アーシュ12歳11の月
セロとウィルは10日間、ニコとブランも同じだけ連れていかれていた。エリクはギルド長だ。どんなに厳しいことを言っても、それだけの時間を私たちのためにさいてくれたことに、心から感謝した。
みんな憔悴し、そして何かをつかんで帰ってきた。その間私とマルは、ルミエルさんと一緒にスープの販売の形を作り上げた。また、ルミエルさんは未亡人をまとめあげ、朝食とランチの仕組みをうまく立ち上げた。
一方、少し先にオルドに来ていたニコとブランは、孤児の問題として、住むところがないことを上げていた。
「俺達の頃のような悪ガキはほとんどいねえな。住むとこさえあれば、仕事をさせることもできるんだが……」
既に11の月になっており、山がちのオルドはかなり冷えるようになっていた。ニコとブランは、ギルド長の地獄行きから帰ってくると、
「ギルドのそばの空き家を使っていいことになった」
と言った。アロイスたちは、
「私たちにも手伝わせてくれ」
と言う。冬に向けて、やりますか。まずは孤児の捕獲からだ。私たちは、まず一部屋だけ雑魚寝の部屋を整え、交代でそこに眠るようにした。そして朝のスープの炊き出しを始めた。少し手伝えば、スープが飲める。そのまま解体所で働けば、パンが買える。炊き出しのねえちゃんたちが寝ている空き家があって、そこに行けば泊まれるらしい。
まず、幼い子の面倒を見ていた1グループが引っかかった。安心して眠れる暖かい家がある。それはあっという間に孤児の間に広がり、集まったのは15人にもなった。少し大きい子を中心に、食材をどう手に入れるか、スープをどう作るか、お金の管理をどうするかを教え始めた。アロイスたちも一緒に料理を作るが、孤児たちより下手くそで笑われていた。しかし、それで馴染んだ。雑魚寝という形も楽しく、孤児たちに笑顔が戻った。一緒に買い出しに行き、孤児でも物は売ってもらえることをわからせた。10歳を過ぎた子どもたちは、希望すれば荷物持ちの仕事をやれることを自覚させ、何人かは荷物持ちになった。男の子はやはり冒険者に憧れる。ニコやセロの言うことはよく聞いた。
しかし、10歳を越えた1グループだけは、寄ってこなかった。ある意味、自立しているとも言えた。
「生きて行くだけならあれでもいい。しかし、もう来年は冒険者にもなれる年なんだ。おそらく、なんの指導も受けないまま冒険者になって、すぐに死ぬ」
実際は犯罪まがいのこともしていた。世話もしてくれない大人から奪ったって、何が悪い?唯一よかったのは、年下の孤児には手を出さなかったことだ。
「荒療治だな。物をかっぱらったところを捕まえて、無理やり矯正だ」
孤児を自立させていく中で、そんなことは初めてする。
「まあ、これはオレとブランに任せろ。アーシュたちはとにかくうまいメシだ」
そうして、10歳11歳4人組が捕まった。
「なにすんだよ!」
「どろぼうは犯罪だ。牢屋送りだな」
「なんだよ!今まではほっといてただろ!」
「今までとは違う。二つから選べ。オレ達の下で1ヶ月働くか、牢屋送りか」
「どっちもいやだ!」
「オレたちのとこで働くなら、食事は食べさせてやる」
そこで私とマルは、スープとパンを持って登場した。
「あ……」
「オレ、働く」
2人落ちた。あとの2人は必死に我慢している。ニコはふう、とため息をついて言った。
「働いた後は剣を教えてやろうと思ったが……残念だな」
「剣を!あんた冒険者なのか!」
「ああ」
「なんでだよ、孤児なんか働かせても、剣を教えても得なんかないだろ」
「オレもオルドで、孤児だったからな」
「え」
「私たちはメリルで孤児」
「ねえちゃんたちもか……」
「住むところと食べるとこを確保してやる。自分で稼いでちゃんと冒険者になれ!」
「……」
「1ヶ月、試してみろ」
「わかった……」
孤児を全員、確保した。
ヤンチャ4人組は、あえて大部屋に寝かせ、すぐに荷物持ちとして登録させた。口座を作り、収入の半分を入れさせ、残りの半分を料理を作る孤児に預けさせた。500ギルで三食確保できるのだと納得させるまでが大変だったが、そのお金で小さい子も助かっているとわかると、おとなしくなった。孤児の中でもよく動く子は、朝食もランチも手伝わせ、お昼までしっかり食べさせるようにした。
荷物持ちの子たちが何より喜んだのは、剣の訓練だ。オルドは武の町、剣士はあこがれだ。訓練にはクランの若い人たちも参加してくれた。
そうして、1ヶ月たった。年長組は、しおれていた。1ヶ月たったら、もう働かせてもらえない。そう思っていたからだ。
「お前たち、この1ヶ月で、どれだけ口座にたまったか聞いて来い」
ブランがそう言った。孤児たちはうつむきながらも聞きに行った。
「それぞれ12000ギルよ。よくがんばったわね」
「なんで、オレたち半分は小さい子に出してたのに」
「そうなの、えらいわね、でも残りの半分は、ちゃんとためてたでしょう。それが12000ギルよ」
「オレのなの?」
「そうよ」
「ニコ、ブラン、オレのお金だって!」
「誰のだと思ってたんだよ」
「わからなかった。ただ、そうしてた」
「なあ、これでわかったな。住むところはあるか」
「ある」
「仕事は」
「荷物持ち」
「お金は」
「半分小さい子に、半分は口座に」
「口座のお金は誰のものだ」
「オレのもの」
「ご飯は」
「小さい子が作ってくれる」
「お前たちはもう、助けはいらないんだぞ」
「え……」
「もう働いて、自分たちで生きていける」
「でも、でも、誰が剣を教えてくれるんだよ!」
「ギルドに行けば、必ず誰かが教えてくれる。自分でも学べるだろう」
「荷物持ちは!」
「もう、みんなが連れてってくれるだろ?」
「なんでそんなこというんだ!いなくなっちゃうのか!またオレは捨てられるのか!」
「甘えるな!」
ニコは一喝した。
「お前いくつだ!11だろ!」
「けど!」
「あと4ヶ月だ」
「え……」
「あと4ヶ月で、冒険者になるんだぞ?」
「オレ、冒険者、あと少しで……」
「気がついていなかったのか。父ちゃん母ちゃんがいないと冒険者はやっていけないのか?」
「そんな訳ない!」
「なら、できるな?11歳なら、むしろ親代わりになってやれ」
「オレが、親?」
「小さいのが山ほどいるだろう」
「あ……オレが守る?」
「そうだ」
「オレが」
「そう、そして冒険者になったら、会いに来ればいい」
「オルドから、出てもいいの!」
「冒険者は、自由だからな」
「オレ、やる!」
こうして、オルドの孤児たちも、何とか冬を越す準備ができたのだった。




