アーシュ12歳10の月オルド地獄行き
「では、ルミエルさん、食材と、働く人の確保を一気に進めましょう」
「準備をして、あんたたちがダンジョンから出てくるのを待っているよ」
「アーシュ、オレは納得していない」
「セロ、大丈夫、マルの事はちゃんと見るから」
「っ、アーシュ、お前は!」
「セロ、行かせてやれ。オレたちにできることはなんだ」
「「アーシュとマルをよろしくお願いします!」」
セロとウィルはギルド長に頭を下げた。
「何を言っている。次はお前たちだぞ。準備をしておけ」
「「えっ」」
2人を驚かせると、ギルド長はニヤリと笑い、私たちをつれてダンジョンに入った。エリクさんと、エリクさんと同世代の剣士2人。マル。魔法師は私1人の5人パーティだ。
「まずは3階まで、2人で最速の戦い方で進め」
私たちは頷いた。マルの訓練ではないので、マルとオーガが常に一対一になるように数を調整しつつ、最適な魔法で倒していく。
「ふむ、やはりな」
「やはり?」
「このダンジョンは、魔法師には合わないというが、優秀な魔法師がいるとかなり楽なんだ。魔法師を連れていくと、剣士の訓練にはならないのだ」
なんとなくそんな気はしていた。
「ここからしばらくは、基本マルだけで戦う。危険な時は補助する」
「はい!」
マルが返事をする。私は我慢だ。常にマルを目で追い、危険な時は助けるつもりで戦闘を見る。複数のオーガを相手にするマル。時には転ばされ、時にははじき飛ばされるマル。起き上がって止めをさしに行くマル。大きく肩で息をしている。まだか、休憩はまだか!
「もう1階降りる」
「はい!」
まだだった!マルは目をギラギラさせて先頭を進む。エリクさんたち3人はその後ろを静かに進む。
オーガ5体!2人でも大変なのに!しかし、マルはやった。ふらふらに見えながらも、明らかに体の動きが良くなっていた。
「よし、今日はここまで!」
安全地帯に撤退する。私は小さなテントを組み立て、さらにすぐに食事の用意を始める。
「マルは汗をふいて」
「うん」
テントに入って清潔にする。さっぱりしたところで、みんなにあたたかいスープを配る。食後にはさっぱりしたお茶を出す。
「これが評判のスープか。よいものだな」
「飲んでみたいと思っていたんだよ、うまいな」
「ダンジョンでお茶もよいな」
満足の夕ご飯のあと、テントで先に休ませてもらう。おやすみなさい……。
「エリク、近年これほどの逸材を見たことがあるか」
「子羊の上の奴らがおそらくそうだろう」
「ニコとブランか、食い詰めた悪ガキだったが、よい冒険者になった」
「もう1組」
「セロとウィルか、楽しみだな」
もう1人の剣士が言う。
「それにしても、この小さい魔法師……」
「常に冷静に状況を見ている。最小の労力で最大の効果を。戦闘を見ている時も先を考えているぞ」
「明日が楽しみだな」
よく眠った。マルは疲れが残っているようだが……。
「さあ、今日はアーシュの番だ」
「私?」
「見ているだけのつもりだったか?」
「やります!」
オーガだからどうだというのだ。ルイさんとジュストさんと一緒の戦いは、私からだいぶ甘さをそぎ落としていた。
何体出てきても構わない。後ろには剣士がいる。私は前だけ見て魔法をうてばよい。さっそく5体出てきた。さあ、両側を1度に、風の刃で首を刈る。真ん中の3体は、風の塊でひるませた後、石のつぶてを鋭く打ち込んでいく。側にすら寄らせない。魔法師の本気だ。
「顔を見てみろよ、笑ってるぞ」
「生粋の冒険者だな」
「エリク、修行させる必要あったか?」
「ここまでとは思わなかった」
その日の昼まで1人で戦った。
「アーシュ、お昼だよ」
お昼?お昼……ごはんだ!
「戻ってきたか、小さな魔法師」
「へへ。ごはん作ります。甘いお茶と、スープとどちらがいいですか?」
「アーシュ、今日はマルがやるから」
「ん、お願いします」
「ほう、2人とも手際がいいな」
「料理の腕はマルが上なんです」
「新しいメニューはアーシュが担当」
「なるほど」
お昼が終わったら、2人で戦っていいことになった。私はマルをもっと信用すべきだった。マルは甘えていた。それがこの二日間でわかったことだ。私たちは変わった。もう浅い階層で泳ぐ魚ではない。5日間で、深く深く潜り、2日間で一気に帰ってきた。
「アーシュ!」
「マル!」
セロとウィルが待っていた。
「ただいま、わふっ」
セロにぎゅっと抱きしめられた。汗くさい汗くさいからやめて!腕の中からセロを見上げる。
「リカルドさんに怒られるよ」
「リカルドには、抱えるなって言われたんだ。抱きしめちゃダメだとは言われてない。ダメか?」
「ダメ?じゃないけど……」
だって安心するから。ふわふわするから。あ!
みんなニヤニヤしていた。
「セロ、マルもギュッとして?」
マルがニヤリと言った。
「お、おう」
セロがマルをギュッとした。
「アーシュはオレな」
ウィルにギュッとされた。汗くさい、汗くさいって!
「「「「っ、ふっ、ははは!」」」」
みんなで笑い出した。周りも笑い、私とマルはルミエルさんにも、ルイさんにもギュッとされた。セロはなんだか苦笑いしていた。
「さあ、次はセロとウィルの番だ。3日後、集合」
「「はい!」」
「その次はお前らだ。悪ガキども。どのくらい成長したか、見てやる」
ニコとブランは不敵に笑った。




