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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
飛び出す子羊編

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113/307

アーシュ11歳11の月

今日3話目です。

「では、行ってきます」

「お前らホントに自由になったな。普通荷物持ちは移動しねえぞ」

「あちこち派遣されてるから」

「それを言われるとな、まあ、シースは暖かいが、体には気をつけろ」

「「「「はい!」」」」


まずはメルシェまで3日。セロとウィルは、護衛も兼ねた冒険者割引で馬車に乗る。私とマルはお客さんだ。わずかに残る緑も寒々しいが、初冬の澄んだ空気を楽しみながらメルシェについた。ギルド長にあいさつし、ダンに頼まれていたお茶類の仕入れを整理し、すぐにシースに旅立った。シースはメルシェから南に馬車で3日。冬なのに次第に暖かくなる不思議な移動は、2日目の乾燥地帯を抜けて、やっと終わる。


砂だらけの私たちは、まずはギルドに向かった。セロとウィルの後を、マルと手をつないで歩く。ギルドで宿の紹介を頼むと


「安いところでも、1泊1人3000ギルなのよ。妹さんを連れてたら、雑魚寝は難しいわよね」

「え?いや、大丈夫……」

「なんとかなる?じゃあ、ちょうどいいところを紹介してあげる。冒険者よね、明日からしっかり稼ぐのよ」


と励まされていた。


ポカンと口を開ける私たちに、ますますあわれむような視線が突き刺さる。


「親がいないのね、妹をつれて冒険者だなんて、泣けるわ」

「ちゃんといいところ紹介した?」

「安くておいしい女将さんのところよ」

「あそこなら大丈夫ね」


急いでギルドを飛び出し、顔を見合わせる。


「何も間違ってはいない。妹だし、孤児だし、冒険者だし、親切だし」

「でも、なんか違うんだ」

「オレ、なんかいたたまれなくて」


おかしいやら、切ないやら、荷物持ちが旅に出ないって、こういうことか。子どもは、旅をしないんだ。する子は、訳ありってことか。とにかく、宿に向かおう。


「いらっしゃい!おや、冒険者、妹づれかい、親はどうしたんだい、いない?宿代は大丈夫かい?前払いでもいいって、まあ、後でもいいけどさ。四人部屋がいいかね、そうかね、じゃあ娘に案内させるよ、ジェシカ!」

「はーい」

「冒険者だとさ、2階の四人部屋に案内しとくれ」

「はーい、どうぞ」


「あたしジェシカ、11歳なの。あんたたちは?」

「「11歳」」

「おんなじだね!ねえ、夕方なら少し遊べるんだ、後で遊びに行かない?。港を案内するよ?兄さんたちも一緒にさ」

「「いい?」」

「いいよ、オレたちもいいのか」

「いいよ、後で呼びに来るね。はい、ここ。ご飯は夜と朝でいい?食べる所は食堂ね」

「ありがとう」


四人部屋は狭いけれど清潔だった。これで1泊3000ギルなら悪くない。休んでいるとすぐに迎えが来た。


「わあー、海だ!」

「船だ!」

「海のにおいがする」

「港は初めて?」

「うん、メリルから来たの。山だから」

「遠くから来たんだねえ、まだしばらくいるんならさ、釣りも教えたげる」

「ホントに?やったー!」

「あ、ねえ、みんなー、宿のお客なんだけどさー、しばらくいるって、遊んだげてー」

「おー、お前らどこから来たんだ?冒険者?すげーな、オレらは港で手伝いしてんだ」

「よろしくな」

「おう!なあ船見に行こうぜ」

「「うん!」」


こうしてジェシカのおかげで、あっという間にシースになじんだ。朝は早くに起き、ギルドで訓練し、朝ごはんを食べ、ダンジョンに行き、早めに上がってジェシカやみんなと遊ぶ。セロやウィルまで、夕方はみんなと遊んだり釣りをしたりした。それは当たり前の生活なんだけれど、当たり前ではなかった。誰も自分たちを知らない。ただの孤児で、冒険者の兄妹。ただの子どもでいられた。そこには自由があった。


「あっ、痛っ」

「おねえちゃん、ごめんね、大丈夫だった?」

「大丈夫、あなたは?」

「へーきだよ、じゃあね!」


「……」

「シースにも、孤児がいるんだな」


気がついてはいた。毎日ギルドに向かう時、荷物持ちの孤児を見送る小さい子どもたち、解体所に向かう子どもたち、ギルドから帰ってくる時、大事そうに黒パンを買って帰る子たち、うれしげに待つ子たち。


「やせてた……」

「4年前のマルたちと同じ……」


「あんたたちは兄さんが冒険者だからいいけどね、あの子たちは大きい子で11歳なんだよ」

「何人いるの?」

「今、10人くらいかね、こことメルシェとメリルはギルド長が仲良くてね、解体所で孤児を雇ってるんだけど、なかなかね」

「大して稼げないよね」

「みんなも何とかしてやりたいと思ってんだけど、何をしていいかわかんないんだよ、裕福でもないしねえ」

「住むところは……」

「ギルドの先のあばら家にね」


セロがギュッと手を握る。

「明日からさ、荷物持ち、別の人と行ってくれるか」

「セロ、いいよ、あの子たち連れていくの?」

「少しようすを見てみたいんだ」


もうただの子どもでは、いられない。


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