アーシュ11歳12の月シース
今日2話目です。
私たちは次の日、まずは受付に向かった。
「あら、あなたたち、評判いいわよ。稼げててほっとしたわ」
「ありがとうございます。今日はギルド長にお会いしたくて来ました」
「まあ、約束はあるのかしら」
「いえ、でも、『 メリルの子羊』が来ていると、伝えてもらえれば」
「メリルの子羊?……あ、少し待ってね」
「伝わるかな」
「うちのギルド長と仲がいいのであれば……」
「あなたたち、すぐに会ってくれるって。よかったわね」
「はい、ありがとうございます」
「ギルド長の部屋は2階よ」
トントン。
「入れ」
カチャ。
「ほう、ランチをやるのはメリルの四姉妹と聞いたが」
「今回は正式な依頼ではないので」
「では、なにゆえ来た」
シースのギルド長は、40は過ぎている、落ち着いた人だった。セロが話し出す。
「今回、オレたちは海を見に来たんです」
「海を……はっ、変わっているな」
「オレたちは冒険者、この子たちは荷物持ち。来年組むパーティのために修行中ですが、行ったことのない所に行きたくて」
「ほう」
「この町に1ヶ月います。途中でオレたちのような孤児がいることに気づいて」
「最近、孤児たちの面倒を見ている若い冒険者がいると聞いてはいたが、君たちだったか」
「はい。4年前のオレたちとおんなじ状況でした」
「しかし、孤児たちだけに手をかけるわけにもいかん。ここはメリルと同じ、辺境の吹きだまりだ。漁業で栄えてはいるが、裕福でもない。そもそもここはギルドだしな」
「はい。けど、希望がないわけではないんです。ここには孤児にもできる仕事があり、なんとか住むところもある。あとはやり方なんです」
「やり方とはどういう」
「孤児は荷物持ちが2人、解体所が3人、合わせて1日3000ギルは稼ぐ」
「それは少ないな……」
「けど、パンを10個買って、野菜と干し肉を買えば、10人分1日2000ギルで食費がまかなえる」
「なんと、そんなものか」
「でも、それは料理が作れる前提なんです」
「作れないのか」
「親から教わる前に孤児になる」
「うーむ」
「生きていくのに精いっぱいで、未来を考える余裕がない。お金はあれば使ってしまう」
「でも君たちは……」
「オレたちにはアーシュがいました」
「アーシュ、ああ、黒髪の、君か、4年前?そんなに幼い頃にか」
「料理を作り、お金を管理し、冒険者としての未来を見せてくれた」
「ふーむ」
「孤児は、冒険者を目指す。冒険者が増えることは、ギルドのためでもあります」
「そう来たか」
「だから、今度のギルド長会議で、メリルの子羊をシースに要請してください」
「……なぜそうなる?去年はムリだと断わられた。こちらとしては願ってもないことだが」
「朝食、ランチ要員として孤児も雇います」
「……なるほど」
「仕事があれば、食べて行ける。従業員には、朝食、ランチはサービスだから、体づくりもできる。ギルドで作るから、冒険者にもなじみ、訓練にも参加しやすい」
「しかし子どもにできるのか」
「もちろん、大人も雇います。子どもの給料は解体所と同じでいいし、大人にはしっかり払います。メリルは別として、メルシェでは子どもも働いています」
「それならば、行けるか。しかしそれだけではないのだろう」
「はい。メリルの子羊の臨時派遣の条件として、孤児たちにもう少しちゃんとした家を用意してほしいんです」
「確かにあれはひどいが……」
「屋根と壁さえしっかりしていればいいのですが」
「ギルドの家作りに使っていないものがあったな……従業員寮として扱えば……」
「いけそうですか」
「ベッドなどは用意できないぞ」
「外側だけで十分です。すぐに用意できますか。冬をあそこで過ごさせるのはさすがにきつい」
「わかった」
「あと一週間いて、孤児の家を整え、生活の形を落ち着かせます。その後メリルにもどって、ギルド長にシースの依頼を受けるよう、お願いしてきます。会議で許可がでたら、2の月までに戻ってきます」
「お、おう、めまぐるしいな」
「その間、荷物持ちの子の訓練をお願いできないでしょうか」
「若い子を育てる仕組み、ということか」
「今回に限らないと思うんです。荷物持ちが力のある冒険者になれば」
「ギルドのためになる、か」
「はい」
「わかった。朝食とランチのためなら、手を打とう。正直、メルシェやナッシュがうらやましくてね。冒険者にも突き上げられるし」
「ギルド長、ナッシュやメルシェでは魔法師用に、クッキーの販売もしたんですが評判がよくて」
「君、アーシュ君だったか、それで?」
「試食してみませんか?」
「ほほう、今あるのかね?」
「受付の方もどうでしょうかね、ガガも入れられますよ」
「なんと!子羊亭のか!シースの特産なのに、ここでは飲めんのだよ。それは是非にも!」
「ただの健気な孤児だと思っていましたわ」
「力のある若い子が来ているとは聞いていたんだがな、メリルの子羊とは思わなかった。あの交渉力。さすがに学院の学外生だけのことはある」
「しかも、自分には何の得もないでしょうに」
「仕事があれば、食べて行ける、か」
「それは?」
「セロ君が言っていた。まだ親に甘えている子もいる世代だろうに。しかも、リーダーはあの黒髪の子だ」
「え、あの小さい?」
「4年前だそうだ、食わせてくれて、未来を見せてくれた、と」
「まさか」
「シースとしては、朝食とランチが整い、孤児が自立する。いうことはない」
「そうですわね」
「海に、感謝しよう」
「海に?」
「彼らは、海を見に来たそうだ」
「まあ」




