アーシュ12歳3の月セーム結果が出るまで
ギルド長室から出た私たちは、黙ったままギルドを出た。
「くっ」
「うっ、ふっ」
「はっ、ははは」
ダン、ウィル、セロが笑い出した。私はまだイライラしていたので、あきれて3人を見た。
「そんなにおかしい?」
「だってさ、アーシュの怒ってるようすがさ」
「そこ?そこなの?」
「いや、ギルド長たちの間の抜けた顔がさ」
「そこだよね?せめて。ていうか、みんな怒らないの?」
「別に」
「マル……うん、確かに、怒るようなことじゃなかったよ。でも、ソフィーに前もって言われてなかったら落ち込んでたかも」
「ニルムでか。何言われたの?」
「西領では子羊としては守ってもらえない、ただの女の子としてしか見られないよって」
「……アーシュ、本当にそう言われた?」
ダンが聞いた。
「うん、要するに、そういうことだったと思う」
「(たぶん違う……かわいい女の子として自覚をもてって言われたんだよな)」
「何コソコソ言ってるの?」
「何でもない」
「それよりさ、」
ウィルが声をあげた。
「つまり、一週間、ダンジョン行き放題だぜ。最近忙しくて行ってないだろ?」
「「「!」」」
「どのダンジョンから入る?」
端っこからとか1番大きいところからとか、ワイワイしている4人を見ながら、ダンは温かい気持ちになっていた。学院はおもしろかったし、子羊亭も充実していた。でも、子羊亭のオーナーであり、忙しく働くダンはどこか異質で、心から打ち解けられる友はいなかった。今を一生懸命生き、全力をつくそうとするアーシュやセロと、親元で決められたことしかできない子どもとでは、生きていく目的が違う。現にセロと出会うまでの自分がそうだったではないか。
また、ダンの商売についての考えについてこられるのはアーシュだけだ。打てば響くような会話、心から真剣に商売のことを語り合える幸せ。そんな自分たちを当たり前のものとして見守るセロとウィル。我関せずのマルもおもしろい。
もし、この先自分の隣にアーシュがいてくれたら。そんな事を考えなくもない。共に考え、悩み、歩く道のりはさぞ楽しいことだろう。でもな……。その想像では、必ずセロも一緒に歩いてるんだよな。つまり、アーシュもセロも、オレにとっては等しく大切ってこと。
「ダン、お前どうする?」
「オレは街の外まで出て、農地や農家を回って仕入れを確保してくるつもりだ」
「んー、じゃ、別行動か」
「夕方には帰ってると思うぜ。お前たちこそ、夢中になって遅くなるんじゃないぞ」
「う、確かに。努力する」
こうして、まったく別行動でも平気なのもいい。久しぶりにのびのびした気持ちになっているのだった。
ギルドで紹介された貸家は、一月15万ギル。お風呂もあり、キッチンもなかなかのものだった。宿屋に泊まることを考えれば、食費を入れても安上がりだ。もっともギルドの経費で落ちることになっているのだが、人のお金とはいえ、節約は大切だ。早速買い出しをして、野菜をたくさん食べさせ、セロに少し嫌な顔をされた。マルも見張り、野菜を食べさせる。5部屋あって、そのうち一部屋は主寝室だ。大きいベッドなので、私とマルでその部屋を使うことになった。一緒のお布団は久しぶりなので、クスクスしながら眠った。明日は早いから。
結局、1番大きいダンジョンに潜る事になった。正直、1か月ぶりくらいになる。ギルドに向かいながら燃えるウィルとマルを抑えつつ、私とセロはやれやれと微笑んだ。思った通り、ダンジョンに飛び込んだとたんに飛び出す2人。出遅れた私たちは2人が戦っているのをしばらく見ていた。よく考えたら、この2人の組み合わせは珍しい。鍛えられた体を大きく使って魔物を倒して行く。よく似た金髪が舞い、緑のひとみがきらめく。ふ、と2人はこちらを振り返り、ニヤリと笑った。
見てるだけなの?
まさか!セロと目を合わせる。行くか?行こう!
初めてのダンジョン?それがどうした?前をさえぎる魔物は切り捨てるのみ。最速で、全力で。
「お?見かけないヤツらだな」
「ほう、なるほど、うつくしいな、見ろ、あの生き生きとした動きを」
「お、休憩のようだぞ」
「さ、そろそろ落ちつこう」
「あ、またやったかオレたち」
「いや、ウィル、今日は久々だし、ここで止められれば十分だろう。アーシュ、マル?」
「うん、ここで休憩にしようか、マル?」
「人がいる」
「ん、お邪魔させてもらおう」
安全地帯には、壮年の冒険者が3人、休んでいた。
「おじゃまします」
「構わない」
私はすばやくスープを作って、みんなでランチのサンドをたべようとした。……視線が気になる。
「あの、ご飯まだでしたら、スープはいかがですか」
「いいのか?」
「はい、すぐできます。お昼休憩ですか?」
「休憩だが、わざわざ昼を取ったりはしないな。お前たちはずいぶんしっかり昼を取るのだな」
「はい、しっかり体を作らないと」
「ふむ、いい心がけだ」
「邪魔にならないのなら、このレーションかサンドを食べてみますか」
「興味はある」
「ではどうぞ?」
「いただこう」
3人はおもしろそうにスープを飲み、レーションやサンドを食べている。
「うまいな」
「温かいのもいい」
「サンドもうまい」
私はちょっと嬉しくてニコニコしてそのようすを眺めた。
「うまかった」
「ありがとう」
どういたしまして。
「ここは初めてか」
「はい」
セロが答える。
「どおりで見たことがない」
「初めてだからつい夢中になってしまって」
「確かに、初めてなら少し深すぎるだろう。これからさらに潜るのか?」
「もう1、2階降りたら戻ろうかと思っていました」
「ふむ、つき合おうか」
「え?」
「臨時パーティだ」
このパターンは……ジュスト……いや、
「「お願いします!」」
ウィル?マル?見るからに屈強な剣士タイプだもんね。こういう時のマルの勘は外れない。はい、お願いします。
セームダンジョン初日、臨時パーティできました。




