表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この手の中を、守りたい  作者: カヤ
飛び出す子羊編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

125/307

アーシュ12歳5の月ナッシュその後

教育2話目です。

初日に無双した後は、ウィルと2人で組んだり、マルと組んだり、4人で組んだりしながら1週間程過ごした。2週目、セロが、


「今週、上の級の魔法師から、護衛として泊りがけで潜らないかって誘われてるんだ」


と言った。


「どのくらい?」

「うん、5日くらい」

「長いね」

「でも、いい経験になると思う」

「行きたい?」

「行きたい」

「「いいよ」」

「よしっ」


こうして新人F級2人ぐらしが始まった。こんなに串焼きを食べたことがあっただろうか。ちょっぴりハメを外したことは否めない。ダンジョンでは、私が魔法師だからか、たくさんのパーティが寄ってきたが、今回は勉強のためにナッシュに来たわけではないので、お断りして2人で潜っていた。


セロとウィルがいなくなって4日目、私たちは少しがんばって10階まで来ていた。最初の日、疲れてハラハラした階だ。今回は、疲れもせず、余裕で来れていた。その時


「助けてくれ!」

「な、なに?」

「15階で『 涌き』だ!」

「「!」」


この「涌き」は、時々特定の階だけで起こる魔物の大量発生だ。


「剣士が2人倒れてる。1人は護衛で動けず、オレだけ助けを呼びに」


そう言うと、その若い剣士は倒れた。若い剣士1人で15階からここまでくるのは相当つらかったはずだ。とりあえず安全地帯に動かす。


「少しだけ、休ませてくれ……」

「ここまでに冒険者には」

「会わなかった、泊りがけのやつはもっと下にいる。初心者はここまで来ない。下手をするとギルドまで戻らないと」

「倒れた冒険者は持ちそうですか」

「死んではいない。ただ護衛に残してきたやつも剣士なんだ」


それはまずい。既にここまでだいぶ時間がたっている。


助けを呼びに行く間に、おそらく、全滅だ。


できるか、できるだろうか、私。

捨てられる?魔法師としてなら、助けられたかもしれない命を。


ムリだ。


「マル」

「ダメ」

「マル」

「一緒に」

「わかってるはず」

「イヤだ」

「マル、お願い」

「……」

「この人の代わりに、ギルドまで走って」

「ムリ」

「マル1人では厳しいかもしれないけど、その間に私は、15階まで降りるから」

「イヤだ」

「助けが来ないと、私だけでは多分持たない。マルが呼んできてくれないと」

「一緒に行く」

「マル!」


「わかった。必ず戻る」

「途中であった人みんなに声をかけて」

「うん。行く!」


「剣士さん」

「すまない……」

「ここは安全地帯だから、ここで救助を待って。はい、これ、レーションとクッキー。水はあるよね」

「ああ」


行こう!15階を目指して!


私は走り出した。しかし、体力の消耗は最低に抑える。最短距離を、最低限魔力の魔力で、スライムを倒しながら。13、14、ここだ!


そこには見たこともない景色が広がっていた。あそこは、ジュストたちが特別なスライムを倒した部屋。そこから湧き出るように、スライムが流れ出ている。部屋は半透明のスライムに天井まで覆われている。そして階段のすぐ横に、倒れた剣士2人、立っている剣士が、スライムに半分覆われて、


「炎、極小、行け!」


パシュ!剣士からスライムがゆっくりとはがれ落ちる。


「助かった、もうダメかと、え、あんた1人か」

「もう1人は10階から助けを求めに行ってる」

「なんてこった、無理だろう」

「あきらめるの」

「いや、いや、すまない、来てくれてありがとう」


パシュ!シュ!


こんなんじゃ意味ない、よし。


「一度大掛かりにやる、小さくなってて」


複合魔法だ。いつもウィルと分担してやっていることを、ひとりでやる。この部屋を、焼き尽くす。


「炎の壁、立ち上がれ」


炎が天井まで燃え上がる。


「風よ吹き荒れろ!」


炎が部屋を舞う。風は私の魔力とつながっている。炎で部屋の隅まで焼き尽くす。


「すげぇ」


残った大きいのは、それぞれの苦手属性で叩く。


これで残った魔力は半分。スライム部屋までは倒せる自信はない。ではどうする?


持久戦だ。部屋から出てきたスライムを、1体ずつ、最小火力で叩いていこう、助けが来るまで。その間、


「倒れてる人たち、手当てはいる?」

「スライムに巻かれて倒れただけだ。意識はないが、命に別状はない」

「上の階には?」

「1人では難しい。近くに安全地帯もない」


パシュ、パシ。


「あなたは?」

「疲れてるだけだ、大丈夫」


それならば、あ、天井から涌いた、シュ!

スープでも作ろう。レーションは多めに持ってる。

パン、パシュ。

今夕方か、パシュ。


「さあ、これどうぞ」

「あんた……ありがとう、うまいな、これ」

「はい、こっちも食べて」

「うまい、うまいな」


シュ。休んで、パン。もひとつ、パシュ。マル、大丈夫かな。強いから、大丈夫。もうギルドについたかな。途中で誰かに会ったかな。パシュン。何時間たったかな。ちょっと眠くなってきた。


まだ助けは来ない。スライムは涌き続ける。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ