アーシュ12歳5の月ナッシュその時マルは
今日は1話です。
一方、マルは上階へ走った。途中で涌いているスライムは多くない。最低限のスライムを倒しながら、進もうと思う。しかし、魔法師のいない、たった一人きりのダンジョンがこれほどつらいものなのか。そもそも10階は、魔法師なしのF級の来るところではないのだ。
いつものように、突っ走ってはいけない、それでも早く、早く!
9階、8階、7階、既に冒険者は帰る頃合だ。誰とも会わない。いつものようには進めない。時間だけが過ぎる。6階、5階、4階、いた!
「お願い!15階で涌きが!」
「なんだ!涌きだと!」
「剣士2人で倒れてる。剣士1人守って、それをアーシュが助けに!」
「アーシュって……」
「魔法師だけど、F級なの!」
「黒髪の!しかしオレたちも剣士じゃ役に立たねえ」
「お願い!私はギルドに戻る」
「待て、これからならお前を護衛してギルドに戻った方が早い、そこで対策をたてよう」
「はい!」
そこからは2人の剣士と合流し、あっという間にギルドについた。しかし、既に時間は9時を過ぎている。
「15階で涌きだ!剣士と魔法師が取り残されている!」
「何だって、ギルド長を呼べ!」
既に家に帰っていたギルド長が呼び戻された。
「15階の涌きはよくあることだが」
「ギルド長!」
「マル?まさか」
「アーシュが!10階から戻ろうとしてた時、助けを求められて!」
「バカな、行ったのか!」
「剣士2人が倒れてて、剣士1人で守ってるって。そう言って剣士が倒れて」
「そいつは!」
「10階の安全地帯にいる」
「それならよし、アーシュは1人で行ったのか」
「そう、私はギルドに行って助けを呼んでこいって、早く、早くアーシュを!」
「落ち着け、マル、アーシュならそうそう倒れたりしない」
「でも、でも」
「これから宿に戻っている魔法師を集めて、遠征隊を組む、少し時間がかかる。それまで少しでも休め。セロとウィルは」
「ダンジョンに泊りがけで、明日帰ってくる」
「タイミングの悪いことだ」
「よし、手分けして宿に連絡しろ!倒れてるやつがいる。魔法師も剣士も、人数を集めろ!」
しかし、その時点で10時を過ぎていたので、なかなか人が集まらない。マルはとりあえず体を休めていた。
「ちっ、これなら朝の方がいいか」
「!」
「マル、聞き分けろ、明日5時集合で最速でアタックをかける。私も行く」
「でも!」
「体を休めろ!それがお前に出来ることだ」
「……アーシュ」
一方その頃私は、睡魔に襲われていた。
「お前、少しだけでも寝ろ」
「でも」
「お前が来るまでなんとか1人でやってた。スープのおかげでだいぶ回復したから、交代だ」
「ありがと、じゃ少し」
こうして、剣士と交代で寝た。魔力は少しずつ減っている。この時間で来ないなら、助けは朝か。最短で2時間、3時間か。次第に剣士も体力が尽きてくる。私の時間が増えてきた。あと少し、あと少し。ふと意識が睡魔に飲み込まれる。
「起きろ、お前!やばい」
「はっ、まずい!」
いつの間にか2人で寝ていた。その間に、スライムが増えている。できるか、魔力は足りているか、よし!
「アーシュ!なんでここにいる!」
「セロ!」
「なんだこの魔石の数は。この部屋、『 涌き』か、とりあえず片づけるぞ」
魔法師の炎が舞い、増えていたスライムが片づいた。セロたちが帰ってくる日だった!助かった!
「アーシュ、どうした、マルは?」
「マルはギルドに助けを求めに」
「大丈夫か、何があった」
「すまん、俺のパーティがここで『 涌き』にまかれて」
「剣士4人か、うでだめしだな、愚かな」
「2人倒れた。1人が助けを呼びに行き、10階でこの子に」
「アーシュ、10階から1人で来たのか、無茶をする」
「見捨てられなかったの、セロ」
「そうだな、アーシュなら」
「アーシュとやら、ずいぶん消耗しているようだが、いつからいた」
「昨日の夕方から」
「昨日の!それでこの魔石の数、1人でか」
「ううん、剣士さんも交代で」
「ほとんどこの子だ」
「ふむ、私たちが来たからもう大丈夫だ。なぜスライム部屋を片づけなかった」
「初めてだったし、魔力が切れた時の方が怖かった。助けが来るまで、ねばった方がいいと思って」
「よい判断だ。さすがセロ君とウィル君のパーティだ。なかなかできることではない。では仕上げをしようではないか」
「仕上げ?」
「スライムのボスを倒す」
「私が?」
「そう、魔力は足りるかな」
「切れても、みんながいるなら大丈夫」
「では行こうか」
「はい」
「「アーシュ」」
振り向くと、セロとウィルがいた。
「「やってこい!」」
「うん!」
「さあ、スライムを一掃しろ」
「炎の壁よ!渦巻け!」
「見事だ!さあ、あれがボスだ」
そこには緑色の大きなスライムがいた。ポコ、ポコと、スライムを生み出している。
「核を傷付けないように、なるべく多くの体表を切り裂く、できるか」
「はい、風の刃、10、小、切り裂け!」
ヒュンヒュンと風が走り、体表を裂く。スライムは体液を流し、あっけなく崩れていく。
「これで涌きは収まるだろう。よくやった」
「はい」
「アーシュ!」
セロに抱きしめられた。
「よくがんばった」
「うん」
「さて、私たち4人足しても、この剣士たちを運ぶのは難しい。このまま休んで救助を待とう」
私はセロにもたれかかり、眠りについた。
「おやすみ、アーシュ」




