アーシュ11歳10の月
今日2話目です。
メリルに戻ってからは、通常の荷物持ちの他に、朝の訓練として魔法師の卵の面倒も見るようになった。と言っても相手も10歳11歳だ。しょっぱなからバカにされていたが、魔法の訓練1発見せて黙らせた。
今でこそ魔力の扱いは緻密だが、幼い頃は全然わからなかった。体の中のモヤモヤをなんとか外に出そうとして思いついたのがこの方法だ。
「はーい、桶に水をたっぷり入れてきて」
「罰ゲームかよ」
「違いまーす。いうことを聞かないとつぶてに巻き込もうかなー」
「っ、いってきます」
「はは、アーシュ容赦ないな」
「だってウィル、あいつら同いどしなのに小さいからってバカにするし」
「もうそんなに小さくないよな」
「ウィル、わかる?」
「わかるわかる。ちょっと小さめなだけだよな?」
「小さいって言ってるのと同じじゃん!」
「ははは、あ、戻ってきたぜ」
「持ってきたぜ」
「じゃあね、ひじまで手を水につけてみて?」
「こう、か?」
「そう。目をつぶって、腕をつたう水滴を数えてみて。ほら、指先から落ちてきた」
「うん、1つ、2つ、3つ」
「じゃあ、体の魔力わかる?」
「うん、モヤモヤ」
「数えながらね」
「4つ、5つ、うん、モヤモヤ」
「それを水滴にまとわせて」
「うん?」
「水滴に汗が交じるように、モヤモヤが交じるように」
「うん」
「さあ、また水につけてみて」
「うん、1つ、2つ、うん、混じってきた」
「そう、いいね、3つ、4つ、5つ」
「あ」
「ウィル、しっ」
「6つ、7つ、8つ、9つ、10、11、12、あれ?」
「もう、水滴はないよ」
「じゃあこれは?」
「君が出した水だよ」
「え、え?」
「さあ、水につけたつもりで、指先からモヤモヤがしたたる、さあ、数えて」
「うん、1つ、2つ、3つ」
「目をあけて」
「4つ、5つ、あ、出てる」
「続けて」
「6つ、7つ」
「はい、さあ、手をお椀にして?」
「はい」
「モヤモヤが手の中に集まる」
「集まってきた」
「水に変わる」
「水に、!」
「ほらね」
「できた!」
メリダの人は、魔力がないということがわからない。だから教えられない。息を吸うように魔力を使う。だからわからない子は結構苦労するのだった。こんなふうにして、魔力が扱えるようになると、そこからは早かった。
「こんなやり方があるとはなあ」
「魔力って意外と意識しないから」
「確かにな、お前、だから扱いが最初からうまかったのか」
「わからなかったから、わかったらおもしろかったの」
「不思議なやつだな」
「へへ」
マリアも学校の先生と相談して、学校に来られない子の教育に乗り出した。働かないと食べられない子もいる。そんな子は、夕方や夜に勉強できるように、仕組みを整えていった。
毎日こられるわけではない。教科書も持っていない。私たちがダンに教わり、お互いに教えあったように、先に学んだ子が後の子に教える。1日でも先に進んでいれば、それは可能だ。先生は、それをサポートするだけ。
ダンのように、学校に通っている子も先生として招くことによって、学校の子どもたちの学力も上がる。メリルではもう、孤児に対する偏見はほとんどなくなっていた。すぐにできなくてもいい。少しずつ学校の仕組みは整ってきた。
「それじゃあ、そろそろシースに行ってみないか?」
「「「行こう!」」」
初めての、4人だけの旅が始まる。




