マリアの思い
今日の2話目です。
私はマリア。もうすぐ14歳になる。今日、ザッシュとクリフ、それにダンが王都に旅立った。ザッシュは前を見つめ、希望にあふれていた。わかりやすい子だ。
ニコやブランも冒険者になり、私とソフィーも定期収入ができたので、みんなで話しあい、パーティを一旦解散することにした。子羊を抜ける訳ではない。ここからはザッシュとクリフ、ニコとブラン、そして私とソフィーの組み合わせで動くことになる。
「自由だな」
「マリア、急にどうしたの?」
「だってソフィー、もうザッシュとクリフが無理しないか心配しなくていいんだよ」
「そうかなあ、私は少し不安だな。それに、ニコとブランがまだいるでしょ」
「そうなんだけどね」
私にとってのザッシュとクリフは、弟のようなもの。同じ年だけど、引っ張っていこうとするけど、足元が抜けてて、前のめりになってて、ころびそうになってる。冒険者になった時は、それが行き過ぎてどうしようかと思ったけれど、アーシュのおかげで地に足がついた。それも今日で卒業だ。
私は港の街、シースで生まれた。私と同じ、金髪に青い瞳の、それは美しい母親と、ハンサムな父親だったのを覚えている。小さな商家の娘の母は、大店のボンボンに見初められたそうだ。
しかし、父に商売の才はなかったのだろう。物心つく頃には、すでに没落していたと思う。父と母と3人で、再起をかけて王都に移住し、ほそぼそと暮らしていたが、やがて父が帰らなくなった。母に連れられて行った先には、父と美しい金髪、青目の娘がいて、幸せそうに笑っていた。
そこから母は荒れた暮らしをするようになり、やがて美しく育った私も、狙われるようになった。母は守ってはくれなかった。追いかける手を振り払い、私は通りがかりの馬車に潜り込んだ。そして、メリルにたどりついたのだ。
だから私は正確には孤児ではない。おそらく父も母も生きている。そしてもう二度と会うつもりはない。そんな私にとっては、この金の髪と、青い瞳はむしろ呪いだ。美しい一時は、みな褒めそやすだろう。しかし、枯れ始めたらすぐ新しい花の元に行く。そして今日もまた、私の外見のみに惹かれて、虫が寄ってくるのだ。
「あ、ニコだ」
ソフィーが気付く。ニコが、こちらにまっすぐ向かってくる。いつも眠そうに細められた目を、いっそう細くして。いつからだったろう。ニコの目線が私を越えたのは。目を合わせるのに、上を向かなくてはならなくなったのは。
「マリア、これ」
「まあ、リリアの花ね、ちょうどよかった、食堂にいけてくる!」
「「あ」」
花束をソフィーに奪い取られたニコの手が上がり、下がる。
「ありがとう、春の花ね」
「元気、ないかと思って」
「なぜ?」
「ザッシュが、行っただろ」
「そうね、さみしくなるわね」
「だな」
「じゃあ、オレ、行くわ」
「また夕ご飯にね」
「おう」
ひとつ落ちたリリアの花を拾い、そっと胸に抱く。
おひさまのように、空のように、まっすぐ見つめるその瞳があるなら、この金の髪も悪くないと思える。
それならば、私は光の中に立っていよう。
あなたの、その手が届くまで。




