表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この手の中を、守りたい  作者: カヤ
帝国へ行く子羊編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

176/307

アーシュ14歳5の月希望

次の日、どこにいてもみんながそばにいてくれた。落ちこんでなんかいられない。そしてその次の日、トーマスさんは1人でやってきた。


「まずおとといのこと、本当に申しわけありませんでした。お守りはちゃんと返しました」

「いえ、今日は何のご用でしょう」

「あれから、考えてみました」


トーマスさんは言った。


「お守り石、あれは魔石ではないですか」


よく気づきました。感心した。


「しかし、魔石がなぜ病気に効くのかは考えてもわからない。魔石はものを動かす元になるはず。体に何かを足すことで苦しさを軽減しているのか。活力を足しているのか」

「あれは、からの魔石なんです」

「からの?では何の力もないではないですか」


「カレンさんが熱を出した時」


私は話し始めた。


「メリダではよくある、子どもの魔力熱に似てるな、と思ったんです」

「魔力熱。帝国にはないが」

「そうらしいですね。魔力熱が出たら、生活魔法を教える合図なんです」

「生活魔法……からかっているのか?」

「メリダは剣と魔法の国。迷信じゃなくて、事実。ほぼすべての人が魔法を使います」

「はは、まさか」


「カレンさん、ライトを」

「はい、ライト」


光が出た。


「何かしかけが……」

「では風を」


風がうずまいた。


「なんてことだ……」

「これを主婦は、洗濯を乾かすのに使うんですよ。すぐに乾いて便利なんです」

「待ってくれ、待ってくれ、理解が追いつかない。メリダは魔法の国、本当なのか……」

「帝国では使わないと聞いておどろきました」


「では魔力熱は……」

「魔法を使うようになることで出なくなります」

「つまり、魔力のたまり過ぎ」

「そういうことです」

「では、からの魔石は」

「たまり過ぎた魔力を微量だが吸い込むのではないかと思い、用意してありました。意識して流し込むとしっかりと吸い込む。メリダでは魔石は再利用が当たり前です」

「足すのではなく、引くのか!」

「その通りです」

「……信じられない」


トーマスさんはつぶやいた。


「そうでしょうね」

「そうでしょうって君……」

「おとといの助手君、あれが普通でしょう」

「あれは、あれは本当に申しわけなかった」

「私も、これは理論のみです。成功例はカレンさんと魔石の女の子2人だけ。カレンさんは魔法に最初から抵抗がなかったから成功した。では魔法を信じない人には?それで考えたのがお守り石としての活用なのです。そして子供だから成功した。では、大人なら?」

「信じない、だろうな……」

「はい」


トーマスさんはため息をついた。


「しかし、私が見ているだけでも20人は患者がいる。ほぼ大人だ。幸い、すぐにどうこうという患者はいないのだが、いずれは……」


うつむいた。私はつぶやいた。


「20人か。人の命を軽々しく扱えはしないけれど、20人いれば、ある程度の検証はできる。例えば、魔石の冷たさを利用して、額に置く布のように熱をやわらげる道具として使うとか。1日1回、あるいは2回、短い時間で」

「……」

「助手君の説得、そしてからの魔石をどう手に入れるか……」

「君は……」

「はい?」

「あんなにひどくけなされて、それなのになぜそんなに親身に考えられるんだ」

「けなされたことは傷つきましたが、それとこれとは関係ないでしょう。できるから、やる。それだけです」


「魔石によるマイナスはないんだな?」

「あります」

「あるのか」

「大きい魔石だと魔力を吸いすぎる可能性がある。吸われすぎるとだるくなるんです」

「小さい魔石が無難か」

「はい」


トーマスさんは、大きく息をすった。


「試してみるか。アーシュ君、協力お願いできますか」

「そんなに都合よく行くか!」


ダンがどなった。


「迷信扱いされたとき、苦しむのはまたアーシュなんだぞ。アーシュは冒険者だ。これから高等学校にも行く。その未来を台無しにしかねないんだぞ」


「ダン……」


こんなに怒ったダンを初めて見た。いつもひょうひょうとして、商売熱心だけど冷静なダン。こんな辛い未来もあると、それを避けることを最初から考えてくれていた。


「落ち着け、ダン」

「セロ、しかし」

「これで何度目だろう。アーシュが大人に都合よく使われようとするのは」


セロが静かに言った。グレッグさんがちょっと気まずい顔をしている。


「アーシュはできるからやるって言ってるが、そう言って使い潰されかけたことが何度もあるんだ。今回は、そんなことはオレたちが許さない」

「セロ、でも、苦しんでいる人がいるなら」

「それはアーシュが背負うべきものではないんだ」

「……でも」

「アーシュ。お前の父ちゃんと母ちゃんが死んだのは、お前のせいじゃないんだ。誰にも助けられなかったんだよ」

「!」

「誰も彼もを救おうとしなくていいんだ。言ったろ?まだアーシュの手が1番小さいんだよ」


私はうつむいた。私はまだ父ちゃんと母ちゃんの死を納得できていないんだろうか。セロはその場の全員に言った。


「アーシュの考えを試してみるのはかまわない。人を助けたくないわけではないんだ。だが、帝国のものとして、責任ある大人として、自分たちが動いてくれ。アーシュを前に出すな。その考えが納得できるものなら、オレたちも動く」


息を継いだ。そして、ダンと顔を合わせ、2人で侯爵を見た。


「オレたちを巻き込む覚悟を見せてくれ」


しん、とした。


「ふ、ただの夢見がちな若者ではなかったということか」


アールさんが言った。


「経験です。面白いだけで留学させるにしては、オレたちに手をかけすぎている。なぜ貴族の学校に行かせるのか。疑問はいくらでもある」

「心外だな。本当に面白いと思っただけなんだが」

「今までのやつらと同じです。そしてアーシュの存在で何かが動き始めるのを期待してる。実際動き始めた。それも一つじゃない」

「それの何が悪い?」

「アーシュが傷つくのが。アールさん、自分の娘なら、おとといの助手の暴言を許しましたか」

「それは……」

「許さなかったはずだ。生活費がないことを、さらりと流せますか。流せなかったはずだ。アーシュのことは、面白いと思っても、守る気がない。自分で何とかするだろうと思っている。けどな、アーシュはただの14歳になったばかりの女の子なんだぞ。そしてあんたのモノじゃない」

「……」

「オレたちは帝国での冒険者の権利をもらった。第1、第2ダンジョンでノルマも果たしている。これから留学しなくても、自由に帝国を回り、ほかの国に行くこともできる。留学は、オレたちをとどめる足枷にはならない」

「枷などと……」

「オレたちをとどめるものは、誠実さのみ」


私の周りにみんなが立つ。


「そうでないなら、引かせてもらう」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ