから早めの3月とかから始めたらどうかと思うの」
「ソフィー、確かにね、アーシュたちも荷物持ちデビューして落ち着いたしね。ただ、不安もあるの。西ギルドは、ダンがお茶の販売を始めて、実績もあったし、グレアムさんも好意的だったでしょ?でも、メルシェは誰も知らないじゃない。ましてや、ナッシュなんて」
「マルはどこに行ってもがんばるだけだから、任せるよ」
「それじゃあ、メルシェは馬車で3日でしょ?3月の初めに2週間くらい、ランチとレーションだけ出張販売してみて、そこでようすを見てみない?その時に、働く人も募集して、ギルドのキッチンとかも整備してもらうの。その後、ナッシュで2週間」
「そうねアーシュ、いい考えかも」
「そうすると、本格的には?」
「4月からかな、ソフィー」
「4月、上手くいってナッシュが5月、湧きが7月、今年も忙しくなりそうね」
「中央ギルドの方が、楽だったかも?」
メルシェ、ナッシュには、そういう形でギルド長が連絡してくれた。
「結局、自分で飛び出しちゃうな、アーシュは」
「思うようにはいかないけど、やりたいようにやってたらこうなった」
「3月から、もちろんオレたちもいっしょに行くよ。だからこそ、やっぱりナッシュは行ってくる」
「セロといっしょに、街やギルドのようすも見てくるよ」
「がんばって。そしてよろしくお願いします!」
1の月の終わり、セロとウィルは、ナッシュに旅立っていった。
10歳の冬も、もう少しで終わる。




