アーシュ15歳9の月ノールの先は
そんなことを久しぶりに二人で話していたら、ダンとウィルがやってきた。ちなみにマルはサラとフライの研究をしている。
肉肉しいものはマルは何でも好きだ。フライの研究?私はふと思い出した。そう言えば串揚げってあったなあと。いや、まずいまずい、そろそろ帝都に帰らないと学校を休み過ぎているし。
「よう、セロ、海に出てたんだって?」
「ああ、北領のほうまで行ってきた」
「な、お前、それ今ばらしたらアーシュが……」
「もうばれた」
「はあ。まあアーシュ、ほら、男のロマンってやつだよ」
「何も言ってないよ私は。セロとね、海でシュレムまで行けたらいいねって話をしてただけ」
「そしたらメリダも近いしな」
ウィルとダンは顔を見合わせた。
「俺たちはさ、魔道具を見せて、鍛冶の人に外側だけでも作れないか一緒に相談してたんだよ」
ダンが言った。
「外側だけ作ってもだめでしょ」
「魔道具としてはな。でもアメリアさんに新しいものを頼んだ時は、まず鍛冶屋が基本の道具を作って、そこから魔道具に作り変えていってただろ。だからまずその力があるかどうか」
「結果は?」
「十分だと思う。アーシュが作ってもらってたケーキの型なんかも作ってもらえると思うぞ?」
「それは帝都でもできるからなあ。ただ、キリクの人が使う分にはいいかもね」
ウィルは、
「将来的にはさ、ここにメリダから魔道具技師を呼びたいんだ」
と真剣な顔で言う。
「すごいこと考えるね。彼らがメリダを出るなんて考えられないんだけど。出たとしても帝国でしょ?」
「帝国なんかに住んだら、使いつぶされるって。ここでのんびり簡単な魔道具を作ってもらって、キリクに普及させたいんだ」
「たしかに、移動の多いキリクの民には、魔道具はどんなものでも最適だと思うな。けどね、メリダってけっこう居心地いいでしょ。それを捨ててまで来る理由がないと思うよ。富が得られる国ではないし」
「病だよ」
「病?」
病が何の関係があるの。
「オレたち、魔法師として、人に攻撃は絶対しない。けど、帝国がどう使うかはわからないから魔法は教えないって、メリダを出る時教わってきたよな」
「だからダンジョンでもあんまり使わないようにしてきたしね」
「けど、キリクはどうだろう」
「どう?」
「悪用するだろうか。キリクは完全に内側に、ダンジョンに向いた国だ。冒険者がいない代わりに国の多くの者がダンジョンに潜ることを当たり前だと思っている。魔法を、魔物以外に使うだろうか」
「うーん。魔力比べとか魔力対決とかしそうだけどね」
「はは、確かにな。けど、大丈夫なような気がするんだ。だから、病だ」
「病の治ったものに魔法の使い方を教える、と」
「素質があるってことだからな。そしていずれはこの国で魔道具の技師を育てたいんだ。魔力量が多くないから、そんなに大したものはできないかもしれない。でも、新しくて難しい魔道具を作ってほしいわけじゃないんだ。魔力コンロ、トイレ、風呂。生活に必要なものだけでもさ。ここで賄えたら」
「そうだね、メリダからの輸出もここまではほとんど届かないものね。競合するわけでもないし」
ウィルはさらに続けた。
「せめて一年の滞在。その間に基本を教えてもらう。それだけでもできないだろうか」
ああ、ウィルはもうキリクの人なんだね。みんなを幸せに、先の先のことまで考えている。
「できるよ、きっと」
「できるかな」
「何年かけてもいいんだよ」
そうだ。まだ17歳なのだ。ダンもこう言った。
「その間に俺は、やっぱりフィンダリアに行って商売を起こすよ」
「私もフィンダリアに行きたい」
三人は私のほうを見て、少し首をかしげた。
「そう言えばアーシュって、自分からどこかに行きたいって言うことほとんどないよな」
「ダンかセロが行きたがって、ついて行って巻き込まれるみたいな感じ」
「商売だって最近はあまり考えてないしな」
キリクに来て獣脂を作ってドーナツとフライを広めて、十分だと思うのだけど。
「うん、やってることは大きいことなんだけど、自分から何かしてるわけじゃなくて、状況に流されてるって言うかさ」
「悪いわけじゃないよ」
「ただ、やりたいことあるならちゃんと言えよって話」
うん。
「私ね、やっぱり宿屋がやりたいの。みんなを食べさせてちゃんとしたところに住ませたかったから始めたことだけど、住むところを整えて、おいしいご飯を作って、たくさんの冒険者が来ていたあのころも楽しかったんだ」
セロが少しさみしそうに言った。
「オレが冒険者にさせたから」
「だからこうして一緒にこれたんだよ。何にも後悔していない」
「でもさ、具体的にどうするか考えてる?帝国の冒険者はあんまり数がいないし、キリクの旅行者は少ない気がするけど」
「フィンダリアから始める」
私は考えを話した。
「前ナズに話してて思ったんだけど、海沿いに一つ、名物になるような宿屋をたてる。そうして、フィンダリアと帝国から客を動かすの。できれば途中にも宿屋を出して、うちの宿屋に泊りつつ、最終的には保養地についてくつろいで帰るみたいにしたい。移動のための馬車を専属で雇うとか、ダンの父さんがメリダで作った馬車みたいな寝泊まりできるような馬車を作ってもいいし。それから」
「待て待て、話が大きいぞ」
ウィルがあせって止めた。しかしダンが話を促した。
「資金は」
私はニヤリとした。
「特許で結構稼いでる」
「俺と共同でやる気はあるか」
「もちろん。やるなら誘うつもりだったよ」
そしてセロを見た。
「そしてね、いずれはあちこちの街に子羊館を増やしていくの。特にね、港町には必ず作るから」
「セロの行くところに子羊館あり、か」
「うん」
「いいのか」
「うん。少し離れてももう大丈夫。セロこそ大丈夫?」
「不安。でもやってみたいんだ。客は作ればいい、か」
「うん。人も物も動かして、キリクに来やすいようにしよう」
なんでこんな話になったのかな。でも、今将来の扉が開く音がした。
「オレはキリクとメリダをつなぐ」
とウィル。
「じゃあオレは海路を」
とセロ。
「俺は陸路を」
とダン。
「私はやっぱり宿屋を」
4人で静かに誓いあう。
「「「「そうして、マルのいるキリクを守ろう」」」」




