アーシュ12歳5の月帝国の3人は
ブランはつきものが落ちたように元に戻った。薄茶の髪の魔法師は、回復して少ししてからお礼にやってきた。
「ありがとう、あなたが頑張ってくれてなかったら、確実にやられてたろうって」
「いや、誰が倒れても、オレたちは助けてただろうから」
メリンダはそのままブランにすり寄った。
「ねえ、このまま2人でパーティ組み直さない?私を捨てて逃げた人たちとはもう組みたくないの」
メリンダのパーティは、あの事件の後、もう1人の魔法師と組み直したらしい。見捨てた仲間とは気まずいのだろう。そのパーティもやがて消えるはずだ。仲間を見捨てるヤツをどうして信頼できるだろうか。
「すまねえが、オレは元のパーティに戻る」
「3人でもいいのよ」
「オレはお荷物はごめんだ」
ニコが吐き捨てた。
「まあ!ブラン?」
「今までありがとな」
「組む人はいくらでもいるのよ!後悔しても、知らないんだから!」
メリンダはソフィーをにらみつけて出ていった。
「ブランお前、趣味悪いよな」
「いや、あれで結構かわいいとこもあって」
「ふーん」
「あ、いや、ソフィー」
「私、出かけて来るから」
「や、オレも、あの、1人じゃ危ないからさ」
「今まで1人だったし」
「ごめんって、なあ」
いつものソフィーとブランだ。私たちは顔を見合わせて笑った。そしてセロはウィルとマルが心配だからといって、先にセームに戻った。
ニルムはダンジョンは一つだ。セームほどの規模はない。工場の立ち上げもないので、依頼はほぼ終わっていた。私は3人を誘った。
「ニルムにはウィルたちのためにも長居をすべきじゃないと思う。一旦、セームのギルドの様子を見てから、王都に帰ったらどう?セーム、おもしろいよ?」
「そうすっかなあ、せっかくA級になったのに、ろくにダンジョンに潜ってないんだよ」
「そうね、そしてオルド経由で王都に戻ろうかしら。オルドは行ったことないのよ。受付の研修ってことにして」
ソフィーの後始末が終わるまでの一週間、私はニコとブランとダンジョンに潜った。ブランのいい加減な所しか見ていなかったニルムの冒険者たちは、その変わりようと本気の強さに驚きを隠せなかった。また、魔法師とはお姫様だと思っていた人たちも、私の苛烈な戦い方を見て考えを改めたことだろう。
そして私は、教えてくれる大人とも違う、セロやウィルとも違う、少し甘やかしてくれるお兄ちゃんといる楽しさを存分に味わっているのだった。
そしてその少し前、船で2週間、陸路で2週間かけて、やっと帝都の自宅にたどりついた3人がいた。間の一週間は、帝国側の港町にいたので、実際は5週間かかっていた。港町で何をしていたか?通訳の仕事をしていた。お目付け役がいるわけでもない。帝都に戻ったらどうせ窮屈な暮らしだ。船で知り合った商人と共に、商品の卸や買い付けの手伝いをして、お金も稼いでいた。
それも含めた5週間の、何と楽しかったことだろう。いやいやメリダにおもむいた一年前の自分がもったいない。船旅、知らない人とのおしゃべり、欠かせない剣の稽古。思い出を語り、今を語り、将来を語る友との時間。通訳のアルバイト。今までは興味もなかった庶民の暮らし。馬車から眺める帝国のようすは、メリダとなんと違うことか。今を生きるということを、かの国は教えてくれた。
「学院に行くまでは、領地に帰らず、帝都の屋敷暮らしだろう。遊びに来い。何とかダンジョンに行こう」
「ああ、侯爵家に行くとなれば、許可も下りるだろうよ」
「エーベルも、待っているぞ」
「ええ、必ず」
胸を張って帰ろう。私たちは、メリダの冒険者だ。
迎えの馬車に乗ってテオドールは、帝都の屋敷の門を潜った。南領の貴族である伯爵家は、新参者ということもあり、貴族街の端にある。帰宅もそこそこに、父親に呼ばれた。珍しい、ハズレ者の息子の顔など、今さら見たいものか?
「テオドール、ただ今戻りました」
「うむ、少しは気が済んだか」
邪魔で追いやったくせに何を言う。少し皮肉げに父親を見やると、隣に見知らぬ若い貴族がいる。
「こちらはエルゼの嫁いだギーレンどのだ。わざわざお前と顔合わせをしたいというのでな、来ていただいたというわけだ」
「このたびは、帰国の口利きをしていただいたそうで、お礼を申し上げます。姉様は元気にお過ごしでしょうか」
「エルゼは元気だよ。今年の終わりには、甥っ子の顔が見られるだろう」
その人は穏やかにいった。甥っ子!オルドの孤児たちの顔が浮かんだ。産まれたらかわいがろう。姉様にはかわいがっていただいていた。幸せそうな結婚でよかった。顔が自然にほころんだ。
「ふうむ。物言いといい、たたずまいといい、聞いていた話とはずいぶん違う。しっかりした落ち着いた若者ではないですか」
「ふん、そのうちがっかりすることになろう」
テオドールは少し苦笑いした。もう父親の物言いも、俺を傷つけない。
「父上、今回の留学で共に学んだ」
「北領の侯爵家か!」
「ええ、はい。帝都に戻っても会おうということで、招かれております。時間がある限りうかがいたいのですが」
「かまわん、つなぎは作っておくに越したことはない。お前も冒険者になりたいなどという夢はもう諦め、勉学に励むとよい」
「もう遅い」
「なに?」
「メリダは冒険者の国。俺は既に冒険者です」
「な、なんだと?」
「ではこれで。ギーレン殿も、失礼いたします。留学させていただいたこと、感謝します」
「待て!」
バタン。
「なんという事だ!」
伯爵は頭を抱えた。ギーレンはクスクスと笑っている。
「よいではないですか、北領では武を重んじるという、文官だけが出世というわけではなし」
「しかし」
「私は気に入りました。エルゼが心配していたから見に来たが、良いものが見られた。弟御も含めて、これからも良好な付き合いを願いたい」
「もちろんだ」




