再び王都へ
王都派遣です。
いよいよ、王都への派遣の日が来た。4の月の4週にメリルを出て、5の月の初めから西ギルドで働き始める。荷物持ちとして最初に連れていってくれたパーティが護衛についてくれる。
「『涌き』までには戻ってきます」
「気をつけるんだぞ、あー、無理なら戻ってこい」
「行ってきます!」
4の月は、春真っ盛りだ。みんなでの王都の旅は2回目になるが、秋と違って、花が咲き乱れ、柔らかにかすむ草原はそれは美しかった。女子組4人揃っていれば料理はおいしいし、忙しい日々と違って、のんびり過ごせ、休暇のようなものだった。もちろん、朝の訓練はあるし、馬車の中では、夏の学院に向けた勉強会だ。
『あれは何ですか』
『山と草原です』
『空が青いです』
『馬車は走っています』
『花がきれいです』
などと、つたない帝国語も飛び交う。宿に来る学院卒業生も時々勉強は手伝ってくれるのだが、帝国語はあまり熱心に勉強してこなかった人が多く、発音はあやしい。
「だって実際、帝国語はニルムででもなければ使わないぞ?商人と外交に関わる人くらいだな」
数学は馬車酔いするのでせず、歴史、地理、文学などを交代で勉強する。
そうこうするうちに、王都の東門が見えてきた。今回も並ぶ。
「前回、大変だったよね」
とマル。
「チッ、リカルドとディーエか」
「結局のところ、訓練してくれていい人たちだったじゃねえか、まあ、あんまり気にすんなよ、たかがオレたちに、そんなに時間はつかえないだろ」
「あ、リカルドさんと、ディーエだ」
「「「えっ!」」」
「やあ、アーシュ、みんな、元気だったかい」
「あいかわらずオレは呼び捨てかよ」
ふん!
「いやいや、アーシュ、むしろ私も呼び捨ててくれていいのだよ、ほら、リカルドと」
「……、ディーエさん、すみませんでした、ディーエさんと呼ばせてください」
「残念だ」
(((アンタが残念だよ……)))
「リカルド、メリルから客人が来たと聞いたが」
「ギルド長、はい、この者たちです」
「……ご親戚か何かか」
「親戚のようなものですが」
「マリアです」
「ソフィーです」
ニコ、ブランと、アーシュまで順番にあいさつしていく。
「おお、王都を楽しむとよい、かわいらしいことだ。ところで西ギルドの客人は。東ギルド長としても一言あいさつしておきたいのだが」
「この者たちですが」
「?」
「この者たちです。正確にはこちらのお嬢さん4人です」
「な!いや、まさか……」
マリアが目配せする。(にっこりよ)
「「「「よろしくお願いしまーす」」」」
「え、お、あー、よろしく頼む」
「「「「はい!」」」」
「西ギルド長から、落ち着いたら直接西ギルドに来るよう言付かっている」
「わかりました、リカルドさん」
「またお邪魔させてもらうよ」
「はい!」
「オレもな」
「……はい」
「……ホントに邪魔だし……」
「まあ、また訓練してもらおう」
「リカルド、あれ……」
「ホントに彼女たちです、11の月には、小さい子2人と男の子でした」
「なんと!」
「大きい子2人は実質メリルの朝食、ランチを動かしていたはずです」
「それは……」
「西が成功したら、こちらにも来てもらったらいいんです。失敗しても、こちらには被害はありませんよ」
「それはそうだが」
「お手並み拝見ですよ」
「そうだな、様子見だな、しかし、かわいらしい」
「わかりますか!」
「隊長、ギルド長、仕事してくださいよ」
「お、おう」
さて、まず、メリル領主館に向かう。
「東門隊長とホントに知り合いだったんだな」
「変なヤツなんだよ」
「へーん」
「私にとっては、親戚のおじさん、みたいな人かなあ」
「あー、うん(気の毒に)」
「しばらくお世話になりまーす」
領主館にいる間は、マルとふたり部屋だ。
夜、マリアが招集をかけた。
「東ギルド長、どう思った?」
「普通に優しい人?」
「マルもそう思った。マリアは?」
「そうね、気難しいところはあるけど、優しそう、そして融通がきかない感じ。グレアムさんがいうほど、面倒そうな人じゃないわ」
「うーん、確かに固そうではある」
「カッチカチ!」
「それは中央じゃなかった?」
「西ギルドの次は東ギルドよ、対策をねっておかなきゃ」
「成果を上げるしかないと思うな」
「それはもちろんよ、でもね、にっこりはきいたでしょ」
「「確かに」」
「珍しいことに、目線が私とソフィーじゃなく、アーシュとマルに行ってた。奥さんを大事にしてて、子ども好きなんじゃないかしら」
「「なるほど」」
「負けず嫌いって言ってたでしょ」
「「言ってた!」」
「だからね、名付けて『グレアムさんと同じくらい、東ギルド長も優しくて大好き』作戦よ」
「「はあ?」」
「だって、仕事だよ?そんなん、きかないよ?」
「きかないかもしれないわね。でも、やってマイナスはある?」
「「ない」」
「では、私とソフィーは、控えめに、優しく」
「余裕ね!」
「ソフィーはお転婆だから言ってるのよ」
「そ、そんなこと……」
「はいはい、アーシュとマルは」
「いい人って思えば自然と好きになるよ」
「それでいいわ。でも、まずは……」
西ギルドで、勝負だ!




