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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
帝国へ行く子羊編

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228/307

アーシュ14歳3の月不安のその先

今日はとても短いです。

「あれ、またアーシュが」


ウィルが言った。


「あーあ、ときどき不安になるんだからな、アーシュは」

「しかたない。今回はアーシュは本当に疲れたから」


マルが優しく言ってくれた。そうかな。みんな一緒に働いたじゃない。


「命に責任を持ったのはアーシュだからな」


そうなのかな。


「とりあえず、明日は治療院を抜け出して、帝都巡りでもしようか、アーシュ」

「でも」

「今重病の患者はいないだろ。治療できる医者も増えてきたから大丈夫」

「うん、行こうか、セロ」

「じゃオレたちはちょっと父さんの所に行ってくるわ」

「父さんにも会わないとうるさい」

「俺はフィンダリアの人にもう少し話を聞きたいから」

「じゃあオレとアーシュは街で遊んでくるな」


3の月はまだ寒いけれど、厚着をして2人で街に出かけた。お店をのぞいて、屋台で立ち食いして。ちゃんとお店に入って、お昼も食べた。そしてお城のそばの公園までやってきた。ここから帝都を見渡せる。


「人と建物ばかりだね」

「そうだな」

「王都でも、城壁に登ったら反対側には平原が見えたのにね」

「そうだな」

「セロは」

「ん?」

「卒業したら、どうするの?」

「うん、アーシュ、こっちにおいで」

「うん?」


セロは枯れた芝生の上に座り込み、おいでおいでと言った。そして小さい時のように後ろから私を抱え込むと、私の頭にあごをのせた。あったかい。


「どうすると思う?」

「んー、フィンダリアかな、行ったことないから」

「それから?」

「えーとね、南領。それから北領。それとキリク」

「ははっ、それ、全部アーシュが行きたいとこだろ」

「ん?そうかな?そうかも」

「オレは遠くにいきたい」

「うん」


知ってるよ。小さい頃から。


「アーシュと一緒に」

「一緒だよ」

「なら、何を悩む?」


何を?


「いつか」

「うん」

「行きたいところが違ってしまったら」

「うん」

「セロと道が分かれたら」

「うん」

「1人になったら」

「うん」

「私は何がしたいのかなって」

「そうか」


セロはふっと息をはいた。


「アーシュはバカだよな」

「ええ?」


バカはないでしょ。


「言ったよな、アーシュと一緒に遠くに行きたい」

「うん」

「一生」

「うん?」

「道が分かれることも、1人になることもないんだ」

「あ……」

「ちゃんと、家族になろう」

「うん」

「2人で、どこにでも行こう」

「うん」

「オレが行きたいところにアーシュも行って」

「うん」

「アーシュがやりたいことをオレもする」

「うん」

「そうして一緒に生きていこう」

「セロ」

「うん?」

「先に行かないでね」

「うん」

「1人にしないでね」

「うん」


セロがぎゅっと抱きしめて、ほほにそっと唇が触れた。


「アーシュ真っ赤だ」


それはきっと夕日のせい。

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