アーシュ11歳8の月王都の翼へ
今日2話目です。
そうして学院2年目が始まった。今年は2年生の授業を一週間でしっかりやり、2週目から3年生の授業をやることになった。去年の秋から時間のあった私たちは、3年分の予習をしっかり終えていた。
「アーシュ君、久しぶりじゃのう。帝国語の本はしっかり読んだかの」
「はい、暗記するくらい!みんなで読みました」
「よいよい、今年はもっと難しいのを渡すかの」
「おもしろい話もあるといいです」
「ほう、では恋愛小説などもあるが、まだ早いじゃろうか」
「アーシュには早くても私たちが読みますから」
「ほほう、ソフィー君、ではいろいろ取りそろえますかな」
おじいちゃん先生は健在だった。去年の同級生たちも放課後集まってくれて、恒例のクラブ交流も毎日のように行われた。ダンの店には行けなかったが、ダンもザッシュもクリフも暇があれば顔を出してくれた。
「王都の翼?そりゃすごい!冒険者じゃない学院生にとっても憧れだぜ?ジュスト?副団長じゃん。気まぐれでおそろしく強くて見た目もいいって、ダンの店の常連だから、わざわざ見に行くやつまでいるくらいなんだよ」
「ナッシュ以来、よく来るようになってね。大切な話の時は、父さんの店に行ってるみたいだけど、休みの日は結構来てる」
そうなんだ。ただの変な人かと思ってた。
「いや、リカルドとディーエも人気なんだぞ?グレアムさんとかコナーさんも」
若い人はいないの?
「若い人って……ノアさんたちは人気」
そうだよね。あ、ちょっと先生にお茶入れてくる!
「ザッシュ、一緒に行きたくないか」
「オレ?オレもクリフも、冒険者で頂点は目指してないからな。自分たちのペースでいい。正直、王都の翼の若いやつはヤバイ」
「おどかすなよ、ザッシュ」
「悪い、セロ、けど覚えとけ、あいつらプライドすげー高いぞ」
「力は?」
「メリル出にかなう同世代はいない、とだけ言っとく。強くないのに、プライドだけ高いんだ。純粋培養って恐いよな。王都の翼に入れただけで満足してるように見える」
「じゃあオレたち」
「たぶん、活入れに誘われたんだろうな」
「オレらはいい、マルもな、けどアーシュは……」
「そんなに弱くはないだろ、むしろ魔法なら無双だろ?」
「もう、剣でもそうそう負けない。そうじゃなくて、人の悪意に疎いんだよ」
「あー、まあな、あいつ親に大事に育てられてるからな」
「だろ?」
「だが、いつまでも手の中に囲ってはおけないぞ」
「わかってる、つもりではいる」
「ま、目は離すなよ」
「そうする」
「副校長、そろそろ会議です」
「夏だけなのが惜しいのう」
「夏だけでも、学院がずいぶん活気づいていますよ。ダン君やザッシュ君、クリフ君がいるだけでも普段みんなのやる気が違いますから」
「やりたいことをやること、努力することを恥ずかしがらない態度は、この年頃の若者たちには貴重じゃからの」
「この世代の学院生は、みんな国を動かす人材になるような気がします」
「そうだといいが。メリダは良い国じゃが、少々停滞気味じゃからのう」
そして5の日の夕方、ルカさんも一緒に本当に迎えに来た。
「準備はできてるかい」
「マリア、ソフィー、行ってきます」
「私たちダンのお店を手伝ってるからね」
「気をつけて」
「「よろしくお願いします」」
「おや、ダン君、そして君、ああ、メリルの鷹と狼か、まだ飛んでいたのかい」
「子羊たちがいる限り」
「取って食いやしないよ、ただ気持ちよくダンジョンにもぐりたいだけさ。東西のギルド長にも釘をさされたんだよ。どれだけ守護者がいるんだか。7の日の夜にはちゃんとお返しするよ」
「待っています」
「アーシュ君、ナッシュでお菓子をはやらせたんだって?」
「ルカさん、魔法師の人は甘いもの好きですよね」
「魔法を使うと疲れちゃうんだよ」
「まだ冒険者じゃないから、疲れるほど使ったことないや」
「いずれわかるよ、そのお菓子持ってない?」
「ふふふ、持ってますよ、コレ、はい」
「やった!」
「ちょ、ルカ、ずるいよ、アーシュ君、僕にもちょうだい」
「マルも」
「はい、どうぞ、今日もお疲れさまでした」
「「「おいしい」」」
「マル君、君も緊張感ないね」
「緊張する理由がない」
「これなら心配ないね……」
「何?」
「いや、何でもない」
今日、明日とクランの宿舎に泊まるそうだ。ご飯はおいしいかな?そんなふうに、のんきに考えていた。




