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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
飛び出す子羊編

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115/307

アーシュ11歳12の月シース

今日2話目です。

私たちは次の日、まずは受付に向かった。


「あら、あなたたち、評判いいわよ。稼げててほっとしたわ」

「ありがとうございます。今日はギルド長にお会いしたくて来ました」

「まあ、約束はあるのかしら」

「いえ、でも、『 メリルの子羊』が来ていると、伝えてもらえれば」

「メリルの子羊?……あ、少し待ってね」


「伝わるかな」

「うちのギルド長と仲がいいのであれば……」


「あなたたち、すぐに会ってくれるって。よかったわね」

「はい、ありがとうございます」

「ギルド長の部屋は2階よ」


トントン。

「入れ」

カチャ。

「ほう、ランチをやるのはメリルの四姉妹と聞いたが」

「今回は正式な依頼ではないので」

「では、なにゆえ来た」


シースのギルド長は、40は過ぎている、落ち着いた人だった。セロが話し出す。


「今回、オレたちは海を見に来たんです」

「海を……はっ、変わっているな」

「オレたちは冒険者、この子たちは荷物持ち。来年組むパーティのために修行中ですが、行ったことのない所に行きたくて」

「ほう」

「この町に1ヶ月います。途中でオレたちのような孤児がいることに気づいて」

「最近、孤児たちの面倒を見ている若い冒険者がいると聞いてはいたが、君たちだったか」

「はい。4年前のオレたちとおんなじ状況でした」

「しかし、孤児たちだけに手をかけるわけにもいかん。ここはメリルと同じ、辺境の吹きだまりだ。漁業で栄えてはいるが、裕福でもない。そもそもここはギルドだしな」

「はい。けど、希望がないわけではないんです。ここには孤児にもできる仕事があり、なんとか住むところもある。あとはやり方なんです」

「やり方とはどういう」

「孤児は荷物持ちが2人、解体所が3人、合わせて1日3000ギルは稼ぐ」

「それは少ないな……」

「けど、パンを10個買って、野菜と干し肉を買えば、10人分1日2000ギルで食費がまかなえる」

「なんと、そんなものか」

「でも、それは料理が作れる前提なんです」

「作れないのか」

「親から教わる前に孤児になる」

「うーむ」

「生きていくのに精いっぱいで、未来を考える余裕がない。お金はあれば使ってしまう」

「でも君たちは……」

「オレたちにはアーシュがいました」

「アーシュ、ああ、黒髪の、君か、4年前?そんなに幼い頃にか」

「料理を作り、お金を管理し、冒険者としての未来を見せてくれた」

「ふーむ」

「孤児は、冒険者を目指す。冒険者が増えることは、ギルドのためでもあります」

「そう来たか」


「だから、今度のギルド長会議で、メリルの子羊をシースに要請してください」

「……なぜそうなる?去年はムリだと断わられた。こちらとしては願ってもないことだが」

「朝食、ランチ要員として孤児も雇います」

「……なるほど」

「仕事があれば、食べて行ける。従業員には、朝食、ランチはサービスだから、体づくりもできる。ギルドで作るから、冒険者にもなじみ、訓練にも参加しやすい」

「しかし子どもにできるのか」

「もちろん、大人も雇います。子どもの給料は解体所と同じでいいし、大人にはしっかり払います。メリルは別として、メルシェでは子どもも働いています」

「それならば、行けるか。しかしそれだけではないのだろう」

「はい。メリルの子羊の臨時派遣の条件として、孤児たちにもう少しちゃんとした家を用意してほしいんです」

「確かにあれはひどいが……」

「屋根と壁さえしっかりしていればいいのですが」

「ギルドの家作りに使っていないものがあったな……従業員寮として扱えば……」

「いけそうですか」

「ベッドなどは用意できないぞ」

「外側だけで十分です。すぐに用意できますか。冬をあそこで過ごさせるのはさすがにきつい」

「わかった」

「あと一週間いて、孤児の家を整え、生活の形を落ち着かせます。その後メリルにもどって、ギルド長にシースの依頼を受けるよう、お願いしてきます。会議で許可がでたら、2の月までに戻ってきます」

「お、おう、めまぐるしいな」

「その間、荷物持ちの子の訓練をお願いできないでしょうか」

「若い子を育てる仕組み、ということか」

「今回に限らないと思うんです。荷物持ちが力のある冒険者になれば」

「ギルドのためになる、か」

「はい」

「わかった。朝食とランチのためなら、手を打とう。正直、メルシェやナッシュがうらやましくてね。冒険者にも突き上げられるし」


「ギルド長、ナッシュやメルシェでは魔法師用に、クッキーの販売もしたんですが評判がよくて」

「君、アーシュ君だったか、それで?」

「試食してみませんか?」

「ほほう、今あるのかね?」

「受付の方もどうでしょうかね、ガガも入れられますよ」

「なんと!子羊亭のか!シースの特産なのに、ここでは飲めんのだよ。それは是非にも!」



「ただの健気な孤児だと思っていましたわ」

「力のある若い子が来ているとは聞いていたんだがな、メリルの子羊とは思わなかった。あの交渉力。さすがに学院の学外生だけのことはある」

「しかも、自分には何の得もないでしょうに」

「仕事があれば、食べて行ける、か」

「それは?」

「セロ君が言っていた。まだ親に甘えている子もいる世代だろうに。しかも、リーダーはあの黒髪の子だ」

「え、あの小さい?」

「4年前だそうだ、食わせてくれて、未来を見せてくれた、と」

「まさか」

「シースとしては、朝食とランチが整い、孤児が自立する。いうことはない」

「そうですわね」

「海に、感謝しよう」

「海に?」

「彼らは、海を見に来たそうだ」

「まあ」

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