高く飛ぶ前には
お祝いの日もお茶の販売は続け、10日間やったことになる。結局、アーシュ分レーション12万ギル、ダン分14万ギル、そのうちマルにアルバイト代として各3万ずつ渡した。ちなみに東門隊長は、相変わらず時間を見つけてはやってきていた。
「実際は学院に行くから、人件費結構かかるよ」
「もうけも大事だけど、今は自分のできる商売の形をいろいろ探してみたいんだ。それに、孤児や若い奥さんをなるべく雇おうと思うんだ」
「ダン……」
「アーシュも収入の少ない人、先に雇ってるだろ」
「気がついてた?」
「うん」
「明日のパンがない暮らしは、厳しいからね」
最終日、西ギルド長に呼ばれた。
「お茶の販売、お疲れさまだったな」
「機会をくれて、ありがとうございました」
「評判もいいし、続けてもらいたいくらいだが」
「そのことでお話があります」
「なんだね」
「オレは来年4月から、学院に来ます。その時に、またお茶の販売をさせてもらいたいんです」
「しかし学業との両立は難しいだろう」
「人を雇います」
「人を?」
「今回で販売のモデルはできました。オレは来年3の月には王都に来て、オレがいなくても販売できるようにするつもりです」
「それは……」
「アーシュがメリルでやっていることです。今はアーシュがいなくても、みんなある程度は動きます。西ギルドがうまく行ったら、各ギルドにその仕組みを広げられたらと思っています」
「君たちはそんな先まで……」
「レーションも、ホントは王都でも作って販売したいんです」
「アーシュ君、そうしてくれると助かるのだがな」
「でも、原料となるものが手に入りにくく、割高になってしまうんです」
「原料……か」
「わかった。ダン君の提案を受けよう。明日から、なんでお茶がないんだと、冒険者からも職員からも突き上げられることを覚悟していたのだが、3の月まで待てと言えば、少しはおさまるだろうよ」
「ありがとうございます!できれば、料理のできる若い奥さんと、オレ達くらいの子どもを雇いたいのですが……」
「ああ……ありがたい、こちらでみつくろっておいていいか」
「お願いします」
「それと、この手紙をグレッグに。13の月の3の週にメリルに行くからと伝えてくれ」
「わあ、グレアムさん、メリルにくるの?」
「ああ、1の月にギルド長会議があるんだが、参加したがらないやつのお迎えにな。子羊館に泊めてくれるか?」
「高級じゃないし、若い人が多くてうるさいですよ」
「まだ若いつもりなんだが」
「あー、はい、もちろん、大歓迎です!」
「うむ、よろしくな」
「はい!」
このようにして、全員合格とお茶販売の許可を勝ち取って、メリルに帰ることができた。
メリルでは、帰ってすぐに、勉強の計画を立てた。王都組も合わせ、得意科目を各一教科担当し、教師役と生徒役に別れて授業と自習を繰り返す。12の月は、本当に何も起こらず、頼まれ事もされもせず、平穏に過ぎていった。
13の月は、メリルでも真冬だ。その寒さの中、3週目に、グレアムさんがやってきた。




