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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
飛び出す子羊編

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127/307

アーシュ12歳5の月ナッシュ涌きの後で

今日は1話です。

「とにかく、この散らかった魔石を集めよう」

「オレがやります」


ウィルが集め始めた。


「にしても、すごい量だな」

「涌きなんて、逃げ出すか短期決戦だからな。お嬢ちゃん、半日以上涌きと向き合い続けたんだろ?」


助けてくれた魔法師と剣士が言う。


「オレの食事の支度をしながら、涌きと冷静に向き合い続けて、でもついに二人とも力尽きて、どうなるかって時にあんたたちが来てくれたんだ」

「食事?」

「スープを作ってくれて、レーションといっしょに出してくれた」

「アーシュらしいや」


セロが笑う。


「セロとウィルと食事をしても、そんなもの出なかったぞ」

剣士が言う。


「すみません、面倒だったので」

「なんと、ダンジョンで温かいものなど、ぜひ食べてみたいものだ。それはアーシュを連れていけば用意してくれるのかね」

魔法師が言う。


「してくれると思いますよ。でもね、こいつまだ冒険者成り立てで、しかも体力がない。A級のあなたたちにとってのメリットが食事しかないでしょう」

「私たちだっていつもギリギリのアタックをしているわけではないよ。今回の君たちのように、新人を育てるのもA級の仕事だ」

「絶対食事の誘惑のせいですよね?」

「まあ、そうともいう」



「アーシュ!」

「「マル!」」

「セロ、お兄ちゃん!」


「さて、お迎えが来たようだ」


「ルイ、ヒューゴ、間に合ってくれたか!」

「ギルド長じきじきに来たか。まあ、下層でも魔物がさわいでな、どこかの階で涌きかもしれんと思って、いつもより早めに出たのがまあ、当たったというわけだな」

「助かったよ。みんな無事か」


「すみません、2人意識がありません」

「君が今回のパーティーの1人か。助かってよかった。もう1人もさっき拾った。剣士4人組で15階とは、無茶ではないがよほど慎重にしないと」

「半分スライムに覆われかけていたところを、彼女に助けてもらいました」

「運が良かったな」

「はい」


「すぐ2人を運んでくれ。剣士のみんな、交代で担架をお願いする。魔法師は何人か護衛で。無理せず途中で休憩をはさんでくれ」

「「わかった、行くぞ」」


救出隊がすぐに担架を組んで戻り始めた。

セロに寄りかかってアーシュが眠っている。隣にマルとウィルが寄りそっている。


「そのようすでは、アーシュ君は無事のようだな」

「半日以上、涌きと向き合っていたそうだ」

剣士のヒューゴが言う。


「この子は、どれだけ人を驚かせる。ギルドの朝食の仕組みを作ったのもこの子だぞ」

ギルド長が答えた。


「ああ、セロとウィルは、メリル出身、つまり子羊たちか!」

「オルドは朝食には興味なさそうだったが」

「ジュストがな、騒ぐのでな。まあ、オルドのギルド長はともかく、オルドでも冒険者は、朝食にもランチにも興味は持っているぞ。それにいいことを聞いた」

「なんだ」

「ダンジョンでスープを飲めるそうではないか」

「そういえば、去年ジュストが分けてもらっていたな」

「去年からか!それがあれば長期のアタックがどれほど楽になると思う」


「ヒューゴさん」

「何だね、セロ」

「オレたち去年、ジュストにさらわれるようにして、王都の翼と一緒にいたんです」

「若い冒険者には憧れではないのか」

「アーシュが目的だったんだ。オレたちは、おまけのようなもの」

「スープか」

「それもあった。昼は荷物持ちとして、夜はスープの開発にと連れまわされて、しかも内部の統率がとれていないから、アーシュとマルだけ食事を抜かれて」

「それは!ジュスト、何をやっていた!あいつ子羊がくるのを楽しみにしていたぞ?どんな神経だ」

「だから、アーシュを利用しようとするなら、やめてくれ。オレたちは一切協力しない」


「マルと言ったか、一人で10階から戻ったのだな」

「ヒューゴ、さん?」

「F級でできることではない、よくやったな」

「マルは行きたくなかった。アーシュができると信じてくれたから、行った」

「王都の翼の件も、クランは違うが、大手のクランの者として謝ろう」

「アーシュはあんまり気にしてなかった」

「つらい思いをしたのではないか?」

「ご飯は買えばいいって。荷物持ちとしては赤字だって怒ってたけど」

「いや、問題はそこでは、いや、そこも問題だが」

「ヒューゴも無駄づかいしたら怒られる」

「っ、くくっ、それは怖いな」

「甘いもので機嫌がなおる」

「それはよいことを聞いた」


「ヒューゴ、ずれてるぞ」

「ルイ、そうだな」

「アーシュはただ、冒険者としてきちんと働かないことに、そしてリボンを取られたことに怒っただけ。なぜだかジュストを嫌ってもいない。今度のことも、ジュストに勉強させてもらったおかげと必ず言う」


セロが続ける。

「だからアーシュの代わりにオレたちが言う。アーシュを利用しないでくれ」


「利用したりしないよ。でも、強い魔法師は引っ張りだこだ。ましてアーシュには付加価値がある。マル、セロたちがいない間どうだった?」

ルイがきく。


「すっごいパーティに誘われた。あと串焼きたくさん食べた。アーシュは、魔法師って人気があるねって笑ってたけど、いつもにぶい」

「なっ、5日間でもだめだったか!」

「セロ、大丈夫、全部かわした」


「セロ、ウィル、全部撃退するわけにはいかないだろう。私たちと一緒に5日間潜ったのはなんでだ?」

「……信頼できると思ったから」

「利用したりしないから、かかわることを許してくれないか」


「まあ、神経をとがらせるほどのことはない、この二人のことは、私が保証する。だめなら早めに引けばいい」

「もう少しいい言い方があるだろう」

「とにかく、そろそろ戻ろう。アーシュは起こせるか」

「オレが運びます」

「ダンジョンでは、お互い消耗しないほうがいいんだ」


「アーシュ」

「ん」

「起きて、帰ろう」

「うーん、うん、助かったんだね」

「そう、帰ろう?」

「帰る!疲れた!」


長い2日間が終わった。







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