アーシュ11歳9の月メリル
短めです。
「また1年後になるのか。さみしくなるな」
「リカルドさん、すぐですよ」
「アーシュちゃん、石けんの売上も好調だからね、少しゆっくりして、変な大人を引っ掛けないようにね」
「おじさん、ゆっくりしたいっていつも思ってるんですよ」
「なぜか忙しくなっちゃうんだよな」
「セロ君、みんなのためにも、アーシュちゃんには気をつけてあげてね」
「はい!ダンにもよろしく」
「もちろんだよ」
まだ秋とはいえない草原は、それでも夏の緑とはもう言えず、しおしおとうなだれ始め、夜には虫の声がした。すべてが解決したとは言えないが、当分近寄らなければもめごともないだろう。クランでの滞在でちゃっかりと実力を上げていた面々は、来年の3の月までをどう過ごすかで胸を弾ませていた。
ニコとウィルとブランは、
「ほんとはそろそろオルドに戻ってみたかったんだが、あいつがいるんじゃな」
「オーガダンジョンか。強いのか?」
「オルドは剣士だらけだぞ。それも屈強な」
「最初から最後まで人型の魔物だ。知能も高いし、相当心が削られるらしい。剣士としてこれほど力を発揮できるところはない。魔法師にはつらいところだな」
「あいつならなんてことないだろ」
「残念ながらな」
セロは、
「冬になる前に、シースに行ってみたい」
「シース。なんで?」
「海が見たいんだ」
「海!行きたい」
「マルも。魚が食べたい」
「魚!あれ、マル、肉派じゃない?」
「肉は別格。魚も好き」
「行くか?」
「「行こう」」
となった。
マリアとソフィーは
「私はね、来年までの学院の宿題に、教育学を取ったの。メリルも工場ができて、人も増えてきたでしょ。学校に行けない子もちらほら出てきてるわ。私たちの頃はダンが見てくれたけど、今は誰もいない。子どもたちを見てあげたいの」
「私は宿やの手伝いをがんばるつもり」
という。
メリルに戻ると、
「よう、グレアムから手紙が届いてたわ。せっかく中央ギルドから遠ざけてたのによ」
「ジュストなんとかしてくださいよ」
「手に負えねえ、うっとおしい後輩なんだよ。魔法師としてはめちゃくちゃ優秀なんだがな」
「肝心のアーシュがピンと来てなくて、危機感薄いったらないんだ」
「遠ざけとけ。それしかねえ」
「ところで、アーシュ、ウィル、セロ、マル」
「ギルド長、なんですか、珍しい呼び方で」
「あー、まあな、ちょっと頼みたいことがあってな」
「いつもみたいに頼めばいいのに」
「そろそろ、後輩の指導をしてほしいんだよ。特に魔法師」
「ギルド長は?」
「ホントはオレは忙しいんだよ。最近生活魔法もろくにできねえ奴らが来ててな……」
「珍しいですね」
「魔力が多すぎんだろ、調整が難しいらしい」
「それなら私が役に立つかも」
「アーシュがか?」
「私も最初苦労したから」
「そうなのか?オレはなかったな」
「ウィルは何でもそうだねえ」
「なんか何でもできるんだよ、オレは」
「ヒューヒュー」
「そして何でも頼まれちゃう、と」
「すまん、頼むわ」
日常が戻ってきた。




