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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
巣立つ子羊編

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142/307

アーシュ12歳10の月オルド地獄行き

「では、ルミエルさん、食材と、働く人の確保を一気に進めましょう」

「準備をして、あんたたちがダンジョンから出てくるのを待っているよ」


「アーシュ、オレは納得していない」

「セロ、大丈夫、マルの事はちゃんと見るから」

「っ、アーシュ、お前は!」

「セロ、行かせてやれ。オレたちにできることはなんだ」


「「アーシュとマルをよろしくお願いします!」」


セロとウィルはギルド長に頭を下げた。


「何を言っている。次はお前たちだぞ。準備をしておけ」

「「えっ」」


2人を驚かせると、ギルド長はニヤリと笑い、私たちをつれてダンジョンに入った。エリクさんと、エリクさんと同世代の剣士2人。マル。魔法師は私1人の5人パーティだ。


「まずは3階まで、2人で最速の戦い方で進め」


私たちは頷いた。マルの訓練ではないので、マルとオーガが常に一対一になるように数を調整しつつ、最適な魔法で倒していく。


「ふむ、やはりな」

「やはり?」

「このダンジョンは、魔法師には合わないというが、優秀な魔法師がいるとかなり楽なんだ。魔法師を連れていくと、剣士の訓練にはならないのだ」


なんとなくそんな気はしていた。


「ここからしばらくは、基本マルだけで戦う。危険な時は補助する」

「はい!」


マルが返事をする。私は我慢だ。常にマルを目で追い、危険な時は助けるつもりで戦闘を見る。複数のオーガを相手にするマル。時には転ばされ、時にははじき飛ばされるマル。起き上がって止めをさしに行くマル。大きく肩で息をしている。まだか、休憩はまだか!


「もう1階降りる」

「はい!」


まだだった!マルは目をギラギラさせて先頭を進む。エリクさんたち3人はその後ろを静かに進む。


オーガ5体!2人でも大変なのに!しかし、マルはやった。ふらふらに見えながらも、明らかに体の動きが良くなっていた。


「よし、今日はここまで!」


安全地帯に撤退する。私は小さなテントを組み立て、さらにすぐに食事の用意を始める。


「マルは汗をふいて」

「うん」


テントに入って清潔にする。さっぱりしたところで、みんなにあたたかいスープを配る。食後にはさっぱりしたお茶を出す。


「これが評判のスープか。よいものだな」

「飲んでみたいと思っていたんだよ、うまいな」

「ダンジョンでお茶もよいな」


満足の夕ご飯のあと、テントで先に休ませてもらう。おやすみなさい……。



「エリク、近年これほどの逸材を見たことがあるか」

「子羊の上の奴らがおそらくそうだろう」

「ニコとブランか、食い詰めた悪ガキだったが、よい冒険者になった」

「もう1組」

「セロとウィルか、楽しみだな」


もう1人の剣士が言う。

「それにしても、この小さい魔法師……」

「常に冷静に状況を見ている。最小の労力で最大の効果を。戦闘を見ている時も先を考えているぞ」

「明日が楽しみだな」



よく眠った。マルは疲れが残っているようだが……。


「さあ、今日はアーシュの番だ」

「私?」

「見ているだけのつもりだったか?」

「やります!」


オーガだからどうだというのだ。ルイさんとジュストさんと一緒の戦いは、私からだいぶ甘さをそぎ落としていた。


何体出てきても構わない。後ろには剣士がいる。私は前だけ見て魔法をうてばよい。さっそく5体出てきた。さあ、両側を1度に、風の刃で首を刈る。真ん中の3体は、風の塊でひるませた後、石のつぶてを鋭く打ち込んでいく。側にすら寄らせない。魔法師の本気だ。


「顔を見てみろよ、笑ってるぞ」

「生粋の冒険者だな」

「エリク、修行させる必要あったか?」

「ここまでとは思わなかった」


その日の昼まで1人で戦った。


「アーシュ、お昼だよ」


お昼?お昼……ごはんだ!


「戻ってきたか、小さな魔法師」

「へへ。ごはん作ります。甘いお茶と、スープとどちらがいいですか?」

「アーシュ、今日はマルがやるから」

「ん、お願いします」

「ほう、2人とも手際がいいな」

「料理の腕はマルが上なんです」

「新しいメニューはアーシュが担当」

「なるほど」


お昼が終わったら、2人で戦っていいことになった。私はマルをもっと信用すべきだった。マルは甘えていた。それがこの二日間でわかったことだ。私たちは変わった。もう浅い階層で泳ぐ魚ではない。5日間で、深く深く潜り、2日間で一気に帰ってきた。


「アーシュ!」

「マル!」


セロとウィルが待っていた。


「ただいま、わふっ」


セロにぎゅっと抱きしめられた。汗くさい汗くさいからやめて!腕の中からセロを見上げる。


「リカルドさんに怒られるよ」

「リカルドには、抱えるなって言われたんだ。抱きしめちゃダメだとは言われてない。ダメか?」

「ダメ?じゃないけど……」


だって安心するから。ふわふわするから。あ!


みんなニヤニヤしていた。


「セロ、マルもギュッとして?」


マルがニヤリと言った。


「お、おう」


セロがマルをギュッとした。


「アーシュはオレな」


ウィルにギュッとされた。汗くさい、汗くさいって!


「「「「っ、ふっ、ははは!」」」」


みんなで笑い出した。周りも笑い、私とマルはルミエルさんにも、ルイさんにもギュッとされた。セロはなんだか苦笑いしていた。


「さあ、次はセロとウィルの番だ。3日後、集合」

「「はい!」」


「その次はお前らだ。悪ガキども。どのくらい成長したか、見てやる」


ニコとブランは不敵に笑った。


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