アーシュ11歳1の月、再びシースへ
今日2話目です。
1の月、私たちは再び馬車でシースに降り立った。メルシェでは引き止められ、1日余分にかかりそうになったが、帰りを約束し、無事日程通りたどりついた。乾燥地帯はみんな初めてで見ごたえがあり、砂だらけで楽しい気持ちでシースについた。
「待つのよ、アーシュ、マル」
「え、何?」
私たちは馬車を降りる前に、マリアとソフィーに、砂を払われ、顔を拭かれ、髪をとかされた。
「これだからこの間は憐れまれたのよ」
「「ごめんなさい」」
「最初が肝心よ」
私たちは並んでギルドへ向かう。
「すみません、ギルド長をお願いします」
「あら、約束はあるのかしら?」
「はい、メリルの子羊が来たと」
「え、あなたたち、え?少し待ってね」
ギルド長が2階から降りてきた。
「ほう、これが本物のメリルの子羊か。見ごたえがある」
「前回も本物でしたよ」
セロが笑って挨拶する。
「身なりを整えると、こうも違うものかということだ。おチビさんがたがこんなに美しいとは思わなんだ」
美しいって!髪をとかしただけだよ?
「そしてこちらも、美しいお嬢さんがた、はじめまして、ギルド長のマチスです」
「はじめまして、マリアです」
「ソフィーです」
「そして君たちは」
「ニコです」
「ブランです」
「いかにも、剣の担当だな」
「その通りです」
「はは、威嚇するな、美しいお嬢さんはみんなの宝だろう。さて、このたびは、わざわざシースに来てくれて感謝する」
今回は代表はセロだ。
「いえ、こちらこそ、違う形での提案を快く受け入れてくれて、ありがとうございます。孤児たちはどうでしょうか」
「生活の方は町の人も見てくれている。剣の訓練も順調ではあるが、ほとんど初心者だったので、相当苦労はしているようだ」
「そうですか。ギルドの簡易キッチンなどは」
「整えた。すぐに使える」
「では、明日からとりあえず一週間、孤児の料理の訓練をし、ようすを見て試験販売に入ります」
「冒険者たちは相当期待しているからな、早めに頼む」
「わかりました」
まず、孤児たちに会いに行った。
「セロ兄ちゃん!」
「戻ってきたぞ!ちゃんと生活してたか」
「料理も荷物持ちもがんばったよ」
「しばらくいっしょだからな。あと、ほかの兄さん、姉さんたちもつれてきたぞ」
「「よろしくな」」
「「よろしくね」」
「きれい……お姉さんも孤児なの?」
小さい女の子が言う。
「そうよ、ご飯をちゃんと食べればきれいになるわよ」
「ホントに?」
「ホントよ」
それからすぐに、朝食とランチを始めた。孤児と私たちの人数分から始めて、少しずつ増やして行く。
「オレたちにも早く出してくれ!」
という叫びを聞きながら、一週間かけて手順を教えていく。その後一週間かけて大人も訓練していく。大人に頼らないように、大人がすべてやってしまわないようにだ。
その間、荷物持ちの子たちは、ニコとブラン、セロとウィルとともに剣の訓練も怠らない。もちろん、孤児以外の荷物持ちも訓練する。それどころか、冒険者になりたての子たちも参加し、朝のギルドは活気にあふれていた。
疲れているので勉強は少しずつ。これはむしろジェシカなど、町の子どもたちの私塾のような形で始まった。学校の復習と、学校に行けない子どもの学習。そこに少しずつ孤児たちを組み込んでいく。
そして3週目。いよいよ、朝食とランチが本格稼働する。今日はセロとウィルがランチの販売に立つ。
「セロ兄ちゃん、ウィル兄ちゃん、冒険者なのに、かっこ悪い……」
「なあ、お前、ダンジョンに入って、オレたちがかっこ悪かったことあるか」
「ない」
「生きていくために、いろいろな形で働く事は、なんにもかっこ悪いことじゃないんだ。かっこ悪いのは、なんにもしないことだ。よく見てろ」
「子羊ランチはいかがですか!」
「4つくれ」
「はい、2000ギルです!」
「ほらよ」
「レーションもいかがですか」
「それは今度にするわ」
「またよろしくお願いします!」
「ホントだ。お兄ちゃんたち、頭下げててもかっこいい。何でだろう」
「なんでだ。でも、オレもやる!兄ちゃんたち、手伝うよ!」
「頼むぞ!」
「2つくれ」
「えっと、えっと、1000ギルです」
「ほらよ」
「あ、ありがとうございます」
「がんばれよ」
「はい!」
「お前、計算、勉強しないとだめだな」
「必要と思わなかったんだ」
「今は?」
「必要!」
「よし、マリア姉さんに教えてもらえ」
「うん!」
「ギルド長、不思議ですね」
「驚くほど物事が動き始めた」
「彼らが動くと、周りも動く」
「たった2週間だぞ」
「いつまでもいてほしいものですわ」
「セロ君、どうだね、シースに住むことにしては!弟や妹もたくさんできたことだし」
「はは、ギルド長、何言ってるんですか」
「シースの子羊でもいいじゃないか」
「だめですよ、ギルド長」
「なんでだね」
「シースにも、ちゃんと子羊はいたから」
「そうか、そうだな」
シースの子羊たちは、これから始まる。




