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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
飛び出す子羊編

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アーシュ12歳4の月

今日2話目です。

荷物持ちだってダンジョンに入る。シースにいる間もダンジョンには入っていた。では、何で今日は特別なんだろう。12歳になった朝、いつものようにギルドに訓練に向かう。魔法の訓練をし、剣の訓練をする。体の内側からそわそわと浮き立つ。


そしてギルドの前に、4人で立つ。

「「よし、行くぞ!」」

「「はい!」」


2人は新人だから、1階ずつていねいに、そして浅い階層で早めに上がろう。


そんな事はまったくなかった。


まずマルが飛び出した。マルが出たら、私が行かないわけにはいかない。時には並び、時には補助に回り、片っ端から魔物を倒して行く。最初笑って見ていたセロとウィルも、次第に表情を変えていった。ふと私たちが気を抜いた時に飛び出していく。そして鮮やかに、激しく魔物を屠る。どうだと振り向く2人に、マルが飛び出していく。それを繰り返し、ふと気がつくと、15階まで降りていた。みんな肩で息をしている。


「お昼にしようよ」

「そうだな」


もう荷物持ちではないけれど、甘いお茶を入れて、お昼を食べながら話をする。


「少し落ち着こうか、先輩」

「ごめん、つい」

「もうお昼をだいぶ過ぎていると思う。ここからは戻らないと」

「そうしよう」

「すまなかった」

「マル?」

「……」

「マル?」

「なに?」


高揚状態が続いているようだ。


「少し落ち着こう?今日初日だよ」

「初日……わかった」

「これから上に、戻るよ」

「上……うん」


さあ、帰ろう。


そしてマルが飛び出した。


「もう……つきあうしかないか」


私も飛び出していく。肩で息をしながらも、1階、1階魔物を倒しながらあがっていく。マルが戦いやすいように、そしてセロとウィルの助けになるように。



「もう、大抵のやつは帰ってきたぞ」

「遅いな……」

ギルドでは、ニコとブランが待っている。いや、メリルの冒険者たちが、今か今かと待っているのだ。


「来た!」

「何だあの状態、涌きでもあるまいに」

「ぼろぼろだぞ」


疲れ果て、肩で息をする4人が、ゆっくりと受付に向かう。そこから少しずつ、静けさが広がる。


「魔石と肉、お願いします」

アーシュとマルが受付にだす。


「少し待ってね、ん、まあ……20万ギルよ!」


歓声があがった!初日でこれだけ稼げた例があったか!いや、ない!さすがオレたちの子羊だ!


と、アーシュが崩れた。


「「「アーシュ!」」」


セロが抱え起こす。


「え、なに?」

「……ちゃん」

「なに?」

「とうちゃん、魔物は倒したよ……」

「アーシュ、意識が……」

「私は大丈夫、だか、ら……」


「大丈夫か、セロ」

「ギルド長、疲れて寝ただけのようです」


「俺が連れていくわ」

「いや、オレが」

「今日は、俺に任せてくれ。父親代わりだ」

「……はい」


ほっとする空気が流れるなか、ギルド長がアーシュを背負う。


冒険者たちは、今夜はがんばった新人を肴に酒をのむつもりだ。


いつも通りの4の月だ。また2人、仲間が増えた。さあ、祝杯をあげよう。オレたちのかわいい、アーシュとマルのために。よい狩りを、よい収穫を祈ろう。

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