アーシュ12歳5の月ナッシュその後
教育2話目です。
初日に無双した後は、ウィルと2人で組んだり、マルと組んだり、4人で組んだりしながら1週間程過ごした。2週目、セロが、
「今週、上の級の魔法師から、護衛として泊りがけで潜らないかって誘われてるんだ」
と言った。
「どのくらい?」
「うん、5日くらい」
「長いね」
「でも、いい経験になると思う」
「行きたい?」
「行きたい」
「「いいよ」」
「よしっ」
こうして新人F級2人ぐらしが始まった。こんなに串焼きを食べたことがあっただろうか。ちょっぴりハメを外したことは否めない。ダンジョンでは、私が魔法師だからか、たくさんのパーティが寄ってきたが、今回は勉強のためにナッシュに来たわけではないので、お断りして2人で潜っていた。
セロとウィルがいなくなって4日目、私たちは少しがんばって10階まで来ていた。最初の日、疲れてハラハラした階だ。今回は、疲れもせず、余裕で来れていた。その時
「助けてくれ!」
「な、なに?」
「15階で『 涌き』だ!」
「「!」」
この「涌き」は、時々特定の階だけで起こる魔物の大量発生だ。
「剣士が2人倒れてる。1人は護衛で動けず、オレだけ助けを呼びに」
そう言うと、その若い剣士は倒れた。若い剣士1人で15階からここまでくるのは相当つらかったはずだ。とりあえず安全地帯に動かす。
「少しだけ、休ませてくれ……」
「ここまでに冒険者には」
「会わなかった、泊りがけのやつはもっと下にいる。初心者はここまで来ない。下手をするとギルドまで戻らないと」
「倒れた冒険者は持ちそうですか」
「死んではいない。ただ護衛に残してきたやつも剣士なんだ」
それはまずい。既にここまでだいぶ時間がたっている。
助けを呼びに行く間に、おそらく、全滅だ。
できるか、できるだろうか、私。
捨てられる?魔法師としてなら、助けられたかもしれない命を。
ムリだ。
「マル」
「ダメ」
「マル」
「一緒に」
「わかってるはず」
「イヤだ」
「マル、お願い」
「……」
「この人の代わりに、ギルドまで走って」
「ムリ」
「マル1人では厳しいかもしれないけど、その間に私は、15階まで降りるから」
「イヤだ」
「助けが来ないと、私だけでは多分持たない。マルが呼んできてくれないと」
「一緒に行く」
「マル!」
「わかった。必ず戻る」
「途中であった人みんなに声をかけて」
「うん。行く!」
「剣士さん」
「すまない……」
「ここは安全地帯だから、ここで救助を待って。はい、これ、レーションとクッキー。水はあるよね」
「ああ」
行こう!15階を目指して!
私は走り出した。しかし、体力の消耗は最低に抑える。最短距離を、最低限魔力の魔力で、スライムを倒しながら。13、14、ここだ!
そこには見たこともない景色が広がっていた。あそこは、ジュストたちが特別なスライムを倒した部屋。そこから湧き出るように、スライムが流れ出ている。部屋は半透明のスライムに天井まで覆われている。そして階段のすぐ横に、倒れた剣士2人、立っている剣士が、スライムに半分覆われて、
「炎、極小、行け!」
パシュ!剣士からスライムがゆっくりとはがれ落ちる。
「助かった、もうダメかと、え、あんた1人か」
「もう1人は10階から助けを求めに行ってる」
「なんてこった、無理だろう」
「あきらめるの」
「いや、いや、すまない、来てくれてありがとう」
パシュ!シュ!
こんなんじゃ意味ない、よし。
「一度大掛かりにやる、小さくなってて」
複合魔法だ。いつもウィルと分担してやっていることを、ひとりでやる。この部屋を、焼き尽くす。
「炎の壁、立ち上がれ」
炎が天井まで燃え上がる。
「風よ吹き荒れろ!」
炎が部屋を舞う。風は私の魔力とつながっている。炎で部屋の隅まで焼き尽くす。
「すげぇ」
残った大きいのは、それぞれの苦手属性で叩く。
これで残った魔力は半分。スライム部屋までは倒せる自信はない。ではどうする?
持久戦だ。部屋から出てきたスライムを、1体ずつ、最小火力で叩いていこう、助けが来るまで。その間、
「倒れてる人たち、手当てはいる?」
「スライムに巻かれて倒れただけだ。意識はないが、命に別状はない」
「上の階には?」
「1人では難しい。近くに安全地帯もない」
パシュ、パシ。
「あなたは?」
「疲れてるだけだ、大丈夫」
それならば、あ、天井から涌いた、シュ!
スープでも作ろう。レーションは多めに持ってる。
パン、パシュ。
今夕方か、パシュ。
「さあ、これどうぞ」
「あんた……ありがとう、うまいな、これ」
「はい、こっちも食べて」
「うまい、うまいな」
シュ。休んで、パン。もひとつ、パシュ。マル、大丈夫かな。強いから、大丈夫。もうギルドについたかな。途中で誰かに会ったかな。パシュン。何時間たったかな。ちょっと眠くなってきた。
まだ助けは来ない。スライムは涌き続ける。




