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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
帝国へ行く子羊編

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アーシュ15歳4の月新しい生活

ギーレンさんの言うとおり、4の月には治療院はなんとか落ち着き、いや、忙しさはますます増したらしいが、私たちの出番はとても少なくなった。平日の2日ほど、放課後治療院へ行って手伝いをする。手伝いといっても新しく来た医者への指導だったり、魔力を魔石になかなか移せない患者への対応だったりして、割とがんばっているとは思う。誰が病気の治療法を見つけたかは、もう隠し通すレベルではないので、帝国人ではないからとか、若いからとかいう批判はあまりされなくなった。


学校はクラスは持ちあがりで2年の時と変わらない。フローレンスは治療院で忙しくしており、一緒に遊ぶことは少なくなったが、ナズとハルクとフーゴは一緒だ。もちろん、イザークともテオドールともエーベルとも仲は良い。学校の奉仕活動も定期的なものとして続いている。クラブは一時奉仕活動が中心になってしまったが、今は落ち着いているので、私たちも積極的に参加している。去年はやはり女の子らしく見られたいという思いもあったのだと今では思う。しかし朝の訓練だけでは、実力を維持するのも難しい。クラブに参加して、対戦もしっかりするようになった。騎士科の生徒たちは大喜びだ。もう「弱いくせに」と難癖をつけてくるものは一人もいない。


そうして平日は忙しくしていても、6の日と7の日はまるまるお休みだ。そこで屋台を出している。


マルの串焼きはお店でも販売しているもので、すぐにでも売り出せる状態だ。丸くて穴のあいているドーナツは手間がかかるので、タネを作っておいてスプーンですくって落とす、私の売るドーナツはそんなものだ。揚げたてに砂糖を少しまぶしてできあがり。本当はしっかりまぶしたいが、そうするとドーナツ本体よりずっと高くなってしまう。だからほんの少し。それでも甘味の少ないこの世界ではおいしいおやつになる。そもそも油をたっぷり使う時点でぜいたくでもある。


今度は無理をしないよう、6の日の11時くらいから始めて、売り切れたらおしまい。片付けをしたらマッケニーさんのところに行き、キリク語と乗馬を習う。その間マッケニーさんは常にうろうろしている。そしてご飯をごちそうになって帰ってくるのだ。


6の日にしか出ない幻の屋台の噂はすぐに広がり、お昼になる前に売り切れることもあった。ダンは便乗して隣でお茶を売っているし、セロとウィルは売り子をしている。ナズもハルクもおもしろがって手伝ってくれている。フーゴなどは悔しがり、


「朝食の仕組みみたいに広げたらいっぺんに儲かるのに!」


とブツブツ言っていたが、おそらくそれをやると去年の二の舞いになり、休みも取れず働くはめになる。おいしいものを売り、買いに来る帝都の人とたわいない話をして笑う。そして1週間分のおこづかいを稼ぐ。帝国に来てから初めて、のんびりと暮らしている実感がある。


では7の日は、というと、ダンジョンに行っていた。午前中は荷物持ちを連れ歩き、訓練をする。昼にはいったん戻り、午後から夕方遅くまで本気のアタックをする。何ヶ月も冒険者として働いていなかったので、ストレスがたまっていたらしい。ハルク、アロイス、ライナー、ベルノルト、そしてテオドールやエーベルは、ここで実力に応じて午前中についてきたり、午後についてきたり、自分たちで組んで潜ったりと、自由に動くようになっていた。


そしてグレッグさんとカレンさんは、忙しい中結婚式を挙げた。本来は婚約期間はもっとおくものらしいが、2人とも適齢期はとっくに過ぎている。そのうえ叙爵されたグレッグさんだけでなく、今回大活躍だったカレンさんにも価値が高まっており、早く結婚しておかないと、よこやりが入りそうだったからという理由もある。


結婚式でも屋台を出そうかと言ったら怒られた。いい考えだと思ったんだけどな。


やわらかな薄紅色のドレスを着た花嫁さんはとてもきれいだった。グレッグさんはとても照れていた。そして叙爵の時にもらった小さいお屋敷に、2人で引っ越していった。


新婚旅行も何もなく、2人とも仕事に戻っていったのは切なかった。そういうものだそうだ。


そうそう、去年の後半はダンジョンにあまり潜らなかったので、昇級は期待していなかったが、『涌き』の功績があったので、グレッグさんの許可により特別にB級に上がることができた。


ダンジョンに行くと、ニコとブランに会うのも楽しみだ。ニコとブランは今年は帰らず、もう一年残るという。


「お前たちが心配だからってわけじゃねえ」


マリアとソフィーのことを心配する私たちが、もう大丈夫だからと言うと、ニコはそう言った。


「正直今回の騒動は、メリダに連れ帰ろうかってレベルだったが。なんとか収まったようだしな。いざとなったらグレッグさんがいる。だけどな」


ニコは続けた。


「まだダンジョンを全然回ってねえんだよ!とくに北領な。グレッグさんの手伝いも少し落ち着いたし。本気で。がっつりと。ダンジョンに潜ってからでないと帰れねえ」

「オレはどっちでもいいけどな」


ブランは気楽なようだ。


「ノアたちもそうらしい。まずお前たちについてキリクにも行くだろ。帝国に戻ってきたら北領にも行って、そしたら来年の春に帰るよ」


キリクについて来てくれるんだ。それはうれしい。でも乗馬の訓練をしておかないと。


「そこはグレッグさん経由で騎士団で教わってるから」


ふむ、大丈夫と。セロとのことは、


「やっとか」


で済まされた。ああマリア、ソフィー、こんなときにそばにいてくれたら!


「『バカねアーシュ、やっとね』って言われて終わり」


マル……。うん、そうかもしれない。子羊の姉さんたちは、時にはとても厳しいのだ。セロとの婚約のことは、グレッグさんもカレンさんもとても喜んでくれた。グレッグさんは


「あの小さい子猫たちがなあ」


と言って、天を仰ぎ、そのままノアさんたちとニコとブランを連れてどこかに行ってしまった。カレンさんは、


「おそらく酒場ね」


とくすくす笑っていた。


屋台を引いてアレクの屋敷にも遊びに行った。忙しくて自業自得なアレクのために、屋敷の庭で屋台を開き、アレクにもフリッツさんにも、屋敷で働いている人にも串焼きとドーナツとお茶を提供したのだった。


「そうか、ついに婚約したか、イザークでもアロイスでもよかっただろうに」

「アレク様、またうかつなことを!セロ様、アーシュ様、おめでとうございます。後ほどお祝いをしませんと」


アレクはあいかわらず少し残念だった。


そんな楽しい毎日の中、気になることが少しだけあった。マッケニー商会だ。正確には、マッケニー商会で会う若い店員の人たちだ。ウィルもマルも気にしてはいないのだが、何となく敵意を感じるのだ。マッケニーさんに大切にされているのはわかっているはずなのに、なぜだろう。

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