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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
飛び出す子羊編

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119/307

アーシュ11歳1の月、再びシースへ

今日2話目です。

1の月、私たちは再び馬車でシースに降り立った。メルシェでは引き止められ、1日余分にかかりそうになったが、帰りを約束し、無事日程通りたどりついた。乾燥地帯はみんな初めてで見ごたえがあり、砂だらけで楽しい気持ちでシースについた。


「待つのよ、アーシュ、マル」

「え、何?」


私たちは馬車を降りる前に、マリアとソフィーに、砂を払われ、顔を拭かれ、髪をとかされた。


「これだからこの間は憐れまれたのよ」

「「ごめんなさい」」

「最初が肝心よ」


私たちは並んでギルドへ向かう。


「すみません、ギルド長をお願いします」

「あら、約束はあるのかしら?」

「はい、メリルの子羊が来たと」

「え、あなたたち、え?少し待ってね」


ギルド長が2階から降りてきた。


「ほう、これが本物のメリルの子羊か。見ごたえがある」

「前回も本物でしたよ」


セロが笑って挨拶する。


「身なりを整えると、こうも違うものかということだ。おチビさんがたがこんなに美しいとは思わなんだ」


美しいって!髪をとかしただけだよ?


「そしてこちらも、美しいお嬢さんがた、はじめまして、ギルド長のマチスです」

「はじめまして、マリアです」

「ソフィーです」


「そして君たちは」

「ニコです」

「ブランです」

「いかにも、剣の担当だな」

「その通りです」

「はは、威嚇するな、美しいお嬢さんはみんなの宝だろう。さて、このたびは、わざわざシースに来てくれて感謝する」


今回は代表はセロだ。

「いえ、こちらこそ、違う形での提案を快く受け入れてくれて、ありがとうございます。孤児たちはどうでしょうか」

「生活の方は町の人も見てくれている。剣の訓練も順調ではあるが、ほとんど初心者だったので、相当苦労はしているようだ」

「そうですか。ギルドの簡易キッチンなどは」

「整えた。すぐに使える」

「では、明日からとりあえず一週間、孤児の料理の訓練をし、ようすを見て試験販売に入ります」

「冒険者たちは相当期待しているからな、早めに頼む」

「わかりました」


まず、孤児たちに会いに行った。


「セロ兄ちゃん!」

「戻ってきたぞ!ちゃんと生活してたか」

「料理も荷物持ちもがんばったよ」

「しばらくいっしょだからな。あと、ほかの兄さん、姉さんたちもつれてきたぞ」

「「よろしくな」」

「「よろしくね」」


「きれい……お姉さんも孤児なの?」

小さい女の子が言う。

「そうよ、ご飯をちゃんと食べればきれいになるわよ」

「ホントに?」

「ホントよ」


それからすぐに、朝食とランチを始めた。孤児と私たちの人数分から始めて、少しずつ増やして行く。


「オレたちにも早く出してくれ!」


という叫びを聞きながら、一週間かけて手順を教えていく。その後一週間かけて大人も訓練していく。大人に頼らないように、大人がすべてやってしまわないようにだ。


その間、荷物持ちの子たちは、ニコとブラン、セロとウィルとともに剣の訓練も怠らない。もちろん、孤児以外の荷物持ちも訓練する。それどころか、冒険者になりたての子たちも参加し、朝のギルドは活気にあふれていた。


疲れているので勉強は少しずつ。これはむしろジェシカなど、町の子どもたちの私塾のような形で始まった。学校の復習と、学校に行けない子どもの学習。そこに少しずつ孤児たちを組み込んでいく。


そして3週目。いよいよ、朝食とランチが本格稼働する。今日はセロとウィルがランチの販売に立つ。


「セロ兄ちゃん、ウィル兄ちゃん、冒険者なのに、かっこ悪い……」

「なあ、お前、ダンジョンに入って、オレたちがかっこ悪かったことあるか」

「ない」

「生きていくために、いろいろな形で働く事は、なんにもかっこ悪いことじゃないんだ。かっこ悪いのは、なんにもしないことだ。よく見てろ」


「子羊ランチはいかがですか!」

「4つくれ」

「はい、2000ギルです!」

「ほらよ」

「レーションもいかがですか」

「それは今度にするわ」

「またよろしくお願いします!」


「ホントだ。お兄ちゃんたち、頭下げててもかっこいい。何でだろう」

「なんでだ。でも、オレもやる!兄ちゃんたち、手伝うよ!」

「頼むぞ!」

「2つくれ」

「えっと、えっと、1000ギルです」

「ほらよ」

「あ、ありがとうございます」

「がんばれよ」

「はい!」


「お前、計算、勉強しないとだめだな」

「必要と思わなかったんだ」

「今は?」

「必要!」

「よし、マリア姉さんに教えてもらえ」

「うん!」


「ギルド長、不思議ですね」

「驚くほど物事が動き始めた」

「彼らが動くと、周りも動く」

「たった2週間だぞ」

「いつまでもいてほしいものですわ」


「セロ君、どうだね、シースに住むことにしては!弟や妹もたくさんできたことだし」

「はは、ギルド長、何言ってるんですか」

「シースの子羊でもいいじゃないか」


「だめですよ、ギルド長」

「なんでだね」

「シースにも、ちゃんと子羊はいたから」

「そうか、そうだな」


シースの子羊たちは、これから始まる。

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