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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
巣立つ子羊編

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アーシュ13歳8の月家庭教師

とりあえず、桶にある水も冷やしておき、明日はダンジョンに潜るので来るのは夜になると言ってから帰ってきた。


「ダンジョン!」


と侍女は卒倒しそうだった。そうか、帝国では女子は冒険者にならないんだったね。


通常、魔力の使い方がうまく行かない子どもには、桶と水を使って水を出す訓練から始める。これはメリルで確立させたやり方だ。でもカレンさんなら、少し時間がかかっても、灯りの魔法がいいか、水の魔法がいいか。


翌日、ダンは町の視察に、私とセロはダンジョンに行った。私もセロも、子羊の冒険者組では冷静なほうだと思う。セームのダンジョンにはいい思い出もなく、冷静に、効率よく魔物を狩っていく。一言も交わさなくてもすべて通じる。お昼になったとき、気がつけば、セロによると、


「今までで最速、最大に成果が上がってる……」


となった。


「暴走してたときより?」

「うん」

「……」

「普段は結構、無駄が多いってことだ」

「……確かに」


ウィルもマルも魔物は倒せればいい、強ければ強いほどいいというタイプだ。解体もやや雑で、とにかく先に進みたがる。ある意味最強の兄弟なのだが、こんな落とし穴があったとは……


「でも、こんな感じで一生冒険者かと思うと、飽きるかも。のんびりしたり、いろいろなアタックしたりするのも楽しい。冒険者は仕事だけど、楽しまなきゃ。もちろん、セロと2人は楽しいけどね!」

「あ、あー、うん」

「どうしたの?」

「なんでもない。さあ、今日は早めに帰ろう!」

「うん!」


帰り道、セロは親切だった。


夕ご飯のようすをうかがいつつ、カレンさんの部屋に桶を持っておじゃました。まだ熱っぽいようだった。


「桶?」

「そう、これを使うの」


熱があるなら好都合だ。ヘッドボードに寄りかかった状態で、ベッドの横に手を下ろしてもらう。


「手を桶の水につけて」

「はい、冷たい!」

「手から雫が落ちるでしょ、それを数えていくよ、1、2、3……」

「4、5、6……気持ちいい……」

「さあ、もう1回、1、2、……」


3回繰り返し、4回目、


「じゃあ、体の熱っぽい感じを手に集めて、雫に混ぜていこう、1、2……」

「集める?でもこのいやな熱を手から捨てるのね、やってみる、1、2、3、難しいわ」

「つらくなければ続けるよ、手が気持ちいいでしょ」

「そうね、1、2、3……」

「そう、できてるよ、もう少し」

「6、7、8」


既に水滴はない。しかし、カレンさんの手からは何かが落ちているようだ。侍女が何か言いたそうだが、目で黙らせる。


「15、16、17、あれ」


気がついたようだ。


「それが魔力ですよ」

「水滴が」


もう少し押そうか。


「手をお椀にして?」

「こう?」

「そう、では、手にいやな熱を集めよう、手のひらに水をすくうように」

「手のひらに、熱を……」

「たまった?」

「たまった気がする」


私は手の下に布をそっと置いた。


「それが冷たい水滴に代わるの。手のひらに水を感じて?」

「水……きゃ!」


パシャン。手のひらから水がこぼれた。布のおかげでお布団は無事です。


「それが、魔法です」

「水を出せたの?」


私はにっこりと笑った。


「お嬢様、手をお拭きにならないと」

「もったいないわ」

「これから何回でも出せますよ。これで水に困らなくなりました」

「まあ、まあ」


また泣いた。熱っぽいせいかな。今日はここまでにしよう。


「いっぺんにやると、具合が悪くなるかもしれないので今日はここまで。しばらくは私が見ているところでやりましょうね」

「はい!」

「お嬢様、熱はどうですか、あら、下がってる?」

「今熱を集めたせいかしら、調子がいいの」

「それは魔法がおできになって楽しいからですよ、今日はもう休みましょうね、ほんとにどちらが家庭教師なんだかわかりませんよ」


次の日、熱は下がっていた。急ぐ旅でもない。いや、ウィルとマルが待っているのだった。何日かニルムをゆっくり観光し、体調をみはからって出発した。


グリッター商会の馬車は、従者の人がしきりに感心していた。一番後ろの座席が簡易ベッドになる。布団はイスの下に収納されているのだ。一週間かかかるところを、本当に一週間で王都までついて、みんなビックリした。ニルムでゆっくり休んだのがよかったらしい。


魔物よけの城壁に驚くカレンさんたち一行に、ああ、そうなのかとこちらも驚きつつ、無事西門を抜け王都に入った。そこからダンのうちまではもうすぐだ。


ダンの屋敷に着くと、おじさんとおばさんとウィルとマルが待ち構えていた。カレンさんは膝を折ってそれは美しいあいさつをして周りを感嘆させた後は、あっという間におばさんに連れていかれた。


「やれやれ、母さんのおもちゃだな」

「マルもだいぶおもちゃにされた」

「あー、服とか?」

「そう。それに買い物とか」

「ついて行ったんだ、珍しい」

「串焼きも買ってもらった」


それか!おばさん、分かってるな。


落ち着くとすぐに、カレンさんは家庭教師として本領を発揮し始めた。本人いわく、もともとはどちらかというと活発なほうらしい。最初の頃は魔法に憧れすぎて少女返りしていたのだと言い訳していた。


「どちらかというとではありませんよ。活発どころか、お転婆と言うのですよ」


侍女の人はブツブツ言っていた。そう、侍女の人はモニカさんと言うらしい。カレンさんの小さい頃から侍女をしていたのだそうだ。


家庭教師と言えど、これからすべての時間をそれに当てる必要はない。ダンジョンにも潜って生活費を稼がなくてはならない。


「お前らそこまで稼ぐ必要ないよな?」


ダンが茶々を入れる。えーと、帝国に行くまでに冒険者の級を上げておきたいから?


「勉強したくないだけじゃ」


じゃあ、ダンもオーナーなんだから働かなくてもいいじゃない?


「いや、オーナー自ら動かないと示しがつかないっていうかさ、あ、ちょっと子羊亭に行ってくる!」


ふん!


せっかく帝国の人が来ているのに、使わない手はない。おじいちゃん先生や、マリアとも連絡をとって、学院を使わせてもらうことになった。体調を見ながらではあるが、私たちは学院で週3回、1日おきに勉強をする。間の2日は、カレンさんは学院で授業に参加してもらう。私たちは残りの3日でダンジョンに潜り、1日カレンさんと遊ぶ。違った、王都の視察に付き合う。


そんな日々が始まろうとしていた。



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