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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
帝国へ行く子羊編

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212/307

アーシュ14歳10の月父親

「アーシュってさ、7歳の時お母さんいたんだな」

「うん、8歳になろうとする頃病気で亡くなったの」

「……さみしいな」

「うん。でも、すぐにセロたちと一緒になったんだ」

「その頃から一緒か」


串焼きとパンをもぐもぐとかじりながら話をする。


「とにかくセロもウィルもマルもやせてて、何とかして大きくしないとって思った」

「オレはとにかく、ウィルとマルを食べさせるのに必死で」


セロが言うと、ウィルが、


「え、オレはマルを食べさせようと必死で」


みんなでマルを見た。


「マルは」


マルは?


「何も考えてなかった」


へへっと笑った。マルらしいよ。


「最初はパンだけだった。でも、オレたちがパンを買って帰ってくると、具沢山のスープやジャムがいつの間にか出るようになって」


ウィルが続けた。


「あれ?アーシュはいつもオレたちが養ってくれたって言うけど、オレたちがいなくても大丈夫だったんじゃ……」

「必ずパンがあるってわかってるから他のことができたんだよ」

「そうか」


ウィルもふふっと笑った。


「アーシュには2度とひもじい思いはさせないからな」

「セロ……」


いい雰囲気の私たちの横でダンが、


「ま、セロよりアーシュの方が稼いでるんだけどな」


と、フーゴたちに解説している。気持ちが大事なんだよ。


メリダの学校の話などをしていた時、通りを3人連れの馬に乗った人が通りがかった。私はライナーに聞いてみた。


「馬に乗った人は珍しいね」

「人が多いと、馬は危ないからな。帝都内では、騎士隊の他は許可を取った人だけが乗れるんだ」

「なるほど。あれ?」


あの金髪は……。その人はこちらを振り向くと、馬からひらりと降りて、手綱を隣の人に預けて急いでやって来た。


「ウィル、マル!」


そう言ってマルを抱きしめた。


「おー、父さん、帰ってたのか」

「ウィル!学校は、ダメだあれは。寮は引き払って屋敷から通え。なかなか会えないではないか」

「でも、寮はタダだしな」

「うちだってタダだろう!せっかく帰ってきてもすぐに会えないとは……なに、マル、離せ?久しぶりなんだからいいだろう。ご飯中?それならしかたがない」


はは、マッケニーさんだ。


「面倒な部族長会議は終わったし。来年は連れてこいと言われたのでな、来年は一緒に行くぞ」

「面倒くさいな」

「部族長会議の折には若い者の力試しがあってな、いやー、今年も強いやつらがいて」

「行く!」


はい、ウィルがかかった。


「なあ、セロ、騎馬民族の国に来てみたくないか、丈の高い草原に、羊や大鹿が群れをなしていてな、それを馬で追う姿の勇壮なことといったら」

「行きます!」


はい、セロがかかった。セロが私たちを見た。


「なあ、アーシュ、ダン」

「いいよ」

「行こうか」


はい、私とダンもかかった。マッケニーさんはマルを見た。


「アーシュに釣られなくても行くのに」

「うっ、そうか、すまん」


笑い声がはじけた。そうだ、


「ウィル、友だちを紹介しようよ」

「あ、父さん、学校の友だち、イザーク、ライナー、フーゴ」

「「「初めまして」」」

「ああ、ウィルとマルが世話になっているようだね、ありがとう。私はスティーヴンという」

「あの、もしかしてマッケニー商会の」

「うん?そうだが、君は見覚えがあるな、確かハーマン商会の……」

「はい、息子のフーゴです」

「ほう、子どもたちと仲良くしてやってくれ」

「それはもちろん」

「そうだ、こちらも紹介せねば、アンディ、リューイ!」


馬を引いて2人がやって来た。わあ、みんな金髪に緑の瞳だ。


「マッケニーの一族の者だ。アンディはまあ、支配人のようなもの、リューイは商売の勉強をするために帝都の本店ではたらいている。アンディ、リューイ、これが息子と娘だ」


アンディさんはマッケニーさんと同年代だ。リューイは私たちより少し年上か。


「おお、そっくりだな、よろしくな、ウィル」

「一族なら親戚か、おじさんって呼んでいいか」

「っ、もちろんだとも。こちらは、おお、マルか、美しいな、よろしくな」


アンディさんは優しく笑った。


「スティーヴン、来年の会議は荒れるな、嫁取りの申し込み、覚悟しとけよ」

「はあ?マルは14だ。まだ誰にもやらぬ」


何やらもめている。


「リューイだ、よろしく」

「ウィルだ、よろしくな」


その後も自己紹介しあって、


「屋敷にこいよ!」


と去っていった。


「なあ、ウィルとマルって孤児じゃなかったのか」


フーゴが聞いた。さすがフーゴ、みんな気になってても言えないんだよ。


「ああ、オレたち小さい頃、誘拐されて捨てられたんだ」

「なっ」

「父さんとは帝国に来てから再会した。そっくりだろ、オレと父さん」

「うん、すごく似てた」

「なくしたものが見つかったわけだから、まあ、うれしいんだろ。気にすんな」

「気にならないわけないよ!」


「フーゴ、落ち着け」

「イザーク、でもさ」

「いっぺんにいろいろわかるわけないだろ。ゆっくり知り合えばいいんだ」

「……うん」

「しかし退屈しないな、お前らといると」


ライナーがふっと笑った。


「さあ、今日は午後から空いたし、肉屋のおじさんにでも会ってこようか」


やることはいっぱいある。




その日、フーゴは父親と宿題の話をした。父親は感心して言った。


「そこまでしてフーゴにわからせる必要はなかっただろうに」

「うん、口で教えてくれてもわかったと思う。けど、魔物肉を持って帰るってこと、魔石の取れ方、売り方、そして300ギルの価値」


フーゴは続けた。


「黒パンのまずかったこと!でも、それさえ食べられない人がいるんだ。それでも、働けさえすれば、自分で自分のパンが買える。そうしたら生きのびて、やがて色々なものを買えるようになるって、アーシュが言ってたんだ」

「そうか」

「うん。父さん、俺は、もちろん利益は考えるけれど、雇用を増やすことを考えてアーシュたちの手伝いをしたい」

「いいだろう」

「ホントは自分だけで手伝えればいい。けど、俺の財産だって父さんが稼いだものだ。俺の力がどうとかじゃなくて、今は、ギルドがうまく動くように、孤児院の子どもたちが少しでも仕事につけるようにすることが大事だと思うんだ。そのためには父さんの名前だって力だって借りて恥ずかしいとは思わない!」

「そうか」

「今度、アーシュたちやギルド長に会ってもらえますか」

「わかった。フーゴ」

「なに?」

「なんでもない。今日は疲れただろう、よくお休み」

「うん、お休みなさい」


いつまでも子どもだと思っていたが、いつの間にか大きくなった。こうして父さんに話してくれるのもいつまでか。フーゴが力を貸してくれと言うのなら、ハーマン商会の全力をもって力を貸そう。


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