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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
帝国へ行く子羊編

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226/307

アーシュ14歳13の月アレクは成長したか


「え」

「東領でだって、アーシュが出しゃばったわけじゃない。侯爵に頼まれた親戚が、子どもだったから好意で見ただけだ。それがいつの間にか大きな話になって、アーシュが巻き込まれた。もう巻き込まれないように、東領と北領で実績を作って、少しずつ帝国国内で、帝国の力で病を治すはずだったんだ」

「しかしそれでは時間がかかる」

「当たり前だろう。新しい考えだぞ。アレク、なんでアーシュがそんな遠回りのやり方をしたと思う」

「……」

「おれたちはいずれ出ていく。帝国は自分たちの力だけで、自分の問題を解決すべきなんだ」

「出ていく……まさかメリダに戻るのか」

「どこに行くかはわからない。けどここには留学に来ただけなんだ」

「セロとウィルとマルは騎士隊にと思っていた」

「なんで、オレたちはメリダの民だ。帝国に忠誠を誓ってはいない。言っただろ、まだ見に行っていない海がたくさんあるんだ」


「……行ってしまうのか」

「まだ一年以上先だ。オレはお前に仕える気はない。友だちならそれまで一緒にいろいろなことをすればいいだろう」

「友だち」

「アレク、いいか、アーシュが忙しくて休めないのも、心ない仕打ちを受けるのも、お前がアーシュを巻き込んだからだ」


アレクは絶句した。


「アーシュが傷つけられたくないのなら、アーシュをはずせ。できるか。アーシュをはずしたら、お前の民が苦しむぞ」

「それはできない」

「できないなら耐えろ。アーシュを苦しませた責任を持て。アーシュなしで動くようにこの事業を成功させろ」

「……」

「鳥は閉じ込められたら、逃げるだろう。自由に飛ばせてくれたら、羽を休めに戻ってくる。アレクはオレたちにとっての籠か、止まり木か」


アレクは答えない。


「アレク、フローレンス、あと2日だ」


お昼休みは終わった。


6日目、熱は引いたものの、やはり体の弱っていた2人がなくなった。フローレンスとアレクは、2人が運ばれていくのを、並んでいつまでも見ていた。


7日目、代表となる文官が決まった。南領侯爵家二男のギーレンという人だ。これで五侯爵すべてから人材がそろい、貴族のバランスが整った。この人は優秀だった。就任の際にきちんとした暫定予算をもぎ取り、ここまで学生と一部の侯爵家に頼っていた治療院の物資と人手の流れを一気に整理した。


「君たちがテオドールを変えたという留学生か」


その人はにこやかに言った。テオドールのお姉さんの嫁いだ先だそうだ。


「やっと会えた。おもしろそうだと思っていたんだ。しかし」


ちょっと残念そうに言った。


「私が相手をしてもらう前に、もうだいぶ疲れてしまったようだね。この取り組みはアレクセイ様の事業として大きく発表される。すると、地方や、自宅で治療していた病の人が次々と訪れるようになる。おそらく数カ月は大混乱だ。こんな国家的事業、勢いで始めていいものではないのに、病が治ったから浮かれたのか、これだから騎士隊の者は……。すまない。君たちには、一ヶ月どころではなく、おそらく3の月までは治療院に通ってもらわなければならなくなる。その代わり」


ギーレンさんは言ってくれた。


「批判や不満が君たちに行かないよう、しっかりと守る。また、4の月以降この件で相談や短期の協力を仰ぐことはあっても、わずらわせないようにすると誓おう」


7日が終わって、フローレンスはすっかり落ち着いてこう言ってくれた。


「私は明日からカレンさんについて働くわ。本来はそうすべきだから。アーシュ、私はやきもちをやいていたのね。恥ずかしいわ。傷つけてごめんなさい」


そう言って少し涙ぐんだ。


「あなたはやっぱりまぶしかった。どうしてかしら、学校では元気で明るい普通の女の子なのに、やっていることはあまりにも大きくて、その違いにとまどってばかりだった。学校で仲よくしているアーシュには違いがないのに。でもね、並んで歩いたらまぶしくないことに気づいたの。それにね」


フローレンスはちょっといたずらな顔になって言った。


「内緒だけど、アレク様にはちょっとがっかりしたの。小さいころからの憧れで、もっと大人のかっこいい人かと思っていたわ。でも、行き当たりばったりだし、計画性はないし、何より甘えんぼなのね」


がっかりした顔じゃないよ、もっと好きになったって顔だよ。


「私もカレンさんに比べたらぜんぜんだめ。アーシュのように民のことをしっかり考えることもなかった。だからね、これからアレク様と2人で成長するの。アーシュ、また友だちになってくれるかしら」


もちろんだよ!


一方、アレクは7日を過ぎても何も言わなかった。別に私たちも何か回答を求めていたわけではない。ただ、何かを少しでもわかってほしかっただけなのだ。


しかし、もう冬の休みも終わろうかという時、やっと顔を合わせる機会があった。


「治療院に来たかったがギーレンにこき使われていたのだ。学校の先輩だから微妙に頭が上がらない」


とぶつぶつ言っていた。しかし、


「アーシュ、すまなかった。考えるのに時間がかかってしまった。お前たちが離れるかもしれないと思ったら、それ以上考えられなかったのだ。もしメリダに戻ってしまったら、私の立場としてメリダに行くことはないから、もう一生会えなくなるではないか。なんとかしてここにとどめないと思い、」


アレクが危険な発想に!


「そうではない、セロが何と言ったか、籠か、止まり木かと。どちらもいやだ。私も一緒に飛び立ちたいのに、私はこの帝国という大きな籠から出ることはできないのだ。それならば、いっそのこと籠になろうかと」


危ない!


「思うほどは愚かではないつもりだ。しかしアーシュ、お前についていて、なぜお前がこんなつらい思いをしなければならないのだと、治療してもらって愚かものめなどと考えていた自分が、一番愚かだった。お前の優しい手に甘えて、あの状況に放りこんだのはほかならぬ自分だというのに」


よかった。わかってくれたんだね。


「ギーレンには時期尚早だの考えなしだと散々怒られた。しかし動き出してしまったからには止まらない。早く手を尽くせば何とかなったのに、もの言わぬ民を送り出すはめになるのはもうたくさんだ。お前たちにはまだ面倒をかけるが、よろしく頼む」

「まあ、こんなものか、アレク、ギリギリ合格だな」

「セロ、お前も少し私に厳しくないか。私のほうが年上だし、一応皇弟だし」

「甘やかすのはフリッツさんだけで十分だろ」


確かに。それでも、わだかまりは消えてなくなった。


「忙しいかもしれないが、学校に入ってから全く会いに来ないではないか。また話しに来てくれ」

「フローレンスも一緒ならね」

「かまわない。しかしフローレンスも最近なんだか厳しくて……」


それはしかたない。


「なあ、アレク、剣は振れるようになったか」

「ウィル、もちろんだ」

「じゃあ、約束のあれ、やるか」

「やろう!」

「串焼き食べてない」

「そうだな、マル、暇になったら行こうな。みんなでこっちを見るな、わかってる、忙しくしたのは私だってことは」


そうだね。あちこち巻き込んで大騒ぎだった。そしていつの間にか1の月になっていた。今年はどんな年になるんだろうか。



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