アーシュ14歳3の月不安のその先
今日はとても短いです。
「あれ、またアーシュが」
ウィルが言った。
「あーあ、ときどき不安になるんだからな、アーシュは」
「しかたない。今回はアーシュは本当に疲れたから」
マルが優しく言ってくれた。そうかな。みんな一緒に働いたじゃない。
「命に責任を持ったのはアーシュだからな」
そうなのかな。
「とりあえず、明日は治療院を抜け出して、帝都巡りでもしようか、アーシュ」
「でも」
「今重病の患者はいないだろ。治療できる医者も増えてきたから大丈夫」
「うん、行こうか、セロ」
「じゃオレたちはちょっと父さんの所に行ってくるわ」
「父さんにも会わないとうるさい」
「俺はフィンダリアの人にもう少し話を聞きたいから」
「じゃあオレとアーシュは街で遊んでくるな」
3の月はまだ寒いけれど、厚着をして2人で街に出かけた。お店をのぞいて、屋台で立ち食いして。ちゃんとお店に入って、お昼も食べた。そしてお城のそばの公園までやってきた。ここから帝都を見渡せる。
「人と建物ばかりだね」
「そうだな」
「王都でも、城壁に登ったら反対側には平原が見えたのにね」
「そうだな」
「セロは」
「ん?」
「卒業したら、どうするの?」
「うん、アーシュ、こっちにおいで」
「うん?」
セロは枯れた芝生の上に座り込み、おいでおいでと言った。そして小さい時のように後ろから私を抱え込むと、私の頭にあごをのせた。あったかい。
「どうすると思う?」
「んー、フィンダリアかな、行ったことないから」
「それから?」
「えーとね、南領。それから北領。それとキリク」
「ははっ、それ、全部アーシュが行きたいとこだろ」
「ん?そうかな?そうかも」
「オレは遠くにいきたい」
「うん」
知ってるよ。小さい頃から。
「アーシュと一緒に」
「一緒だよ」
「なら、何を悩む?」
何を?
「いつか」
「うん」
「行きたいところが違ってしまったら」
「うん」
「セロと道が分かれたら」
「うん」
「1人になったら」
「うん」
「私は何がしたいのかなって」
「そうか」
セロはふっと息をはいた。
「アーシュはバカだよな」
「ええ?」
バカはないでしょ。
「言ったよな、アーシュと一緒に遠くに行きたい」
「うん」
「一生」
「うん?」
「道が分かれることも、1人になることもないんだ」
「あ……」
「ちゃんと、家族になろう」
「うん」
「2人で、どこにでも行こう」
「うん」
「オレが行きたいところにアーシュも行って」
「うん」
「アーシュがやりたいことをオレもする」
「うん」
「そうして一緒に生きていこう」
「セロ」
「うん?」
「先に行かないでね」
「うん」
「1人にしないでね」
「うん」
セロがぎゅっと抱きしめて、ほほにそっと唇が触れた。
「アーシュ真っ赤だ」
それはきっと夕日のせい。




