アーシュ11歳8の月王都の翼始末記
アーシュが倒れて寝てしまってから、クランが謝りに来るまでの顛末です。
次の朝、目覚めると学院の寮だった。
「あれ、なんで?あ、ラスカ、あ、リボンは!」
「ラスカはやっつけた。リボンはここに」
「マル、おはよ、あとありがと。なんかザラザラする」
「昨日お風呂入らないで寝ちゃったから。ご飯もらってあるから、食べたらお風呂借りに行こう」
「わあ、お腹すいてたんだ」
「そしたらテスト勉強する」
「あ!明日からか。そしたらまたクランかー、疲れるなー」
「もう行かなくてよくなった」
「え、いいの?」
「もともとジュストのわがまま。お腹すいてまで行く義理はない」
「そうか、なんかジュストの言うことって、聞かなきゃいけない気がするんだよね。みんなはいいの?」
「クランの若い子、弱かった。相手にならない」
「じゃあ、いいか。勉強しに来たんだしね」
お腹いっぱい食べて、さっぱりしてから、みんなで集まった。ニコとブランは西ギルドに行っている。
「アーシュ、どう?」
「ん、セロ、よく寝たから大丈夫。リボンありがと」
「まだあるからな、でも無茶するなよ」
「無茶させられたんだよ、でも女子怖いねー」
「キーキーしてたな」
「そうか?アーシュのことうらやましかっただけだろ?直接手が出てくるうちはマシだろ」
「うん、ウィル、そうかも。ジュストがちゃんと目をかけてあげれば不満も起きないのにね」
「若いグループはほっておかれてたもんな。オレ、カッシュから結構不満聞いたぜ。なかなかダンジョンに挑戦させてもらえないって」
「自分で決められないの?」
「いつアタック要員に選ばれるかわからないからってさ」
「なるほど、クランなんていいことないような気がするな」
「そうだな、さ、勉強するか」
「「「はーい」」」
ニコとブランは、今日はダンジョンに行ってはいなかった。
「というわけで、学院に戻させました」
「そうか、ニコ君、ブラン君、ありがとう。大変だったな」
「オレたちはそれなりに勉強になった。中央のダンジョンは初めてだったし。クランにも別に言うところはない。無関係ならば。またアーシュを巻き込むようであれば、今度は別です」
「グレッグとも相談して、中央は避けさせてたんだが」
「ナッシュで1度目をつけられたのが失敗でした」
「多少強引とはいえ、同意がなかった訳ではないし、クランの下っ端の独走とも取れるから、責任が問えるわけでもない。とにかく、東とも情報は共有しておく。あとは受付に話を流せば……」
「では、オレたちはグリッター商会に行ってきます」
「うむ。子羊の力の一端を知るのもクランにはいい薬になるだろう、よろしく伝えてくれ」
「ふうん、そんなことになってたとはねえ」
「すみません、ダンのところに行きたがっていたのに」
「アーシュちゃんは、よく変な大人をひっかけてくるよねえ。それだけ魅力があるんだろうけど」
「大人はアーシュに無理をさせる」
「おやおや。でも、アーシュちゃんをバカにする事は、グリッター商会をバカにすること。少し痛い目を見せましょうかね、いや、長期的には、内部にがっちり入り込むことが得策か……」
「どんな形であれ、謝罪に来るまでは王都に滞在したいです」
「それまでぜひうちに泊まってくれ」
「ありがとうございます」
「セロ、子羊関係には話を通してきた。グリッター商会は動くが、ギルドは動かない」
「要は冒険者同士のもめごとだからな、期待はしていない。ありがとう、ニコ、ブラン」
「あとはオレたちにできることは」
「ウィル、若いやつの切り崩しだな」
「『 涌き』が終わったら少し連れ出すか、基本的には自由行動だろ?メリルに来てたやつらもいたし」
「快適で強くなるダンジョン暮らしの体験か?」
「有効だろ」
「謝罪に来るかな」
「あそこの問題は、ジュストじゃない。団長だ。今回のこともよくわかってないぞ。『 涌き』の邪魔されたくらいにしか思ってないし、何より団員もどうでもいいと思ってる」
「それはジュストもだな」
「2人に引かれて集まってきて、大きくなりすぎた張りぼてか」
「ほっといてもいずれダメになる」
「それまで、上層部とはかかわらないようにする」
「わかった」
王都の翼では、
「石けんが届かない?どうなってるんだ」
「レーションもだ。買い出しに行ってきてるのか?売り切れ?西も東もか、そんなバカな…」
となっていた。
「ジュスト、どうした」
「小羊亭が、予約できないんだよね、僕の癒しなのにさ」
「それで不機嫌か。しかし最近、細かいことがうまく回らないな。涌きが終ったからいいようなものの、けが人も増えてるし……」
「アーシュ君がいてくれればなあ」
「黒髪の子か、ラスカを倒した、メリルの子羊とかなんとか。なんか小さいのがすごく怒ってたな」
「謝りに行ったの?」
「は?お前の不始末だろ。子羊亭にも何かやったんじゃないのか」
「まさか。あ」
「心当たりか」
「あー、子羊亭のオーナー、アーシュの友だちだった。確かギルドのお茶も手がけてた、グリッター商会の子……」
「あれもメリルの子羊か!レーションは!」
「それもメリルの子羊だ……」
「お前、しばらくオルド行ってろ」
「何でだよ」
「お前のせいでトラブルになったんだぞ、反省の姿勢だ」
「ちぇ、オルドは飯がまずいんだよ」
「自業自得だ」
「王都も飽きたしー行ってくるか」
「しばらく子羊には近づくなよ」
「でもね、来年アーシュ君、冒険者になるんだよ。一緒にダンジョン行きたいな」
「近づくなよ。仕方ない、謝りに行くか」




