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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
巣立つ子羊編

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アーシュ13歳4の月

そうして4の月になり、セロとウィルはB級に、私とマルはD級になった。ニルムでニコとブランはA級になっているはずだ。


しかし、4の月からは依頼の始まりだ。マルと2人で、今週一週間をかけて朝食、ランチ50ずつの訓練が始まる。2週目からの販売開始だ。


「よろしくお願いしまーす!」


と挨拶してくれた人たちは半分が未亡人、半分が年頃のお嬢さんだ。


「何から始めますか」


と積極的である。マルと顔を見合わせ、ほっとして仕事を始めた。朝食班、ランチ班と分けて調理を開始する。決められたレシピ通りなので、調理の経験があればそう難しくはない。意外だったのは若いお嬢さん方がテキパキしていたことだ。感心していると、


「いい?男性はね、胃袋からつかむのよ!」


と力強い返事が帰ってきた。未亡人はもちろんしっかりしているし、これなら一週間せずに軌道に乗りそうだ。初日30を試作して合格を出し、試食しようとしていたら、冒険者がずらりと並んでいた。


「今日は試作でまだ出せるものでは……」


と断ろうとしたら、


「こんないい匂いをさせていて、食べられないとかないだろう!試作でいいから食わせてくれ」

「えぇ……」

「アーシュさん、あるだけ出してしまいましょう。味見ではおいしかったですよ」


という意見も出て、あるだけ出したらあっという間に売れた。


「これは50でも、間にあわないかも……」

「初日からなんですけど、やり方もそれほど難しくないですし、最初無理してでも一気に増やして前倒しで販売しませんか」


手伝いの奥さんたちがやる気だ!それならやってみましょうか。朝食もランチもあっという間に軌道に乗り、やはり王都東ギルドと同じ70ほどの数字で安定した。


東ギルドの獣脂工場からの派遣の人もやって来た。同時に、グリッター商会の人たちもやってきた。


「おじさん!」


「やあ、アーシュちゃん、相変わらずキレイだねえ。ダンから、西領では原料も豊富だし、石けん工場を作って西領で流通させてはどうかという話があってね。現在の生産量では、王都までをまかなうので精一杯なんだよ」


そうなのだ。オルドもそうだったが、西領でも石けんは王都からの流通になり、あまり普及していない。ダンのお父さんはギルド長とも会い、獣脂工場と同時に石けん工場も立ち上げて行った。


私たちの一軒家に遊びに来る冒険者や、ギルドの朝食のお手伝いの女の人から、石けんの使い勝手のよさが広がり始めると、需要はあっという間に大きくなった。特に髪については、私やマルの髪が、石けんとオリーブオイルでつやつやなのを見たアンが使い始め、つやっつやになって、若い女の子たちに自慢し、その若い女の子たちからの引き合いがすごく、しばらく特別に取り寄せて貰ったほどだった。


結局、1ヶ月もしないうちに、朝食、ランチ、お茶、獣脂工場が立ち上がった。獣脂工場が稼働し始めて、レーションも材料がそろい、販売が始まった。ダンはそのまま、王都、ナッシュに続いて子羊亭3号店の出店の準備に忙しい。店舗も材料も確保したので、店員の教育だ。


私たちは一段落ついたので、ダンの子羊亭が開くまで、手伝いをしながらダンジョンにも潜ることになった。


そういえば、ジュストさんは、スープの販売がうまく行っていることから、私たちにわざわざ製品を届けるために来てくれていたのだった。自分でも小まめに作ってはいたのだが、出来上がったものもありがたい。多めに持ってきたそれを、レーションと共に販売すると、飛ぶように売れた。


そしてオルドでしか買えないとわかると、オルドへ行く冒険者が現れ始めた。ジュストさんもレイさんたちを連れて、オルドに戻っていった。王都の翼の副団長だったと思うのだが、いいのだろうか。レイさんたちは、セームの重鎮だったと思うのだが、やはりいいのだろうか。


セームでの最初のイライラが嘘のようだ。


進捗を報告しにちょくちょくギルド長室に行っていたら、朝食の試食から始まり、ランチ、お茶と来て、ついにガガを入れてあげる仲になった。ダンのお手伝いでダンジョンを休んだ日には、ガガを入れに行ってあげるのだ。副ギルド長や時々受付のお姉さんも来て、のんびりと過ごす。


「最初来た時は怖くてさ」


とギルド長が言うので、


「こんなのんびりしたギルドは初めてでした」


と返した。副ギルド長がふと言った。


「そういえば、ずいぶんあちこち行ったんだねえ」

「考えてみると、中央とニルム以外のすべてのギルド長室に行きましたね」

「そりゃすごい」

「我ながらスゴイです」

「1番印象に残ったギルド長は?」


「オルドかな、ナッシュかな」

「セームではないの」

「セームもある意味印象に残りました。それ以外のギルド長はとにかく紳士で」

「……おれ、紳士じゃないんだ……」


ギルド長が落ち込んた。


「いえ、紳士です、紳士ですが少しのんびりで……」


そんなふうに過ごして5の月に、ニルムのニコから手紙が来た。


「なになに、めずらしい!セロ、読んで」

「うん、えーと、ブランがおかしい、助けにきてくれ、って……」

「はあ?ブランが?具合でも?」


ウィルが驚いて聞いた。


「違う、悪い仲間とつるんでパーティに戻ってこないって」

「あのブランが?」

「ニコやソフィーがどう言ってもダメらしい、どうする」


「すぐ行かないと!」

「マルも行く!」

「ダメだ、お前たちは自分でなんて言った!」

「「けど!」」

「よけいに問題を起こす。ウィルとマルは残れ。オレとアーシュで行く」


5の月、今までにない危機が訪れる。

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