アーシュ14歳4の月第1ダンジョンアタック
第1ダンジョン2日目。今日から4日間のアタックだ。
「10階まではなるべく急ぐ。雑魚は見逃せ。では行くぞ!」
ノアさんの掛け声と共にアタック開始だ。午前中には10階に着いた。
「ここから魔物をすべて倒す。明日、魔物がどのくらい回復しているかチェックする。10階を基地にして4日間の往復だ。いいな」
では腹ごしらえをしましょうか。ランチは作れなかったので、この時のための携帯スープをだす。久しぶりだ。クンツさんは多分慣れていないので、食事はこちらで用意する。
「ダンジョンでスープにお茶……」
ブツブツ言っている。帝国の人は大人でもかわいいね!カレンさんもそうだったけど。
「かわいくはないからな?」
なぜに!セロに見抜かれた。
10階から20階までは、メリルのダンジョンと同じ系統と強さの魔物だ。しかし冒険者が9人もいたらまったく問題ない。もっと潜れたが、今回は検証だ。20階で泊まることにした。
「クンツさん、疲れてるね」
「お前ら化物か」
「慣れてるだけだよ」
「アーシュ、お前いくつだ」
「14」
「中等部に行ってる年だろ」
「もう卒業したよ。だから留学できるんだし」
「慣れてるって……」
「んーマルと一緒に、8歳から訓練始めて、10歳から荷物持ちでダンジョン入って、12歳で冒険者になった。合間に学校も行ったよ」
「そんな、子どもだろ」
「親が早くに死んだからね、生きていくには働かないと」
「……」
クンツさんが黙り込む。
「アーシュ、このお茶をいれてくれないか」
「いいですよ、少し古くなったけどクッキーもつけましょうか」
「いいな、お願いする」
ノアさんが話しかけてくれた。ノアさんのお茶はいつもいいお茶だ。お茶を飲んだら、私とマルは小さなテントで休んだ。ダンジョンはいい。けど、ほとんど魔法を使ってないな……
眠りこんだアーシュとマルを囲むようにセロとウィルが休む。
「クンツ、お前も休め」
「……この子たちは何だ」
「何だって……冒険者だが。孤児くらい、帝国にもいるだろう」
「一見するとお嬢様のような外見と振る舞い、けど、興味を持つと走り出す、元気で明るい、なのに剣を持つと下手すると女騎士より強い。どこをとっても矛盾してる」
「帝国軍人から見てもそうか」
「あんまり変わっていて、落ち着かない」
「私たちが初めてこの子たちにあったのは、9歳の頃だったな」
「9歳」
「宿屋を経営してたんだよ」
「は?親がか」
「いや、その頃はもう孤児だった。地域の孤児をまとめあげて、商売を起こして宿屋を始めていたんだ、居心地がいい宿屋でね、いつかメリダに行くことがあったら、寄ってみるといい」
「……」
「確かに変わってる。けれど、これほど気持ちのいい子たちもいないだろう。ああ、もう成人したか、いつまでも子どものような気がするよ」
ノアは愛しげに言った。
「疲れてると明日がつらいぞ、クンツ。休め。それも仕事だ」
「ああ」
次の日、20階からゆっくり上がる。魔物の数は明らかに少ない。できるだけ狩らずに10階まで上がる。
3日目。下がる。魔物の数は回復していない。
4日目。
「クーパー、アーシュ、すまなかったな。今日は10階までは任せる」
「オレは!」
「ウィルは剣を振るったろ、我慢しろ」
「ちぇ」
「何が始まる?」
「クンツ、まあ見てろ」
3日たっても魔物の数は回復していない。しかし、それなりにはいる。では、
「アーシュ」
「クーパーさん」
視線を合わせる。行きますか!
「魔法か!」
「クンツ、良く見ておけ。軍人が魔法を見ることはまずないだろう。これがメリダの魔法師だ」
それは鮮やかな戦いだったと思う。炎が踊る。風が切り裂く。時にはつぶてが飛び、その間を炎が舞う。魔物は次々と倒れていく。あっという間に10階に着いたような気がした。
10階ではマルがお昼の用意をしてくれた。クンツは放心状態だ。ノアさんはふっと笑って言った。
「もう、あまり倒さず帰ろう。収穫はあった」
「はい!」
ギルドに行くと、グレッグさんとカレンさん、テッドさん、ダン、そしてヨナスさんが待っていた。
「よう、お前ら、お?」
「クンツ?顔色が悪いぞ」
「ちょっと疲れたかもな、ヨナス、休ませてやってくれないか」
「大丈夫だ」
「ギルドの方の作業は終わった。俺たちは明日は休むが、お前らはどうする?」
「カレンさん、町に出かける元気ある?」
「あるわよ!アーシュ、マル、行きましょうか」
「そうしよう!グレッグさん、カレンさん借りるね!」
「お、おう。ヨナス、クンツ、お前らも休め。俺は宿屋でごろごろしてるから」
次の日は、カレンさんとマルと市場を回って、干しキノコを買い込んだり、屋台で串焼きを食べたりした。セロとウィルはダンと回っていた。
ギルドは結局問題はなかったそうだ。ダンジョンはメリダの3分の1程度しか魔物が涌かないということがわかったので、今の冒険者の規模でもやっていける。ただし、できればもう少し増やすか、冒険者の質をあげたいところだそうだ。
同じ事を、第2ダンジョンでも検証しなければならない。第2ダンジョンは、第1ダンジョンから西に馬車で2日だ。同じようにアタックし、ここでも魔物の涌きについて同じ結果が得られた。ギルドも同様だ。
そしてここではヨナスさんが顔色を悪くし、放心状態となり、疲れはてて帰ってきた。
「クンツ、すまなかった」
「わかってくれたか」
「帝国国内のことなのにな、俺たちは何も知らなかったんだな」
「島国のやつらの方が、俺たちよりダンジョンについて知ってた。しかもより詳しく知ろうとしてる」
「帝都のそばのダンジョンがたまに涌いただけであたふたして、対策も考えてこなかった」
「涌き対策なんて、簡単な事なんじゃないのか、本当は」
「お前ら、考えすぎるな」
「グレッグさん……」
「冒険者と軍人は違う。軍人が考えすぎて勝手に動いたら、軍が成り立たなくなる。俺たちに肩入れしすぎるなよ」
「しかし」
「子羊は魅力的だったろ。そばにいると自然に動かされる、やっかいな奴らなんだよ。けど、そのせいでお前らが悩んで、軍をやめるハメにでもなったら?悲しませるな」
「……」
「ちゃんとオレたちを監視して、そのまま伝えろ。私情を交えずに。それでいいんだ。どうせたいして重視されてねえ」
「はい……」
わがままな優男だとしか思っていなかったのに。こんなに素晴らしいひとだったとは!しかし、この時の感動をヨナスさんとクンツさんは後で後悔することになるのだった。




